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1999年(平成11年)

平成11年神審第28号
    件名
油送船第三十一周宝丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
    指定海難関係人

    損害
ピストン頂部亀裂、3番シリンダのライナ及び連接棒破損や打傷、過給機のタービン翼車が損傷等

    原因
機器製造業者の非破壊検査不十分(主機の鋳造ピストン)

    主文
本件機関損傷は、機器製造業者が、主機の鋳造ピストンの非破壊検査を十分に行っていなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月10日22時40分
福岡県玄界島沖
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三十一周宝丸
総トン数 749トン
全長 75.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,838キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第三十一周宝丸(以下「周宝丸」という。)は、平成6年9月に進水した鋼製油送船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が同年に製造した6N280−EN型ディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側から順番号が付され、減速機を介して最大翼角25度の可変ピッチプロペラを駆動しており、船首側の動力取出軸には増速機とクラッチを介し、補助発電機1台及び貨物油ポンプ2台を連結していた。
主機のピストンは、球状黒鉛鋳鉄(材料記号FCD600)製の一体鋳造型で、頂部とピストンピンボスとの間には潤滑油による強制冷却を行うための同心円状の冷却空洞を設け、ピストンリング3本及びオイルリング1本を装着するようになっていた。

また、周宝丸は、主機及び補機の監視装置として、ヤンマー舶用機関トータル支援システムと称する集中監視システムを採用し、乗組員による通常の船内監視のほか、船舶電話により結ばれた陸上の集中監視センターにおいても24時間体制で監視されており、同センターが機関の異常データを検知した場合には直ちに船側に連絡されるようになっていた。
指定海難関係人R株式会社特機事業本部品質保証部(以下「品質保証部」という。)は、市場サービス課及び品質保証課などを所管しており、市場サービス課が、全国14社の販売専門会社の技術的指導に当たり、販売専門会社からの技術的な要望事項を製造部門にフィードバックさせるとともに、損傷した部品の各種試験を行わせて調査報告書を作成するなどの業務を行っていた。一方、品質保証課では、平成4年に取得したISO9001に基づいた社内の品質管理体制の確立を図るなどの業務を行っており、出荷された製品に品質管理上何らかの問題を生じた場合は、品質保証部が中心となって対処する全社的な再発防止対策も担当していた。

周宝丸は、主として山口県岩国港から熊本県八代港へのガソリン、軽油及び灯油の輸送に従事しているもので、燃料油としてA重油とC重油との比率が6対4の混合油を常時使用する主機の運転状況は、通常航海中の負荷がほとんど連続最大出力の60パーセント以下となるほか、出入港時や荷役中の貨物油ポンプ運転時などには長期間の低負荷運転となることが多く、就航以来、燃焼不良によってカーボンや油かすなどの燃焼残渣物が多量発生し、それに起因すると思われる潤滑油消費量過多などの懸案事項を抱えていた。
この懸案に対し、品質保証部では、ピストンのトップランド部に堆積した燃焼残渣物がピストン上昇時に潤滑油を掻き上げることが、潤滑油消費量を増大させる主因と考え、燃焼残渣物をできるだけ燃焼させて堆積させない対策を検討した結果、トップランド上部の外周を若干削って小さくしたカットバックと称する部分を、現装ピストンに比べてカット幅を約50パーセント増しに、カット長さを約2倍にいずれも大きくした改良型ピストンに取り替えることとした。

ところで、ピストンは、R株式会社の子会社であるS株式会社において1ロット当たり30個ばかり鋳造し、自社の製造部門に送られて仕上げ加工が施されたのち、ピストン加圧標準書に基づき、キズ鋳巣検査と呼ばれる目視による表面検査のほか、超音波計則機器による非破壊検査が行われて出荷されるようになっていた。しかしながら、検査に使用された超音波計測機器には十分な探傷機能がなく、専ら肉厚計測によって欠陥の有無の判別が行われていたうえ、計測点も爆発面の4箇所だけであったことから、何らかの鋳造欠陥が残存する位置によっては、発見できないまま出荷されるおそれがあった。
平成8年9月、周宝丸は、第1種中間検査工事のために入渠し、主機全ピストンを、前示検査を受けて出荷された改良型のピストンに取り替えられたが、非破壊検査が不十分で、ピストン頂部及びピストンピンボス付近に鋳造欠陥が残存しているピストンが、3番シリンダに取り付けられて工事を終え、その後、主機の運転を月間540時間ばかり行いながら石油類の輸送に従事していたところ、熱応力及び爆発燃焼による機械的応力などを繰り返し受けるうち、いつしか3番シリンダのピストン頂部に残存した鋳造欠陥を起点とする亀裂が発生する状況となった。

こうして、周宝丸は、A機関長ほか6人が乗り組み、同9年3月10日11時35分八代港を発し、主機回転数を毎分655、プロペラ翼角を18度に定め、主機駆動の補助発電機を単独で使用して積地の山口県宇部港へ向かって玄界灘を航行中、3番シリンダのピストン頂部の亀裂が進行し、同日22時40分西浦岬灯台から真方位274度1.8海里の地点で、同ピストン頂部が破損して異音を発するとともに回転が低下し、補助発電機がトリップしてブラックアウトとなり、主機が停止した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
自室で休息していた機関長は、主機が停止したのに気付いて機関室に急行し、主発電機を始動して電源を復帰したのち、前示集中監視センターから3番シリンダ排気温度の異状を検知した旨の連絡も受け、主機各部を点検したところ、3番シリンダ吸・排気弁のコッタが外れてバルブローテータが脱落しているのを認め、同シリンダヘッドを開放してピストン頂部に穴が開いているのを発見したことから、主樹使用不能と判断し船舶所有者に曳航の手配を依頼した。

周宝丸は、引船によって山口県下関港に引き付けられ、同港で品質保証部の手により主機各部を精査したところ、前示損傷のほか、3番シリンダのライナ及び連接棒にも破損片による破損や打傷が発生しており、過給機のタービン翼車が損傷していることも判明し、のち損傷箇所はいずれも修理され、全ピストンが新替えされた。
品質保証部は、運転時間2,500時間足らずの改良型ピストンが破損するという重大事故が発生したため、同部が中心となって徹底した事故原因の究明に当たり、自社に持ち帰った損傷ピストン各部の寸法実測値がいずれも設計値より厚いことが判明したほか、同ピストンから採取した試験片を引張り試験などによって調査した結果、引け巣と呼ばれる金属溶湯の凝固収縮により生じる粗い内壁を持つ空洞状の鋳造欠陥が同試験片にもあったことから、ピストンの破損は、同頂部にも同種の鋳造欠陥が残存していたことによるものとの結論に達した。

そこで、品質保証部は、このような鋳造欠陥を見落とさないよう、自動化されたより精度の高い超音波計測機器を導入するとともに、計測箇所をピストン爆発面だけでなくリング溝近辺にも広げ、計測点も大幅に増やしてよりきめ細かく検査するように改善し、鋳造を行っている子会社に対しては、1ロットごとにピストンを分割して検査する確正試験を行うよう指導するなど、同種事故再発防止のための対策を講じた。

(原因)
本件機関損傷は、機器製造業者が、子会杜に鋳造させた主機ピストンを自社の製造部門で加工したのち検査する際、非破壊検査が不十分で、十分な探傷機能がなく肉厚計測しかできない超音波計測機器を使用した計測箇所の少ない方法で検査が行われ、ピストン頂部に残存していた鋳造欠陥が発見できないまま出荷し、運転中、同ピストン頂部の鋳造欠陥を起点として生じた亀裂が進行したことによって発生したものである。


(指定海難関係人の所為)
品質保証部が、子会社に鋳造させたピストンを自社の製造部門で加工したのち検査するに当たり、探傷機能がなく肉厚計測しかできない超音波計測機器を使用した計測箇所の少ない方法で非破壊検査を行わせていたことは、本件発生の原因となる。
品質保証部に対しては、事故原因を究明して同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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