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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月30日05時00分 鹿島灘東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十一蛸島丸 総トン数 260トン 全長 48.70メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,103キロワット 3 事実の経過 第十一蛸島丸(以下「蛸島丸」という。)は、昭和59年8月に進水した、大中型まき網漁業付属運搬船で、油圧モーター駆動の漁労機械を装備し、その油圧は主機船首側に弾性ゴム継手を介して直結される増速機か駆動する油圧ポンプ、または補機駆動の補助油圧ポンプから供給されるようになっていた。 増速機は、新潟コンバーター株式会社が製造したSGC160M-7型と称し、油圧作動の湿式多板クラッチ、増速歯車、潤滑油ポンプなどで構成され、入力軸直結の潤滑油ポンプは主機運転中常時運転状態で、油圧ポンプの運転及び停止は機関室内の操作盤に設けられたクラッチ嵌(かん)脱用電磁弁のスイッチで操作されるようになっていた。 増速機の潤滑油は、ケーシングに約160リットル入れられており、潤滑油ポンプにより吸引、加圧され、こし器を経てクラッチ系統と潤滑系統に分岐し、各部に供給されて循環していたが、いずれの系統も潤滑油圧力低下警報装置を備えておらず、こし器が閉塞したり、漏油が生じたりして潤滑油圧力が低下し、軸受などが損傷することのないよう、適宜に運転中の圧力監視、漏油の有無及び潤滑油量の点検を要するものであった。 A受審人は、平成3年から機関長として乗り組んで機関の管理に当たっており、同8年6月定期検査時、増速機付属の潤滑油冷却器を整備したものの、就航以来整備されていなかった増速機ケーシングのオイルシールや潤滑油配管系統のパッキンが劣化して潤滑油が漏れるようになったが、漏油の有無を点検せず、翌9年6月6日出渠時以降潤滑油量を点検しなかった。 その後も増速機の漏油が続いて潤滑油面が低下し、船体が動揺すると増速機潤滑油ポンプが空気を吸引するおそれのある状況となっていたところ、A受審人は、越えて同月29日出港に備えて主機を始動する際、依然、増速機の潤滑油量を点検しなかったので、同油量が減少していることに気付かなかった。 こうして蛸島丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、船首2.7メートル船尾3.9メートルの喫水で、同日20時福島県小名浜港を発し、鹿島灘東方沖合の漁場に至って操業を始め、翌30日04時30分ごろ投網を終えて網の締め込み作業にかかり、それまで運転していた補機駆動の補助油圧ポンプから増速機駆動の油圧ポンプに切り替え、主機を回転数毎分約330として揚網作業中、増速機の潤滑油ポンプが空気を吸引し、増速機の軸受、クラッチ板、クラッチピストンなどが焼き付き、05時00分北緯36度04分東経142度23分の地点において、全油圧モーターの回転が急低下した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上にはやや波があり、蛸島丸は約4度の横揺れがあった。 甲板で作業中のA受審人は、揚網できなくなったので機関室に赴き、増速機を点検して軸受の焼損を認めた。 損傷の結果、蛸島丸は、増速機が使用不能となり、のち損傷部が新替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機を始動する際、主機直結増速機の潤滑油量点検が不十分で、油量不足のまま運転され、増速機の潤滑油ポンプが空気を吸引して増速機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を始動する場合、主機直結増速機の潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、同油は十分入っているものと思い、同油量を点検しなかった職務上の過失により、油量不足のまま運転して増速機の軸受、クラッチ板などを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |