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1999年(平成11年)

平成10年門審第25号
    件名
漁船第五大徳丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、畑中美秀、清水正男
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:第五大徳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:第五大徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
たわみ継手及び入力軸損傷

    原因
主機クラッチの点検不十分

    主文
本件機関損傷は、運転中に主機クラッチのたわみ軸継手の締付部で異音を生じ、かつクラッチの動作に遅れを生じた際、同部の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
造船所の主任エンジニアが定期検査時にクラッチを開放し、たわみ軸継手を組み立てた際、締付ボルトに回り止めが施されているか確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月3日09時00分
奄美大島西部沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五大徳丸
総トン数 59.95トン
登録長 24.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 551キロワット
回転数 毎分655
3 事実の経過
第五大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、昭和57年3月に進水した、主としてきんめだい延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社(以下「ヤンマー」という。)が製造したT220-ST2型と呼称するディーゼル機関と、株式会社神崎高級工機製作所が製造したY-850型と呼称する湿式多板型油圧クラッチ付減速逆転機(以下「クラッチ」という。)とを装備していた。
主機とクラッチの接続は、クランク軸の微細なトルク変動を歯車に伝えないこと、主機とクラッチの芯ずれを吸収することなどの目的で、クラッチ船首側の鋳鉄製たわみ軸継手に16個の筒形ゴムを取り付け、主機のフライホイルにあけられた円筒形の穴に収める方式であった。
クラッチは、入力歯車が油圧作動筒及び摩擦板仕組を間に装着して小歯車と組み立てられたものを、後進軸として1組、前進軸として2組備え、すべての小歯車を共通の大歯車とかみ合わせ油圧作動筒への油圧切替えを選択して後進又は前進の出力を得る減速機で、たわみ軸継手に取り付けられた後進入力歯車(以下「入力軸」という。)が両脇の前進入力歯車を回転させるようになっていた。
たわみ軸継手は、外径765ミリメートル(以下「ミリ」という。)の皿形円盤状で、入力軸との結合部に直径26.0ミリ長さ52.0ミリの8本のクロムモリブデン鋼製の平行ピンを冷し嵌(ば)めし、更に呼び寸法M20、首下長さ60ミリ、ねじピッチ1.5ミリの締付ボルト6本で締め付けられていた。また、同ボルトは、頭部の穴に通した針金で3本ずづ綴られて回り止めが施されるようになっていた。
大徳丸は、平成6年4月に定期検査のために株式会社Rに入渠し、クラッチの油圧作動筒のOリング及び角リングと摩擦板の取替えが行われることになり、後進軸と前進軸が陸揚げされた。
C指定海難関係人は、同社の主任エンジニアとして大徳丸の主機及びクラッチの整備を担当し、3人の作業員を指揮して作業に当たり、たわみ軸継手と入力軸の接続部を切り離し、クラッチの前示部品を取り替えて組み立てたのち、同接続部に平行ピンを入れて締付ボルトを締めさせたが、同ボルトに針金による回り止めが施されたかどうか確認することなく、再びクラッチに組み込んで復旧させた。
大徳丸は、出渠後、鹿児島港を基地として操業し、平成8年の中間検査時にはクラッチ接続部の検査が行われなかったので回り止めが確認されないまま運転を繰り返すうち、クラッチのたわみ軸継手と入力軸を締め付けていた締付ボルトが、主機のトルク変動でいつしか緩み、たわみ軸継手と入力軸の間に隙間が生じてトルクを受ける平行ピンがぐらつき、同ボルトもトルクの一部を受けて摩耗し始め、やがて同ボルトの1本が緩んで抜け落ち、残りの5本がいずれも切断された。
クラッチは、たわみ軸継手前面と主機のフライホイル後端面との間に13ミリの隙間を有するよう据え付けられていたので、たわみ軸継手が隙間方向へ移動して振れ、平行ピンのぐらつきでたわみ軸継手の同ピン穴が摩耗して拡がり、負荷の少ない低速時に同ピンが次々に抜け出し、平成9年5月ごろ、残った1本がピン穴の回転方向に拡がって生じた凹みに転倒するように入力軸との間に挟まれ、どうにか回転が続いたが、クラッチが嵌入されてトルクが急増するときに同ピンが入力軸の穴の間を滑り、前後進の動作が遅れるようになり、またストップ回転で無負荷になったときに異音と振動を発生するようになった。
B受審人は、船長兼漁労長として本船の操船に携わり、投縄、揚縄等の作業全般の指揮を執っており、クラッチの前進、後進及び中立の切替えを頻繁に操作して揚縄作業中、船橋で操作しても前後進動作が遅れることがあるのに気付き、自ら入港時に電気店に船橋のクラッチ操作部の点検を依頼し、配線の一部の部品を取り替えたが、その後もクラッチの動作遅れが続いたのでA受審人に点検を指示した。
A受審人は、B受審人が本船を購入後、機関長として機関の運転と整備に従事していたもので、B受審人からクラッチ不調の連絡と点検の指示を受け、またそのころクラッチ中立状態の機関室から異音が生じていることに気付いたので、エンジンメーカーの代理店に依頼して機関台の締付ボルト等の点検を行ったが、異状が見つからなかったので大丈夫と思い、クラッチのたわみ軸継手と入力軸の接続部を点検することなく、運転を続けた。
こうして大徳丸は、A及びB両受審人ほか5人が乗り組み、きんめだい漁の目的で、平成9年6月21日05時00分鹿児島県鹿児島港を発し、同月23日奄美大島西方沖合の漁場に至って操業を開始し、7月3日05時50分第11回目の揚縄作業に入り、主機を回転数毎分350にして前後進を繰り返していたところ、09時00分北緯28度23分東経127度45分の地点で、クラッチのたわみ軸継手と入力軸との間に挟まっていた平行ピンが擦り減り、クラッチの入力軸が停止した。
当時、天候は曇で風力3の南風が吹いていた。
B受審人は、クラッチ操作をしても全く船の動きがなくなったので、甲板員を機関室の点検に向かわせ、クラッチから白煙が上がっているとの報告を受けてA受審人に連絡させ、その後、A受審人が機関室に入ってクラッチ入力軸とたわみ軸継手の接続部が離れているのを確認して運転不能と判断した。
大徳丸は、僚船に曳航されて鹿児島港に帰港し、水揚げののち枕崎港に回航され、損傷したたわみ継手及び入力軸が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、運転中に主機クラッチのたわみ軸継手の締付ボルトが緩んで折損し、異音を生じ、かつクラッチの動作に遅れが生じた際、たわみ軸継手の締付部の点検が不十分で、動力を伝える平行ピンが抜け落ちた状態で運転が続けられたことによって発生したものである。
造船所の主任エンジニアが定期検査時にクラッチを開放し、たわみ軸継手を組み立てた際、締付ボルトに回り止めが施されているか確認しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たり、操業中、クラッチの中立運転時の異音とクラッチの動作の遅れに気付いた場合、クラッチのたわみ軸継手の締付部を詳細に点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、クラッチのリモコンを点検したり、主機の据付ボルトなどを点検して異状が見つからなかったので大丈夫と思い、クラッチのたわみ軸継手の締付部を詳細に点検しなかった職務上の過失により、同部の締付ボルトが折損したまま運転が続けられ、動力を伝える平行ピンが抜け落ちてたわみ軸継手及び入力軸の損傷を招き、運転不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、クラッチの油圧シリンダの整備のために開放し、たわみ軸継手と入力軸を組み立てる際、締付ボルトの回り止めが施されているかどうか確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、本件後締付ボルトの回り止めの施工に注意していることに徴し、勧告しない。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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