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1999年(平成11年)

平成11年横審第65号
    件名
漁船第七十八光洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、半間俊士、吉川進
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第七十八光洋丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機B列中間歯車軸取付ボルト折損、B列中間歯車が脱落、B列各シリンダの吸排気弁、プッシュロッドなと損傷

    原因
主機クランク室の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機クランク室の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月5日10時15分
太平洋中西部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八光洋丸
総トン数 349トン
全長 63.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分840
3 事実の経過
七十八光洋丸(以下「光洋丸」という。)は、平成3年5月に進水した大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、静岡県焼津漁港または鹿児島県山川漁港を基地とし、太平洋中西部の東カロリン諸島及びマーシャル諸島付近でかつお、まぐろ漁を行い、1航海が約40日で年間約8航海操業しており、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した12PA5V型ディーゼル機関を据え付け、同機の左舷側シリンダをA列、右舷側シリンダをB列と称し、それぞれの列のシリンダに船尾側を1番として6までの順番号を付し、推進器として最大ピッチ25度の可変ピッチプロペラを装備していた。

主機は、定格出力2,647キロワット同回転数毎分1,000(以下、回転数は毎分のものを示す。)の機関に負荷制限装置を付設して連続最大出力1,912キロワット同回転数840としたもので、いつしか負荷制限装置が取り外され、全速力前進をプロペラピッチ17.5度、回転数930とし、年間約6,000時間運転されていた。
主機の歯車装置は、シリンダブロックの船首側にクランク室と壁で隔てられた区画内にあって、クランク軸からクランク歯車A、B列各中間歯車承びカム歯車を介して各列のカム軸及び各ポンプを駆動するもので、中間歯車は内周にころ軸受が装着されて中間歯車軸にはめ込まれ、同軸がクランク室との隔壁に、クランク室側から貫通ボルト(以下「中間歯車軸取付ボルト」という。)2本で取り付けられていた。
中間歯車軸取付ボルトは、呼び径24ミリメートルで、ロックタイト242と称する緩み防止用接着剤を塗布のうえ、38キログラムメートルのトルクで締め付けられており、6番シリンダのクランク室ドアから緩みの有無などを点検することができ、取扱説明書で運転時間1,500時間ごとにクランク室を点検するように記載されていた。また、中間歯車のころ軸受は運転時間24,000時間ごとに取り替えるよう記載されていたが就航以来取り替えられたことがなく、中間歯車軸取付ボルトも就航以来取り外されたことがなかった。

A受審人は、平成8年11月機関長として乗り組んで機関の管理に当たり、主機クランク室の点検は2年ごとの定期検査時又は中間検査時に行えばよいものと思い、検査時以外は点検せず、同10年1月中間検査時、入渠工事項目として申請した歯車装置の開放点検か削除されたことから、同装置点検窓及びクランク室ドアからの目視点検を行ったのみで中間車軸取付ボルトを点検せず、同検査以後もクランク室を点検することなく、同ボルトが機関振動などによる座面のなじみで締付トルクが低下して緩みを生じたことに気付かなかった。
こうして光洋丸は、A受審人ほか20人が乗り組み、船首5.0メートル船尾6.0メートルの喫水で、同年6月17日静岡県焼津港を発し、同月27日マーシャル諸島付近の漁場に至って操業を繰り返し、翌7月5日プロペラピッチ17.2度、主機回転数905として運転中、10時15分北緯4度52分東経171度9分の地点において、緩みが進行した主機B列中間歯車軸取付ボルトが6番シリンダの船首側バランスウエイトと接触して折れ、B列中間歯車が脱落するなどして大音を発するとともに主機回転数が急低下した。

当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
機関室に急行したA受審人は、主機が異音を発しているので停止し、クランク室及び歯車装置を点検して前示の損傷を認めた。
この結果、光洋丸は、主機が運転不能となり、僚船によりマーシャル諸島共和国マジュロ港に引き付けられ、主機を精査の結果、前示の損傷のほかB列カム歯車、B列各シリンダのピストンと吸排気弁との衝突による弁、プッシュロッドなどの損傷が認められ、それぞれ損傷部品が新替え修理され、中間歯車軸取付ボルトは材質が変更されて締付トルクが58キログラムメートルに変更された。


(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、主機クランク室の点検が不十分で、中間歯車軸取付ボルトが緩んだまま運転が続けられ、同ボルトの緩みが進行してバランスウエイトと接触したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、クランク室内の中間歯車軸取付ボルトなど各締付け部は、運転中の振動などによる座面のなじみで締付トルクが低下して緩むことがあるから、一定時間運転ごとにクランク室を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、クランク室の点検は2年ごとの検査時に行えばよいものと思い、クランク室を十分に点検しなかった職務上の過失により、中間歯車軸取付ボルトが緩んだまま運転を続けて中間歯車、カム歯車、吸排気弁、プッシュロッドなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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