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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月4日20時30分 北海道小樽港北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七十一清和丸 総トン数 108トン 全長 34.70メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 735キロワット 回転数
毎分800 3 事実の経過 第七十一清和丸(以下「清和丸」という。)は、昭和56年8月に進水し、はえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したT220−ET型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機のシリンダには船首側を1番として順に番号を付し、軸系には逆転減速機を備えていた。 主機のクランク軸は、全長2,680ミリメートル(以下「ミリ」という。)、クランクジャーナル、クランクピンの直径がそれぞれ180、170ミリの一体型で、バランスウエイトが、1番シリンダの船首側クランクアーム、3番シリンダの船首・尾側クランクアーム及び6番シリンダの船尾側クランクアームの4箇所に2本のボルトでそれぞれ取り付けられていた。また、バランスウエイトは、鋳鉄製で、その重さが2本のボルトを含めて21.95キログラムであった。 バランスウエイトの取付けボルトは、材質が機械構造用炭素鋼鋼材(材料記号S45C相当)品で、全長153ミリ、ねじ部が呼び径30ミリ、ピッチ2ミリ、長さ50ミリのフランジ付き6角頭の押えボルト(フランジの直径54ミリ、厚さ10ミリ)で、バランスウエイト本体には、ボルトのフランジ肌付け面に接するところに座ぐりが設けてあり、規定のトルクでボルトを締め付けた後、ボルト頭部のフランジとバランスウエイト本体との境界にねじ孔を共加工し、これに呼び径8ミリ、長さ11ミリのセットボルトをねじ込んで回り止めとしていた。 清和丸は、毎年3月から12月までのはえ縄漁期間中、夕方に出港して夜半過ぎに漁場に至り、翌朝から夕方まで揚縄及び投縄作業を繰り返し、漁場を発進して翌々朝に入港水揚げを行い、その日の夕方にまた出港する操業形態で、1、2月の休漁期間に上架して船体及び機関の整備工事を行っていた。 A受審人は、現船舶所有者が平成5年2月に清和丸を中古で購入したときから機関長として乗り組み、操業中、漁獲量が多いときはその処理作業を手伝うが、主として機関室内の巡視、機関日誌の記載などに当たり、また、毎年1、2月の休漁期間中に行われる定期の機関整備工事には立ち会うとともに、機関員と船内の整備作業に当たっていた。 清和丸は、同9年2月に第5回定期検査工事を行い、翌3月からの操業に従事していたところ、主機1番シリンダ船首側クランクアームのバランスウエイトの左舷側取付けボルトは、就航以来のものが使用されていたが、いつしか緩むようになった。 A受審人は、翌10年2月に整備業者による定期の機関整備工事が行われた際、毎日本船に通って同整備工事に立ち会い、主機の主軸受ボルト、連接棒ボルトなどを自ら点検したが、バランスウエイト取付けボルトについては、機関長として乗り組んでから一度も点検していなかったうえに、主機が就航以来長期間使用されていたことから、緩んでいるおそれがあった。ところが、同人は、バランスウエイト取付けボルトが緩むことはあるまいと思い、規定のトルクで締められているかどうかトルクレンチであたったり、回り止めが脱落していないかどうか目視したりするなどの同取付けボルトの点検を十分に行わなかったので、前示バランスウエイトの左舷側取付けボルトが緩んでいることに気付かず、潤滑油の新替え、こし器の掃除、防食亜鉛板の交換などを行って同整備工事を終え、その後の操業に従事していたところ、同取付けボルトは、更に緩むようになった。 こうして清和丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、同年8月3日18時30分小樽港高島漁港区を発し、翌4日03時05分積丹半島北方沖合の漁場に達して操業を開始し、5本のはえ縄の揚収と投入を行い、あまえび約250キログラムを漁獲して操業を終え、16時00分同漁場を発進して水揚げ地に指定された北海道古平町古平漁港へ向け帰途につき、主機を回転数毎分650にかけて全速力で航行中、前示バランスウエイトの左舷側取付けボルトが緩みの進行により脱落し、続いて右舷側の取付けボルトが過大な曲げ力を受けて折損し、20時30分古平港東防波堤灯台から真方位345度2.7海里の地点において、バランスウエイトが台板、架構、調時歯車装置箱などを突き破って主機が大音響を発した。 当時、天候は晴で風がなく、海上は平穏であった。 A受審人は、機関室巡視を終え同室を離れようとして階段を昇っていたとき大音響を聞き、機関室下段に降りたところ主機右舷側の台板、架構などに破口を生じ、床板上に破片が飛び散っているのを認めて主機を停止し、船橋へ運転不能を報告した。 清和丸は、救助を求め、来援した引船に曳航されて小樽港高島漁港区へ引き付けられ、修理業者が各部を点検したところ、前示損傷のほか、1番シリンダの船首側クランクアームに工作されたバランスウエイト左舷側取付けボルト孔のねじ部が磨滅し、シリンダライナ、冷却水入口集合管、冷却水ポンプ及び潤滑油ポンプが破損しており、のちクランク軸、台板、架構などの損傷部品を新替えした。
(原因) 本件機関損傷は、年に一度の定期機関整備工事を行うに当たり、クランク軸バランスウエイトの取付けボルトの点検が不十分で、同取付けボルトが緩んだまま運転を続けて脱落し、残りの取付けボルトが過大な曲げ力を受けたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、年に一度の定期機関整備工事を行う場合、クランク軸バランスウエイトの取付けボルトが長期間点検されずに使用されていて、緩んでいるおそれがあったから、同取付けボルトの緩みを見逃すことのないよう、トルクレンチであたるなどして同取付けボルトの点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、バランスウエイト取付けボルトが緩むことはあるまいと思い、トルクレンチであたるなどの同取付けボルトの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、1番シリンダ船首側クランクアームのバランスウエイトの左舷側取付けボルトが緩んだまま運転を続けて脱落し、残りの取付けボルトが過大な曲げ力を受けて折損する事態を招き、バランスウエイトが脱落して台板、架構、調時歯車装置箱などを破損するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |