|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月22日21時00分 福井県越前岬沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船登龍丸 総トン数 14トン 全長 21.50メートル 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
360キロワット 回転数
毎分1,800 3 事実の経過 登龍丸は、昭和52年11月に進水した、小型底びき網漁業及びいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成6年11月に換装して新たに搭載されたヤンマーディーゼル株式会杜製6LA−ST型ディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダには船首側から順番号が付されていた。 また、主機船首側の動力取出軸には、常時駆動されるベルト駆動の交流発電機、24ボルト充電用発電機及び操舵機油圧ポンプを連結していたほか、最先端部に空気クラッチを介して漁労用油圧ポンプ及び集魚灯用発電機が接続されていた。 主機のクランク軸は、クロムモリブデン鋼(材料記号SCM440)製の一体鍛造型で、全長1,404.5ミリメートル(以下「ミリ」という。)、ジャーナル径120ミリ、クランクピン径97ミリ及びアーム厚さ36ミリであった。 主機の据付けは、台板両舷の前部及び後部の四隅に設けられた据付け用の足台を、木材にFRPを積層させて強化したうえ頂面に厚鋼板が敷かれた、逆転減速機と共通の機関台に固定させる構造となっており、各足台と機関台との間には、U字型の切欠きを有する厚さ12ミリばかりのフートライナを入れ、その上に薄板の調整ライナ数枚を挟み、ねじの呼びM20、全長160ミリの据付けボルトを、各足台ごとに2本機関台の下から挿入し、足台の上から二重ナットにより締め付けて固定する仕組みとなっていた。 A受審人は、船主である兄のBが船長をしている登龍丸に、平成3年6月機関長として乗り組み、専ら機関の運転管理に当たっていたが、いか一本釣りび漁期には人手が少なくて済むため兄が下船することがあり、それに伴って同7年5月から雇入れ職名を船長に変更していたもので、機関の整備についてほぼ2年ごとに地元の機関整備業者に依頼しており、同8年8月主機の全ピストン抜きを行うなどの全開放整備を行った。 その後、登龍丸は、底びき網漁に従事したのち、翌9年6月から8月までいか一本釣り漁に、9月から再び底びき網漁に切り替えて連日の操業を繰り返していたところ、機関台の強度低下が加わって主機据付け部の振動が増し、両舷前部の据付けボルト4本が緩み始めて調整ライナが脱落し、同ボルトが更に緩むようになった。 ところで、主機の据付けボルトを締め付ける際は、調整ライナの厚さや枚数によってクランク軸の軸心を調整しながら、クランクアームデフレクションを許容値限度内におさめるよう締め付ける必要があり、クランク軸の軸心が偏移したまま締め付けると、同デフレクションが過大となってクランク軸に繰り返し曲げ応力が作用し、ついには材料疲労が進行して同軸が折損するおそれがあった。 A受審人は、同年10月12日福井県越前漁港小樟地区に係留していた登龍丸の主機を点検した際、両舷前部の据付けボルト4本がいずれも緩んでいるのを認めたが、単に増締めしておけば大丈夫と思い、クランク軸の軸心を調整できるよう、専門的な知識を有する機関整備業者に修理を依頼するなどして同ボルトを適切に締め付けることなく、同日午前中兄に手伝ってもらい、調整ライナが脱落していることにも気付かないまま、緩んでいた据付けボルトを増締めした。 このため、主機は、クランク軸の軸心が大きく偏移し、その後の運転において同軸に繰り返し曲げ応力が作用する状況となった。 こうして、登龍丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、かれいなどの底びき網漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月22日01時40分越前漁港新保地区を発し、越前岬北方沖合のゲンタツ瀬付近の漁場で操業を繰り返したのち、6回目の投網のため、20時10分主機の回転数を毎分1,600にかけて漁場を移動中、21時00分越前岬灯台から真方位318度13.1海里の地点において、材料疲労が進行したクランク軸が5番スロー船首側クランクアーム部で折損し、主機が異音を発した。 当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、海上には小波が立っていた。 A受審人は、主機を低速回転として様子をみたが異音が止まらず、ミスト抜き管からも多量の白煙が出ているのに気付き、運転続行を断念して主機を停止した。 登龍丸は、付近で操業中の同業船に引かれて越前漁港小樟地区に帰着したのち、機関整備業者の手によって調査が行われた結果、前示損傷のほか、5番スロー船首側の主軸受が連れ回りを起こして架構に熱変形を生じていることなどが判明し、のちクランク軸及び架構などを新替えして修理されるとともに、機関台の強化補修がなされた。
(原因) 本件機関損傷は、主機据付けボルトが緩んだ際の措置が不適切で、クランク軸の軸心を調整することなく同ボルトが増締めされ、同軸心が偏移したまま運転が続けられてクランク軸に繰り返し曲げ応力が作用し、材料疲労が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の運転管理に当たり、主機据付けボルトが緩んでいるのを認めた場合、調整ライナによってクランク軸の軸心を調整しながら締め付ける必要があったから、専門的な知識を有する機関整備業者に修理を依頼するなどして同ボルトを適切に締め付けるべき注意義務があった。ところが、同人は、単に増締めしておけば大丈夫と思い、機関整備業者に修理を依頼するなどして同ボルトを適切に締め付けなかった職務上の過失により、クランク軸の軸心を大きく偏移させて同軸を折損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |