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1999年(平成11年)

平成10年仙審第46号
    件名
漁船第三十五日東丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第三十五日東丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機6番シリンダのシリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナ並びに過給機の動翼等損傷

    原因
不可抗力(主機排気弁の弁傘部の表層部熱疲労)

    主文
本件機関損傷は、主機排気弁の弁傘部が、表層部の熱疲労により欠損したことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月12日04時55分
福島県東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五日東丸
総トン数 286トン
全長 56.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット(計画出力)
回転数 毎分555(計画回転数)
3 事実の経過
第三十五日東丸(以下「日東丸」という。)は、昭和63年3月に進水し、平成6年2月現所有者が購入したまき網漁業船団付属の鋼製運搬船で、可変ピッチプロペラを推進器とし、主機として、阪神内燃機工業株式会社(以下「阪神内燃機」という。)が製造した6MUH28A型と称する、過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備していた。
主機は、定格出力860キロワット同回転数毎分585(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録され、同出力及び回転数におけるプロペラ翼角が20.6度であったが、現所有者の購入時に負荷制限装置が付設され、計画出力735キロワット、及びプロペラ翼角20.6度に対応する回転数を555として再登録されたもので、4弁式のシリンダヘッドを有する各シリンダには、船首側を1番として6番までの順番号が付され、6番シリンダ船尾側の架構上にVTR251型と称する排ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が据え付けられており、燃料にはA重油が使用されていた。
主機のシリンダヘッドは、中央部に燃料噴射弁が組み込まれ、同弁の船首方に2個の排気弁が、船尾方に2個の吸気弁が、それぞれ右舷側の弁を船首寄りとして左右に組み込まれており、2個の排気弁及び吸気弁が各1組のロッカアームで同時に開閉されるようになっていた。
排気弁は、全長402ミリメートル(以下「ミリ」という。)、弁棒軸部基準径22ミリ及び弁傘部径105ミリの耐熱鋼(材料記号SUH31)製きのこ形弁で、弁傘部の弁座との当たり面にステライト盛金が施され、同弁頂部には、熱応力の分布を均一にするなどの目的でバルブローテータが設けられていた。
ところで、排気弁は、高温の排気ガスに曝されると表層部の組織が変質し、長期間使用されているうちに熱疲労によって強度が低下するため、そのまま使用しているとついには微細な亀裂が発生して疲労欠損するおそれがあったが、使用時間による取替え基準が定められておらず、機関取扱説明書には取替えの判断は個々の弁の状態を点検して決めるように記載されており、同弁の材質が非磁性体なのでマグナフラックスのような磁気探傷検査が使用できないため、通常、目視またはカラーチェックで点検が行われていた。
日東丸は、現所有者が購入以来、毎年の休漁期に、船団所属の僚船と一緒に入渠してピストン抜きやシリンダヘッドの陸揚げ整備等を行っており、僚船の主機も同じく阪神内燃機製であったことから、入渠時には、同社東北営業所のサービスエンジニアに立会いを依頼し、シリンダヘッドの整備は整備業者に行わせていた。
A受審人は、購入時から機関長として乗り組み、主機については、負荷制限装置の封印はそのままに、定格出力の約85パーセント以内の出力で、排気温度を摂氏300度(以下、温度は「摂氏」を省略する。)前後として運転していた。また、同人は、毎年の入渠時には整備業者に主機のシリンダヘッドを陸揚げさせ、吸・排気弁の全数を掃除させたのちに摩耗計測及びカラーチェックで点検させており、以前に僚船の主機排気弁が損傷したことがあったので、自らも同チェックの結果に注意を払い、亀裂が発生していたりシート面のステライト盛金の肉厚が薄くなっているものが発見されれば、サービスエンジニア、整備業者及び造船所工事担当者を含む4者で協議して取替えの是非を決定し、毎年何本かの不良な吸・排気弁を取り替えるなどして整備を行っていた。
日東丸は、同9年3月合ドックで入渠した際にも、全排気弁のカラーチェックを行い、A受審人が同チェックの結果に異常がないことを確認したのち、排気弁が各シリンダヘッドに組み込まれたが、その際、同受審人の乗船以前に高温の排気ガスに曝され、熱疲労によって弁傘表層部の組織が僅かに変質していた排気弁が、亀裂の有無しか確認できないカラーチェックでは異常が発見されないまま、主機6番シリンダヘッドの船首側に組み込まれた。その後、本船は、すべての工事を終えて出渠し、月間500時間ほど主機を運転しながら操業を繰り返していたところ、強度が低下していた同弁弁傘の表層部にいつしか微細な亀裂が発生し、同亀裂が次第に進行する状況となっていた。
こうして、日東丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、かつお漁の目的で、同年9月10日16時00分宮城県塩釜港を発し、岩手県沖合の漁場で操業後、主機の回転数を570、プロペラ翼角を18.5度とし、水揚げのために福島県中之作港に向け航行中、主機6番シリンダ船首側排気弁の弁傘部が欠損して破片がシリンダ内に落下し、同月12日04時55分北緯37度31分東経142度31分の地点において、ピストンとシリンダヘッドとで挟撃された破片の一部が過給機に進入して動翼等が損傷し、過給機がサージングを起こして異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。
自室で就寝中のA受審人は、機関当直者から連絡を受けて機関室に急行し、直ちに主機を停止して点検したところ、6番シリンダ吸・排気弁のプッシュロッドが曲損しているのを認め、その後、排気弁の欠損、ピストン及び過給機等の損傷を発見したため、主機の運転は不能と判断し、その旨を船長に報告した。
日東丸は、来援した僚船に曳航されて石巻港に入航し、主機を開放して精査の結果、主機6番シリンダのシリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナ並びに過給機の動翼等に損傷が判明し、すべての損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
本件機関損傷は、主機排気弁が高温の排気ガスに曝されて熱疲労で弁傘部の強度が低下していたものの、合入渠時の検査では異常が発見されないまま継続使用され、主機の運転中に同弁弁傘部が疲労欠損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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