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1999年(平成11年)

平成11年函審第29号
    件名
漁船第二十三福寳丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十三福寳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
シリンダヘッド排気ポート上部壁に破孔、過給機のロータ軸軸受など損傷

    原因
シリンダヘッド排気ポートの衰耗状態の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、シリンダヘッド排気ポートの衰耗状態の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月28日01時30分
北海道根室半島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三福寳丸
総トン数 136トン
登録長 28.81メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数 毎分900
3 事実の経過
第二十三福寳丸(以下「幅寳丸」という。)は、昭和51年4月に進水し、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が同年3月に製造した6DSaM-22FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順に番号を付し、主機の動力取出軸にはエアクラッチを介して集魚灯用発電機を備えていた。
主機は、海水冷却式で、主機直結の冷却海水ポンプを2台備え、それぞれ別の海水吸入弁から海水を吸引し、一方のポンプで加圧された海水が空気冷却器、潤滑油冷却器に導かれて熱交換したのち船外へ放出され、他方のポンプで加圧された海水が入口主管に送られ、各シリンダの枝管を分流してシリンダジャケット、シリンダヘッドを、同主管後端から分岐した枝管を通って過給機をそれぞれ冷却し、出口集合管で合流して船外へ放出されるようになっていた。
A受審人は、平成3年4月に福賓丸に機関長として乗り組み、毎年3月から4月ごろに主機のピストン抜き、潤滑油交換などの機関整備を行い、同9年4月の中間検査工事においても、同様の整備を行ってその後の操業に従事していたところ、主機のシリンダヘッドは、就航以来のものがそのまま長期間使用されているうちに、排気ポートが排気ガス中の硫黄分などによる腐食のため衰耗が進み、5番シリンダのシリンダヘッド排気ポート上部壁面と冷却水通路との間の肉厚が著しく薄くなっていた。
福寳丸は、同10年4月に例年どおり青森県八戸市内の造船所に入渠して船体及び機関の整備工事を行うことになり、市内の業者がピストン、シリンダヘッドなどを開放し、整備のため工場に陸揚げした。
A受審人は、この工事期間中、機関員と2人で主発電機用ディーゼル原動機の開放整備を行い、また、業者が主機などを開放した際にも立会い、主機シリンダヘッドについては就航以来のものであることを知っていたが、同ヘッドの整備は業者に任せておけばよいと思い、排気ポートの衰耗状態を十分に点検しなかったので、5番シリンダのシリンダヘッド排気ポート上部壁が著しく衰耗していることに気付かず、業者が吸排気弁の整備、冷却海水側の防食亜鉛の取替えなどを行った後、シリンダヘッドを復旧して同整備工事を終了した。
その後、福寳丸は、日本海漁場から操業を開始し、漁場を移動しながら操業を続けていたところ、5番シリンダのシリンダヘッド排気ポート上部壁の衰耗が更に進行するようになっていた。
こうして福賓丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、同年11月8日10時40分八戸港を発して三陸沖合の漁場で操業し、途中北海道釧路港へ寄せ、同月19日07時00分同港を発して同日夕刻から同港南東方沖合の漁場で操業を開始し、夜間は集魚灯用発電機を駆動して操業し、日中は漁場移動後日没まで主機を停止して待機する航海を続け、同月27日夕刻から北海道根室半島南方沖合漁場で、主機を回転数毎分800にかけて集魚灯用発電機を駆動しながら操業中、翌28日01時30分、北偉41度53分東経145度41分の地点において、5番シリンダのシリンダヘッド排気ポート上部壁の衰耗が進行して破孔を生じ、これより漏れた冷却水が過給機に浸入して燃焼不良となり、主機が異音を発した。
当時、天候は曇で風力7の東風が吹き、海上は波浪が高かった。
A受審人は、甲板上で漁獲物の整理作業中、主機の異音とともに煙突から白い排気が出ているのに気が付き、直ちに集魚灯用発電機のエアクラッチを切って主機を停止し、各シリンダの指圧器弁を開弁してターニングしたところ5番シリンダから冷却水が出てきたので、海水吸入弁を閉鎖して同シリンダの各部を点検した結果、シリンダヘッド排気ポート上部壁に破孔を生じ、ピストン頂面に滞留した冷却水がピストン下端からクランク室内に滴下するのを認め、シリンダヘッドを予備のものと交換しようとしたものの、波浪のため船体動揺が大きく交換作業が困難であるうえに、潤滑油を交換するには予備保有量が少なくてできないことから、その旨を船長に報告した。
福寳丸は、付近で操業中の僚船に救助を求め、来援した同船によって釧路港に引き付けられ、修理業者が各部を点検した結果、前示損傷のほか、過給機のロータ軸軸受などが冷却海水の浸入により損傷を生じており、のち5番シリンダのシリンダヘッドを取り替え、過給機の分解整備を行って潤滑油を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機シリンダヘッドの開放整備に当たり、シリンダヘッド排気ポートの衰耗状態の点検が不十分で、排気ポートが著しく衰耗していた5番シリンダのシリンダヘッドが新替えされず、操業中に同ヘッド排気ポート上部壁に破孔を生じて冷却水が漏えいしたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機シリンダヘッドの開放整備に当たる場合、シリンダヘッドが長期間使用されていて、排気ポートが排気ガスによる腐食などのため著しく衰耗しているおそれがあったから、シリンダヘッド交換の判断ができるよう、シリンダヘッド排気ポートの衰耗状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、シリンダヘッドの整備は業者に任せておけばよいと思い、シリンダヘッド排気ポートの衰耗状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、操業中に5番シリンダのシリンダヘッド排気ポートが衰耗の進行により破孔を生じて冷却水の漏えいを招き、過給機への漏水の浸入によりロータ軸受などを損傷させ、潤滑油が漏水の混入により使用不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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