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1999年(平成11年)

平成11年函審第30号
    件名
漁船第三十三大彦丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十三大彦丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)
    指定海難関係人

    損害
マンホールパッキンの損傷、2、6番ピストン及び全シリンダライナ並びにクランクピンメタル全数の摩耗

    原因
潤滑油サンプタンクのマンホールの油密状態の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、機関室が浸水した際、潤滑油サンプタンクのマンホールの油密状態の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月1日23時40分
北海道留萌港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船三十三大彦丸
総トン数 108トン
全長 36.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分750
3 事実の経過
第三十三大彦丸(以下「大彦丸」という。)は、昭和57年6月に進水し、延縄(はえなわ)漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が同年3月に製造した6MG25CX型と呼称するディーゼル機関を装備し、軸系には逆転減速機を備えていた。
主機潤滑油の主系統は、クランク室下方に設置されたサンプタンク内の潤滑油が、主機直結の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧され、冷却器、こし器を経て主管に至り、主軸受、クランクピン軸受を潤滑したのち、連接棒中央に設けられた油穴を立ち上がってピストンピン軸受を潤滑し、同棒小端部先端から噴出してピストンを内部から冷却し、クランク室内に落下してサンプタンクヘ戻るようになっており、ピストンとシリンダライナとの間の潤滑は、クランク室に落下する油滴のはねかけで行われていた。また、ポンプ吐出管から分岐した一部の潤滑油が、遠心式こし器によって固形物などが除去されたのちクランク室に直接戻るようになっていた。

サンプタンクは、縦254センチメートル(以下、「センチ」という。)、横84センチ、高さ60センチの容量1.280立方メートルの直方体で、同タンクの深さ1センチが、検油棒でもほぼ1センチにあたり、潤滑油量に換算して21リットルに相当するものであった。
A受審人は、平成9年2月に大彦丸に機関長として乗り組み、2月と9月の休漁期間を除き、夕方に出漁して早朝帰港する操業に従事していた。
大彦丸は、平成10年7月28日早朝、北海道留萌港に入港し、漁獲物の水揚げを終えたのち主発電機、ポンプ類などの機器を停止して全乗組員が帰宅し、船内を無人として停泊中、機関室下段の後部壁沿いに設置された船尾管注水ポンプのメカニカルシール装着部から海水が漏えいし、機関室ビルジが次第に増加してサンプタンクが水没し、同日16時30分ごろ、出漁準備のため帰船したA受審人は、機関室が床板近くまで海水に浸かっているのに気付き、主発電機を運転して船内電源を確保し、持運び式電動水中ポンプで機関室内の海水を排出した。

このとき、サンプタンクは、同タンクの後部側面に設けられたマンホールの取付けボルトが3本弛緩(しかん)していて、その付近のマンホール取付けのパッキンも損傷していたため、これより同タンク内に海水が10リットル余り浸入し、機関室内の海水を排出後は、マンホールの海水浸入箇所から同タンク内の潤滑油が漏えいしている状況であったが、A受審人は、サンプタンクのマンホールがボルト締めされているからマンホール取付け面より海水が浸入することはあるまいと思い、同タンクのマンホールの油密状態の点検を十分に行わなかったので、取付けボルトが緩み、海水浸入箇所から潤滑油が漏えいしていることに気付かず、冠水した逆転減速機の潤骨油のみを新替えして、浸水した機関室の復旧作業を終えた。
その後主機は、同月31日までに2航海の操業を行ううち、混入した海水の影響で潤滑油が著しく劣化し、各部の油膜保持が不十分となってピストンとシリンダライナとの間にスカッフィングを生じるようになった。

A受審人は、同月31日早朝留萌港に入港後、定期作業として主機潤滑油系統の遠心式こし器2個を掃除のため開放したところ、いつもは同こし器ロータ内壁に軟質の泥状のものが薄く付着している状態であるのが、同ロータ内壁の外側に石炭状の固いスラッジが、同じく内側にヘドロ状のスラッジがいずれも多量に溜っており、これまでこのようなことがなかったことから、潤滑油のサンプルを採取して石油会社に性状分析試験を依頼し、また、2、3日して同分析試験結果が出るので、その間取りあえず出漁することとし、翌8月1日サンプタンク内の潤滑油を新替えした。
こうして大彦丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、同日23時00分留萌港を発し、主機を回転数毎分680の全速力にかけて北海道利尻島南西方沖合の武蔵堆漁場へ向かったところ、各シリンダのピストンとシリンダライナとの間に生じたスカッフィングが進行して過熱するようになり、機関室当直中のA受審人が潤滑油圧力計の指針が振れ、主機が過熱しているのを認めて、23時40分留萌灯台から真方位285度4.9海里の地点で主機を停止した。

当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、潤滑油及び冷却水系統の冷却器を触手するなどして点検したものの過熱原因を突き止めることができず、漁場に着いても操業不能と判断してその旨を船長に報告し、大彦丸は、反転して微速力で帰港した。
大彦丸は、業者が開放点検した結果、前示損傷のほかクランクピンメタル全数が著しく磨耗しており、また、石油会社に提出した潤滑油サンプルに過剰水分と塩分反応とが認められ、海水混入の疑いがある旨の分析結果が得られたので、潤滑油冷却器の耐圧試験などを行ったが海水浸入箇所が判明せず、A受審人がサンプタンク内を掃除しようとしたところ、マンホール取付けボルトの緩みとマンホールパッキンの損傷を発見し、のち2、6番ピストン及び全シリンダライナ並びにクランクピンメタル全数を新替えした。


(原因)
本件機関損傷は、機関室内床板付近まで浸水し、主機の潤滑油サンプタンクが水没した際、同タンクマンホールの油密状態の点検が不十分で、機関室内の海水を排出して操業を再開後、水没時に同タンクマンホール取付けの緩み箇所から浸入した海水により、潤滑油が著しく劣化したまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、機関室内床板付近まで浸水し、主機の潤滑油サンプタンクが水没した場合、同タンクへ海水浸入のおそれがあったから、海水浸入の有無が判断できるよう、同タンクマンホールの油密状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、サンプタンクのマンホールがボルト締めされているからマンホール取付け面より海水が浸入することはあるまいと思い、同タンクマンホールの油密状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、浸水時に同タンクのマンホール取付けの緩み箇所から浸入しだ海水により、潤滑油が著しく劣化したまま運転を続け、ピストン及びシリンダライナにスカッフィング、全クランクピンメタルに著しい摩耗をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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