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1999年(平成11年)

平成11年横審第68号
    件名
旅客船にしき2機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、猪俣貞稔、河本和夫
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:にしき2機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
連接棒とピストンが落下してシリンダライナ下部が破損、クランク軸、シリンダブロック、ピストン仕組、シリンダライナ等損傷

    原因
連接棒ボルトの締付け確認不十分、機関整備業者の整備指導不十分

    主文
本件機関損傷は、検査入渠工事に際して連接棒ボルトの締付け確認が不十分で、同ボルトが締付け不足のまま運転されたことによって発生したものである。
機関整備業者が、作業員に対する連接棒ボルト締付け後の合いマーク確認の指導が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月29日08時38分
伊豆諸島東部
2 船舶の要目
船種船名 旅客船にしき2
総トン数 59トン
全長 23.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分1,850
3 事実の経過
にしき2は、平成7年1月に進水した、東京都新島村の式根島と新島との間で定期旅客航路に就航するFRP製旅客船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した12LAK−ST1型と称するディーゼル機関を2基装備していた。
主機は、90度V型配置のシリンダに、右列及び左列とも船首側を1番として6番までの番号が付され、両列の相対するシリンダの連接棒が同一クランクピンに前後して取り付けられ、各クランク腕の下端にバランスウェイトを取り付け、シリンダブロック下部の左舷側には連接棒大端部の取扱いのためのクランク室窓が設けられていた。

連接棒は、大端部が斜め割りで、連接棒キャップとの合わせ面がセレーション加工され、同合わせ面に連接棒ボルトのねじ穴があけられ、薄肉メタルを装着してクランクピンを抱いた同キャップの下部から左右舷に各1本の連接棒ボルトが締め込まれていた。
連接棒ボルトは、クロムモリブデン鋼製で、頭部と連接棒キャップには右舷又は左舷の識別を兼ねて、締付け位置の合いマークが1本又は2本の線で刻印されていた。また、メーカー作成の締付けトルク表では、締付けトルクを10、25及び45キログラムメートルの3段階に増加して右舷及び左舷のものを交互に締め付けるよう規定されていた。
指定海難関係人R株式会社中部支社(平成11年7月21日S株式会社から商号変更)市場サービス部(以下「R西日本」という。)は、静岡、愛知及び三重の各県内にある支店と特約店の技術的指導にあたっており、同社がにしき2の主機及び補機を納入したのち、現地への定期訪問によるメンテナンスサービスを東静岡支店に担当させ、本船の就航後最初の検査入渠に際しても、保証工事を兼ねて開放整備作業を受注し、同支店から作業員を派遣した。

ところで、R西日本は、各支店から派遣する作業員について、基礎研修のほか新型機種の販売時に行われる研修で教育し、各支店の上司に技術レベルを判断させていたが、メーカーが各機種毎に作成した整備マニュアルに規定されている内容を各作業員が習得しているものとして、連接棒ボルトの締付けを規定のトルクで締め付けたあと、合いマークの確認をするよう十分に指導していなかった。
にしき2は、平成8年2月下旬、第1種中間検査のため神奈川県横浜市内の造船所に入渠し、東静岡支店の技師長を含む作業員3人が両舷主機と補機の開放整備を1人ずつ分担して当たり、主機については継続検査表に従って右舷機の左列1番から3番シリンダの、また左舷機の右列1番から3番シリンダのピストン及びシリンダライナが抜き出され、受検ののち組み立てられたが、左舷機を担当した作業員が連接棒を組み立てる際に標準工具としてのトルクレンチを用いながらも右列3番の連接棒ボルトを規定の最終段階のトルクまで締め付けなかったかして、合いマークまで締め付けられず、技師長が補機の整備作業を行いながら、左舷機組立てのチェックをした際、連接棒ボルトの合いマークを確認しなかったので、同ボルトが締付け不足のまま試運転が行われた。

A受審人は、にしき2の就航時から機関長として乗船し、交替勤務で乗務と機関の管理に当たり、平成8年の中間検査のための入渠時には造船所で主機等の主要部の開放、組立ての作業及び試運転に立ち会ったが、整備業者が作業を行っているので大丈夫と思い、連接棒ボルトの合いマークを確認せず、その後クランク点検を行わなかったので、左舷機右列3番の連接棒ボルトが締付け不足であることに気付かなかった。
にしき2は、出渠後、前示定期航路と島嶼(とうしょ)間のチャーター便に就いて年間400ないし500時間ほど運転され、平成9年及び同10年の中間検査ではそれぞれ両舷主機の各列の相対するシリンダについて開放整備が行われたが、なおも前示連接棒ボルトの合いマークが点検されず、いつしか左舷機の右列3番の右舷側連接棒ボルトが緩んで抜け出し、連接棒キャップが開いて同ボルトが叩(たた)かれるようになった。

こうして、にしき2は、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客18人を乗せ、船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年9月29日08時15分式根島野伏漁港を発し、両舷主機を回転数毎分1,700の全速力前進にかけて三宅島阿古漁港に向け航行中、左舷機の右列3番連接棒の右舷側連接棒ボルトが疲労して切損し、ほどなく片持ちとなった左舷側連接棒ボルトが千切られ、08時38分式根島港突堤灯台から真方位137度8.9海里の地点において、同機の右列3番ピストンが落下して同スカートがクランク腕下端のバランスウェイトに叩かれ、連接棒がクランク室両側を突き破り、同機が異音を発して自停した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹いていた。
A受審人は、機関室に入って左舷機を、点検し、クランク室が破損して白煙が拡散していたので、同機が運転不能であることを船長に報告した。

にしき2は、右舷機単独で野伏漁港に引き返し、精査の結果、左舷機の右列3番の連接棒とピストンが落下してシリンダライナ下部が破損しており、のち損傷したクランク軸、シリンダブロック、ピストン仕組、シリンダライナ等が取り替えられた。
R西日本は、本件後、作業員に対し連接棒ボルトの締付けのあと、合いマークを確認するよう指導し、またにしき2の運行の合間の整備時などにクランク点検をして締付け状態を確認させることとした。


(原因)
本件機関損傷は、検査入渠でピストン抜き整備ののち主機が組み立てられた際、連接棒ボルトの締付け確認が不十分で、同ボルトが締付け不足のまま運転されたことによって発生したものである。
機関整備業者が、作業員に対する連接棒ボルトの合いマーク確認の指導が不十分で、トルクレンチで締め付ける作業ののち同ボルトの合いマークが一致しているかを確認させず、締付け不足のままとなったことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、主機が検査入渠で開放整備され、復旧作業と試運転に立ち会った場合、連接棒ボルトがトルクレンチで締め付けられていたのであるから、締付けが適切に行われたか、クランク室窓から連接棒ボルトの合いマークを確認すべき注意義務があった。しかし、同人は整備業者が作業を行っているので任せておけば大丈夫と思い、連接棒ボルトの合いマークを確認しなかった職務上の過失により、同ボルトが締付け不足のまま運転が続けられるうちに緩み、連接棒キャップの合わせ面が開いて同ボルトの疲労切損を招き、連接棒とピストンが落下してバランスウェイトに叩かれ、シリンダブロック、クランク軸等が破損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

R西日本が、作業員に対する連接棒ボルト締付け後の合いマーク確認の指導が不十分で、トルクレンチで締め付ける作業ののち同ボルトの合いマークが一致しているかを確認させなかったことは、本件発生の原因となる。
R西日本に対しては、本件後、作業員に対し連接棒ボルトの締付けのあと、合いマークを確認するよう指導していること、運行の合間の整備時などにクランク点検をして締付け状態を確認させている点等に徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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