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1999年(平成11年)

平成9年函審第33号
    件名
漁船第三十六大?丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第三十六大?丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
潤滑油ポンプの圧力調整弁損傷、4・5番のピストンピン軸受、台板の主軸受部損傷

    原因
警報装置電源スイッチの投入状態の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、警報装置電源スイッチの投入状態の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月10日07時10分
北海道稚内港内
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六大?丸
総トン数 124.74トン
登録長 31.65メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 757キロワット
回転数 毎分620
3 事実の経過
第三十六大?丸(以下「大?丸」という。)は、昭和45年6月に進水したかにかご漁などに従事する、船首寄りに船橋を備えた船尾機関室型の鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が同年に製造した6MG25BX型と呼称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側を1番として順番号を付け、操舵室から主機及び可変ピッチプロペラ装置の遠隔操作ができるようになっていた。
機関室は、縦8.5メートル横7.0メートルで上段と下段に分かれ、下段には中央の主機を挟んで、右舷側に1号機、左舷側に2号機のディーゼル原動機駆動の100キロボルトアンペア交流発電機(以下「発電機」という。)が装備され、このほかに右舷側に燃料油移送ポンプ、ビルジポンプ、左舷側に主配電盤、主空気だめなどの各機器が設置されていた。また上段は、左舷側前部寄りに倉庫が区画され、右舷側後部寄りに冷凍機用圧縮機、燃料油サービスタンクなどが設置され、主機後部上方部分が縦1.5メートル横3.5メートルの開口になっていて、下段との間には垂直タラップが同開口右舷側に設けられていた。
主機は、操縦ハンドルが主機の左舷船首寄りに備えられ、同ハンドルの上方には回転計や潤滑油圧力計などが組み込まれた計器盤が取り付けられ、機関室下段前部壁に設けられた主機制御盤には、操縦場所切替えスイッチのほか、直流の24ボルトを電源とする警報装置及び同装置の電源スイッチが組み込まれ、潤滑油圧力が低下するなどの異状を生じると同盤の表示ランプが点灯し、警報ベルが鳴るようになっていたが、そのベルの音量は、主機運転中でも機関室上段において十分聞こえるものであった。
主機潤滑油の主系統は、台板内の潤滑油が主機駆動の歯車ポンプ(以下「潤滑油ポンプ」という。)によって吸引加圧され、こし器、冷却器を経て主管に入り、各シリンダごとに分岐して主軸受、クランクピン軸受を潤滑し、連接棒を縦通する油穴を立ち上がってピストンピン軸受を潤滑した後、同棒小端部の先端から噴出してピストン内部を冷却し、クランク室に落下するようになっており、潤滑油圧力は、潤滑油ポンプ付圧力調整弁によって3.5ないし5.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」とい。)に調圧され、圧力低下警報設定値が2.0キロで、潤滑油の圧力計及び
圧力低下警報装置の検出端が冷却器と主管との間の配管に設けられていた。なお、潤滑油ポンプ付圧力調整弁は、弁を押さえるばねの強さを調整ねじによって加減し、吐出側潤滑油の一部を台板内に逃して所定の圧力を保つものであった。
A受審人は、昭和60年7月に大?丸に機関長として乗り組み、主機の潤滑油については、毎年5、6月の休漁期間を利用して行われるピストン抜きなどの機関整備のときに全量新替えし、操業中に消費分を適宜補給し、また、主機の始動に当たっては、機関室において始動し、潤滑油圧力、冷却水圧力などの計器を確認してから、操縦場所を操舵室に切り替えていた。
A受審人は、平成8年10月10日早朝、出漁のため大?丸に乗り組み、同日06時00分1号発電機を運転し、続いて主機を始動して暖気運転に当たったものの、警報装置の電源スイッチを入れ忘れ、その後機関室内を見回って主機潤滑油圧力が約5キロであることなどを確認したが、冷凍機を運転することに気を取られ、同スイッチの状態を確認しなかったので、同スイッチが投入されていない状態であることに気付かず、運転機器に異状がなかったことから操縦場所を操舵室に切り替え、機関室下段を無人として上段に赴き、冷凍機用圧縮機の運転に取りかかった。
こうして、大?丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、かにかご漁の目的で、同日07時00分稚内港北洋ふ頭西岸壁を発し、稚内港内をプロペラ翼角を徐々に上げて増速中、潤滑油ポンプ付圧力調整弁にたまたま油中の異物をかみ込んで潤滑油圧力が警報設定値以下となったものの、警報ベルが鳴らないまま運転が続けられ、やがて4、5番の主軸受、クランクピン軸受などが潤滑油の供給量不足により潤滑不良を生じて焼損しはじめ、主機を回転数毎分620、プロペラ翼角を21度として11ノットの全速力で運転中、同時10分稚内港北防波堤灯台から真方位352度40メートルの
地点において、同主軸受などがクランク軸に焼き付いて主機が停止した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、海上には小波があった。
A受審人は、機関室下段に下りて主機を再始動したところ、異常音を発するので直ちに停止し、クランク室ドアを開放して4、5番のクランクピン軸受が過熱しているのを認め、運転不能と判断してその旨を船長に報告した。
大?丸は、救助を求め、船主が手配した引き船に曳(えい)航されて稚内港第1副港岸壁に着岸し、修理業者が主機を開放点検した結果、潤滑油ポンプの圧力調整弁に厚さ約2ミリメートル直径約1センチメートルのプラスチック片がかみ込んでいるのが発見され、また、前記損傷のほか4、5番のピストンピン軸受、台板の主軸受部にも損傷が認められ、のち損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機を運転するにあたり、警報装置電源スイッチの投入状態の確認が不十分で、潤滑油ポンプ付圧力調整弁に異物をかみ込んで油圧が低下した際、警報装置が作動しないまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転に当たる場合、潤滑油圧力が低下したとき、警報装置が作動して主機を速やかに停止するなどの措置がとれるよう、警報装置電源スイッチの投入状態を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、冷凍機を運転することに気を取られ、警報装置電源スイッチの投入状態を確認しなかった職務上の過失により、潤滑油ポンプ付圧力調整弁に異物をかみ込み潤滑油圧力が低下した際、同スイッチが投入されていなかったため警報装置が作動しないまま運転が続けられる事態を招き、主軸受、クランク軸などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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