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1999年(平成11年)

平成11年仙審第24号
    件名
旅客船フロンティア機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:フロンティア機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
2番シリンダのクランクピン軸受メタル焼損、連接棒及びクランク軸損傷、同シリンダのピストン及びシリンダライナにかき傷

    原因
クランクピン軸受温度の点検不十分、整備業者のクランクピン軸受メタルの取付け状態の不確認

    主文
本件機関損傷は、主機試運転時のクランクピン軸受温度の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
整備業者が、連接棒大端部の組立て時にクランクピン軸受メタルの取付け状態を十分に確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月3日09時24分
宮城県小鯖港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フロンティア
総トン数 72トン
全長 24.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 419キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,850(定格回転数)
3 事実の経過
フロンティアは、平成2年3月に進水した、旅客定員120名の鋼製旅客船で、主機として、昭和精機工業株式会社製の6LAK−ST1型と称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え、同機の各シリンダには船首側から順番号が付されていた。
主機の連接棒は、ピストンピン軸受中心からクランクピン軸受中心までの長さが285ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、大端部は、斜め割りセレーション合わせになっており、連接棒キャップを2本のボルトで連接俸大端に取り付けるようになっていた。また、上下二つ割れのクランクピン軸受メタルは、アルミ合金にオーバーレイを施した厚さ2.5ミリの薄肉完成メタルで、各メタルの背面の一端には位置決め用の突起があり、各々の突起が連接棒の大端及びキャップの内周面に設けられた同形状の溝にはまり込むことにより、メタルがずれないような構造となっていた。

なお、主機のクランク室には、左舷側に3シリンダ分一枚形のクランク室ドアが2枚設けられていたが、同ドアには燃料噴射ポンプ用潤滑油タンク等の付属物が取り付けられていたため、それ等を取り外さなければドアを開放することができないようになっていた。
フロンティアは、宮城県小鯖港を基地として、同港と鮪立港、外浜港及び気仙沼港を結ぶ同県気仙沼湾内の定期航路に就航し、毎年4月下旬から11月上旬までは唐桑半島巡りの定期遊覧観光にも従事しており、同10年11月16日第一種中間検査工事の目的で、気仙沼市の造船所に入渠した。
ところで、同工事の一環として主機のピストン抜き作業を行うにあたっては、機関室の天井が低くてチェーンブロック等が利用し難かったので、頂部に抜き出し金具を取り付けたピストンを作業者が直接抽出または挿入して作業を行っていたが、ピストンをシリンダライナに挿入する際、連接棒大端に組み込んだクランクピン軸受メタルがクランクピンに当たるなどしてわずかにずれることがあり、そのまま連接棒キャップを取り付けると、溝からずれたメタル背面の突起によって、メタルの一部がクランクピン側に押されてクランクピンとの軸受間隙が減少するおそれがあった。従って、作業者は、その状態で主機を運転すると、軸受が過熱して焼損するおそれがあるから、連接棒大端部の組立てにあたっては、連接棒の挿入後に目視及び触手で点検するなど、同メタルの取付け状態を十分に確認する必要があった。
指定海難関係人R工業株式会社(以下「R工業」という。)は、舶用機関の修理及び整備を主な業務内容とし、フロンティアの就航以来、本船の主機及び補機の整備を請け負っており、同中間検査の際にも主機の整備を施行した。同社の作業員は、ピストンを抜き出して整備したのち復旧するにあたり、熟練者2人が1組となって、1人が主機上部からピストンを挿入し、他の1人がクランク室ドアから手を差し込んで軸受キャップを取り付けるなどして順次連接棒大端部を組み立てていたところ、2番ピストンを挿入した際に、連接棒大端に取り付けられていたクランクピン軸受メタルがクランクピンに当たるなどしてわずかにずれていたが、同メタルの取付け状態を触手するなどして十分に確認しないまま、連接棒キャップを取り付けてボルトをトルクレンチで締め付け、一連の作業終了後に各連接棒のサイドモーションを確かめターニングを行って、復旧作業を完了した。
同月30日フロンティアは、上架工事の終了後、造船所に係留岸壁がなかったことから、タグボートに曳航されて造船所近くの気仙沼港の岸壁に着岸した。
A受審人は、S株式会社を定年退職したのちも引き続き臨時雇いの機関長として乗船しており、着岸後に、主機を無負荷のまま停止回転数の毎分700として試運転を行ったが、その際、運転中にクランク室を外部から触手点検しただけで、クランク室ドアは取外しが面倒だし今までも問題がなかったから大丈夫と思い、同ドアを開放して直接触手点検するなど、クランクピン軸受温度の点検を十分に行わなかったので、2番シリンダの同軸受が発熱していることに気付かなかった。
こうして、フロンティアは、12月2日に効力試験を受検したのち、A受審人ほか2人が乗り組み、就航準備の目的で、翌3日09時00分気仙沼港の岸壁を発し、主機の回転数を毎分1,400まで増速して小鯖港に向かい、同港防波堤に近づいたので徐々に減速していたところ、主機2番シリンダのクランクピン軸受が過熱して焼損し、09時24分小鯖港小鯖防波堤灯台から真方位277度60メートルの地点において、主機が異音を発した。

当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、入港配置に就くため機関室を出て船首に向かう途中、異音に気付いて直ちに機関室に引き返し、主機2番シリンダ付近から異音が生じているのを確認したものの、音がさほど大きくなかったうえ着岸間近だったので、着岸後に点検するつもりで船首部の入港配置に赴いたが、着岸作業を終えた同時30分ごろ主機が自停したのを認め、ターニングを試みたが回らなかったので、R工業に連絡した。
フロンティアは、R工業によって主機が開放され、精査の結果、2番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼損し、その影響で、連接棒及びクランク軸が損傷していたほか、同シリンダのピストン及びシリンダライナにもかき傷が生じているのが判明したため、のち損傷部品をすべて新替えするなどの修理を行った。

なお、R工業は、本件後に社内で原因を検討し、以前にも連接棒の挿入時に上メタルがクランクピンに当たって回転したことがあったことから、同メタルの取付け状態を十分に確認しないまま大端部を組み立てたことが原因であると判断し、以後、事故の再発を防止するため、ピストンを挿入した際には、目視及び触手点検で、メタルの取付け状態を十分に確認することを全作業員に徹底した。

(原因)
本件機関損傷は、主機のピストン抜き後に試運転を行った際、クランクピン軸受温度の点検が不十分で、メタルがわずかにずれて組み立てられた同軸受が発熱する状態のまま、主機が負荷運転されたことによって発生したものである。
整備業者が、主機を開放整備したのち連接棒大端部を組み立てるにあたり、クランクピン軸受メタルの取付け状態を十分に確認しなかったことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、主機のピストン抜き後に試運転を行う場合、クランクピン軸受メタルがずれたまま組み立てられているとクランク軸を焼損するおそれがあったから、組立て状態に異状がないことを確認できるよう、クランク室ドアを開放して軸受を直接触手するなど、クランクピン軸受温度の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、クランク室ドアは取外しが面倒なうえ今までも問題がなかったので大丈夫と思い、試運転中にクランク室ドアの外側から触手点検しただけで、同軸受温度の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同軸受が発熱していることに気付かないまま、主機を負荷運転して同軸受を焼損させ、クランク軸等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

指定海難関係人R工業が、主機を開放整備したのち連接棒大端部を組み立てるにあたり、クランクピン軸受メタルの取付け状態を十分に確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
指定海難関係人R工業に対しては、本件後に社内で事故原因を検討し、クランクピン軸受メタルの取付け状態を十分に確認することを徹底して事故の再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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