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1999年(平成11年)

平成9年神審第89号
    件名
貨物船第二十二大精丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第二十二大精丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機カム軸基準軸受が過熱焼損

    原因
主機修理業者のカム軸の軸受メタルを取り替える際の組込み手順の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機修理業者がカム軸の軸受メタルを取り替えるにあたり、組込み手順の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月28日03時20分
和歌山県和歌山下津港沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十二大精丸
総トン数 499トン
登録長 57.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,176キロワット(定格出力)
回転数 毎分380(定格回転数)
3 事実の経過
第二十二大精丸(以下「大精丸」という。)は、平成2年4月に進水した溶融硫黄専用の鋼製運搬船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社(以下「ヤンマー」という。)が同年に製造したMF29-ST型ディーゼル機関を装備し、船橋に備えた遠隔操縦装置により、主機及びクラッチ式逆転機を遠隔操作できるようになっていた。
主機は、船首側にタイミングギヤ室、左舷側にカム軸及び各燃料ポンプが配置され、出入港時など低負荷運転中の燃焼効率を高める目的で、低負荷と通常負荷とにそれぞれ対応する形状の、燃料及び吸排気カムが各1対となってカム軸にキー止めされていた。そして、この切替えのため、カムギヤ船首側に油圧シリンダを設けてカム軸と自在継手で接続し、同軸とカムギヤ取付けフランジとをスプラインで連結して、カム軸を前後に移動できるようになっていたが、同機は就航以来カム軸を通常負荷位置として運転され、同切替え機構は使用されていなかった。
主機カム軸の軸受は、同軸両端部及び各シリンダ間の合計7箇所に設けられ、それぞれ、青銅鋳物(材料記号BC3)製左右2つ割れの軸受メタルが使用してあり、潤滑油入口主管から架構に開けた油路を経て、右側軸受メタルの背面まで導かれた同油により潤滑され、船首端の基準軸受で同軸に生じるスラストも支えるようになっていた。
主機カム軸基準軸受(以下「基準軸受」という。)の軸受メタルは、内径180ミリメートル(以下「ミリ」という。)幅70ミリ肉厚18ミリで、右半分を架構に工作された軸受台に、左半分を軸受キャップにそれぞれ収め、いずれもノックピンで位置決めしたうえ、カムギヤ取付けフランジのボス外周に設けた、幅70ミリ深さ17.5ミリの溝に合わせ、左側から上下各1本の軸受キャップ取付けボルトで架構に締め付けてあり、同フランジを介してカム軸を支持するとともに、前後両側面でスラストを受ける構造となっていた。
ところで、主機は、マツエディーゼル株式会社により設計開発された低速機関で、それまで低速機関の製造実績がなく、技術提携のうえ製造に参画したヤンマーが、平成4年から全面的に製造権を継承して自社の尼崎工場で製造するようになった経緯があり、カム軸に、開放のとき各軸受を取り外したうえ左舷側に取り出す型式が採用され、構造上各軸受メタルには、組込み時スクレーパで削正して軸受間隙を調整するタイプを使用し、基準軸受については、スラスト間隙及び軸間隙とも0.20ないし0.30ミリと定められていた。これに対し、ヤンマー製中高速機関のカム軸は、ほとんどすべて開放する際は軸方向に抜き出す構造で、軸受には筒型の完成メタルが使用されていた。
A受審人は、艤装時から機関長として大精丸に乗り組み、機関の運転管理に従事していたところ、主機各タイミングギヤが、機関の振動によって経年摩耗するとともに、基準軸受の軸受キャップ取付けボルトに緩みが生じ、同8年8月ごろから、潤滑油こし器に少量の金属粉が付着するようになり、掃除の際このことに気付いた同受審人は、以後機会を見付けてはクランク室のほか、点検窓から同ギヤ室及びカム室内を点検したが、基準軸受が点検窓から見えにくい位置にあることなどから、これら異状箇所を発見できないまま運転を続けていた。
このような状況のもと、大精丸は、運航を続けるうち、基準軸受の緩みが進行して軸受キャップが開き、同年12月25日、積荷の目的で和歌山県和歌山下津港に向け、山口県宇部港を出航中、負荷変動時に軸受メタルがたたかれて異音が発生し始めた。
主機カム軸付近からの異音に気付いたA受審人は、運転諸元を点検したが特に異状はなく、また運転状態が落ち着くと異音が止まったことから、注意しながら続航することとし、ヤンマーの100パーセント出資会社で、ヤンマー製機関のアフターサービス部門を担当する、R株式会社(以下「R社」という。)のB指定海難関係人と連絡をとり、原因究明のため和歌山下津港で主機を点検するよう依頼した。
B指定海難関係人は、昭和44年ヤンマーに入社し、機関の据付けや修理業務に従事したのち、同60年ごろR社に移籍し、平成元年から、ヤンマー尼崎工場内に所在するR社大阪営業所の主任技師として、部下の技術員を指揮して業務に従事していたもので、大精丸が就航間もないころ、何度か主機の調整修理を行ったことがあったが、カム軸については、本船主機を含め同型機関の同軸を開放したことはなかった。
A受審人の依頼を受けたB指定海難関係人は、翌26日部下の課員Cを和歌山県下津港に入港した大精丸に派遣し、荷役中に主機を点検した同課員から、基準軸受の軸受キャップが緩んでメタルが異状摩耗している旨の報告を受け、本船荷役終了後、低負荷で港外に沖出しのうえ同メタルを新替えすることを打ち合わせ、応援の作業員2人を派遣するとともに、予備メタル、工具等の手配に掛かった。
ところで、ヤンマーは、組立てに特殊な注意を必要とする部品については、品質保証部が、注意事項を把握するとともに在庫管理を行い、修理業者等からの問合わせに対応できるようにしていたが、出庫する部品に注意書きを添付する等の制度は採用せず、社外からの受注に対しては、要すればR社等から専門技師を派遣するようにしていた。
B指定海難関係人は、基準軸受予備メタルの手配にあたり、ヤンマー品質保証部に在庫を確認した際、それまでの経験から主機各部の軸受メタルは、すべて当たりを確認する程度で肉厚調整の必要がない、いわゆる完成メタルが使用されているものと思っていたので、初めて行う工事であったが、組込み手順を確認せず、また、ヤンマーの担当者から注意がなかったこともあって、同予備メタルが調整代を付けてオーバーサイズに作成されていることに気付かないまま、翌27日他の作業員に部品を持たせて大精丸に赴かせた。
C課員は、B指定海難関係人と連絡を取りながら、カム軸の開放作業を終え、同日16時ごろ到着した部品を受け取り、作業員3人とともに直ちに復旧作業に掛かったが、それまで現場での間隙調整を要する軸受メタルを扱ったことがなく、B指定海難関係人からも特別な指示がなかったことから、基準軸受に新品メタルを組み込むにあたり、光明丹でカムギヤ取付けフランジとの当たりを確かめただけで、同軸受の特にスラスト間隙が不足したまま組み込み、同日24時ごろ作業を完了した。また、同課員は、主機開放作業の途中、各タイミングギヤの摩耗に気付いたが、当面の運転には支障ない程度だったので、A受審人に時期を見て新替えするよう推奨した。
修理工事終了の連絡を受けたA受審人は、準備作業ののち翌28日02時30分主機を始動して停止回転数の毎分200で約15分運転し、いったん停止のうえ、カム軸各軸受の温度が過度に上昇していないことをC課員らとともに確認して試運転を終了した。
こうして本船は、A受審人ほか6人が乗り組み、C課員及び作業員1人を乗せ、溶融硫黄800トンを積み、同日03時00分仮泊地点を発し、大阪港堺泉北区に向けて主機を増速中、03時20分ツブネ鼻灯台から真方位299度1海里の地点において、回転数が毎分275まで上昇したとき、スラストの増大に伴って基準軸受が急速に過熱焼損し、オイルミストに着火してクランク室の安全弁が作動した。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、海上はやや波があった。
A受審人は、安全弁が噴気する少し前にカムケースドアが過熱し始めたことに気付いていたので、基準軸受が再び損傷したものと判断し、船橋に主機の運転が不能となった旨連絡した。
大精丸は、主機修理にしばらく時間を要することから引船が手配され、同船に曳航されて翌29日早朝大阪港堺泉北区に入港し、揚荷役終了後同港において、基準軸受の軸受メタルを間隙調整のうえ取り替え、併せて各タイミングギヤを表面焼入れされたものに新替えして修理され、のち、基準軸受キャップの取付けボルトが、植込みボルトにダブルナットを掛ける方式に改められた。
B指定海難関係人は、新替えしたばかりの基準軸受が焼損した旨の連絡を受けた際、同型機の組立専門技師に問い合わせ、初めて同カム軸の軸受メタルが間隙調整が必要なタイプであることを知り、のち、同種事故防止のため、課内で打ち合わせ、同メタル組込み手順の詳細を記載したサービスニュースを作成し、社内各営業所等に配布した。

(原因)
本件機関損傷は、主機修理業者が、カム軸軸受メタルの取替え工事にあたり、軸受間隙の調整が必要かどうかなど、組込み手順を確認しなかったことから、同間隙が不足した状態で同メタルが組み込まれ、そのまま運転が再開されたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、それまで扱ったことのない主機カム軸の軸受メタル取替え工事にあたり、軸受間隙の調整が必要かどうかなど、組込み手順を確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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