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1999年(平成11年)

平成9年神審第120号
    件名
貨物船第八蛭子丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、須貝壽榮、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第八蛭子丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
過給機のロータ軸、軸受装置、3番シリンダのピストン及びシリンダライナなど損傷

    原因
主機潤滑油こし器の開放掃除不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器の開放掃除が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月11日19時00分
明石海峡東方
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八蛭子丸
総トン数 198トン
登録長 52.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分375
3 事実の経過
第八蛭子丸は、昭和63年12月に進水した鋼製貨物船で、主機として株式会社新潟鉄工所が同年に製造した6M26AGTE型クラッチ式逆転機付ディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の計器盤及び警報装置を備え、主機及び逆転機が遠隔操作できるようになっており、主機には、各シリンダに船首側から1番から6番までの番号が付され、過給機としてNR20/R型排気ガスタービン式のものが付設されていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室油だめ(標準張込み量約400リットル)の潤滑油が、直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧され、温度調整弁付冷却器及び250メッシュのノッチワイヤ複式こし器(以下「こし器」という。)を経て主機入口主管に至り、主軸受からクランクピン軸受及びピストンピン軸受などを順に潤滑してクランク室に戻るようになっているほか、同冷却器出口で分岐して圧力調整弁を経た潤滑油が、主機上方に設けられた張込み量約800リットルの補助サンプタンクに送られ、オーバーフロー油がクランク室に落ちるようになっていた。
一方、過給機の潤滑は、主機入口主管の手前で分岐した潤滑油が減圧のうえ軸受装置に強制注油されたのち、主機クランク室に戻るようになっており、潤滑油圧力は主機入口主管で4.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に、過給機入口で1.5キロにそれぞれ設定され、主機入口主管の油圧が2.0キロまで低下すると油圧低下警報装置が作動するようになっていた。
A受審人は、平成3年10月に本船を買い取り、自ら機関長として、航海の免状を受有する次男のBと、航海及び機関の両免状を受有する三男のCとの親子3人で乗り組み、兵庫県東播磨港にある製鋼所の系列会社に用船され、同港から積み出しの鋼材輸送に従事していた。また、同人は、主機の潤滑油管理に当たり、2年ごとに油だめ、補助サンプタンクなどの掃除を行ったうえ潤滑油を取り替え、片側ずつ交互に使用しているこし器については、運転時間で50時間を目途に、10から15日の間隔で切り替え、開放掃除するようにしていた。
ところで、A受審人は、不況により仕事量が減少して揚地も主として阪神間になったことから、同8年11月に定期検査工事を終えて出渠(しゅっきょ)して以降、常時3人で行っていた運航から、息子2人を主体とした運航形態に変更し、機関の運転管理を三男のCに任せて自身は下船し、息子のどちらかが休暇等で下船する際、1箇月に10日程度臨時に乗り組むようになった。
このように、A受審人は、翌9年7月23日三男Cと交代して本船に乗り組み、翌月12日に再び同人と交代の予定で、主機の運転を繰り返していたところ、8月9日ごろ機関室見回りの際、主機潤滑油圧が3.8キロ程度に低下しているのを認めた。ところが、同人は、間もなく交代する三男が主機潤滑油こし器の掃除をしてくれるので大丈夫と思い、直ちに同こし器の開放掃除を行わなかったことから、いつしか3番シリンダがブローバイ気味となっていて、こし器内部にスラッジが混入し始めていることに気付かなかった。
こうして、本船は、A受審人ほか1人が乗り組み、揚荷役を終えて空倉のまま、海水バラスト約250トンを載せ、船首2.90メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同月11日16時50分東播磨港に向け大阪港堺泉北区を発し、主機回転数を毎分330として大阪湾を航行中、折からのやや高い波浪を左舷船首から受ける状況であったので、主機がレーシング気味となって3番シリンダのブローバイが進み、スラッジによりこし器が目詰まりして油圧がさらに低下し、油圧低下警報装置が作動しないまま、過給機への給油量が不足したため同機軸受が焼損し、同日19時00分平磯灯標から真方位169度2,000メートルの地点において、主機が黒煙を上げて自停した。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、海上は波が高かった。
主機の異状を認めて機関室に向かっていたA受審人は、主機が停止したためいったん船橋に戻って錨泊したのち、主機を再始動して各部を点検したところ、過給機付近の異音から同機が故障したものと判断し、取引先の修理業者と連絡を取りながら主機を無過給運転に切り替え、抜錨後しばらくは航走できたものの、再び主機が停止したため自力航行を断念し、明石海峡の北側で錨泊した。
本船は、翌12日、手配した引船で東播磨港に引き付けられ、来船した修理業者により、過給機のロータ軸完備品及び軸受装置などの損傷部品をすべて新替えして修理されたものの、係留運転中に主機の潤滑油圧が急速に低下することから、3番シリンダでブローバイが発生していることが判明し、のち合入渠工事を繰り上げ、3番シリンダのピストン及びシリンダライナなどが新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器の開放掃除が不十分で、同こし器が目詰まりして油圧が低下したまま主機の運転が続けられ、過給機の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たり、定期的に行っている主機潤滑油こし器の開放掃除の間隔が開き、同機潤滑油圧が低下しているのを認めた場合、過給機軸受などに潤滑阻害を生じさせることのないよう、直ちに同こし器の開放掃除を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、油圧低下の限界にはまだ余裕があり、まもなく交代で乗船する息子が同掃除をやってくれるので大丈夫と思い、直ちに同こし器の開放掃除を行わなかった職務上の過失により、同こし器が目詰まりして油圧が低下するまま主機の運転を続け、過給機軸受を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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