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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月23日15時45分 沖縄県伊江島南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
旅客船ぐすく 総トン数 616トン 全長 66.00メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
2,942キロワット 回転数 毎分720 3 事実の経過 ぐすくは、沖縄県伊江港と同県渡久地港の定期航路に就航する、平成4年5月に進水した鋼製旅客船兼自動車航送船で、主機として、ダイハツディーゼル株式会社製の6DLM-28S及び6DLM-28SL型と呼称する連続最大出力1,471キロワットの過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を、それぞれ機関室の右舷及び左舷に装備し、各シリンダには、船首側を1番として6番までの順番号が付され、主機架構の船尾側上部には、石川島汎用機械株式会社製造のVTR251-2型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備していた。 過給機は、排気集合管と接続されたタービン入口囲い、タービン車室、ブロワ車室及び軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸から成り、同軸がタービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の推力軸受を兼ねた複列玉軸受とによって支持されており、主機の1、2及び3番シリンダを1群として伸縮継手を介して同入口囲い上側入口へ同様に4、5及び6番シリンダを1群として同入口囲い下側入口へ各シリンダの排気ガスを導き、そこから本体内のノズル及びタービン車室を経て煙突から同ガスを大気に放出するようになっていて、排気通路となる同入口囲い及びタービン車室には、冷却水室が設けられ、主機の冷却水が循環するようになっていた。 ところで、過給機のノズルは、ノズル板が内輪と外輪で固定されていて、排気ガスの温度変化によって膨張及び収縮する度に熱応力を受けることから、同応力を軽減させるため、排気ガス出口側で膨張及び収縮に対して自由度を持たせた構造のものも製作されていたが、運転にあたっては、ノズルに過大な熱応力が繰り返し作用して損傷が生じることのないよう、暖機及び冷機運転を十分に行い、同応力の発生を軽減させる必要があった。 ぐすくは、伊江港及び渡久地港間を夏期は1日5往復、その他の期間は1日4往復の定期運航に僚船と1週間毎に交代で就き、プロペラ軸平均回転数を毎分285ないし290にかけ、プロペラ翼角を23ないし24度とし、15ないし16ノットの平均速力にて片道約30分の所要時間で航行し、各港では30分以上の停泊時間があることから、入航の都度、主機を停止するようにしていた。 A受審人は、建造時から機関長として乗り組み、機関の運転管理に従事し、主機の運転について、就航時から、出航の2ないし3分前に主機を始動し、入航後は、着岸して1分後に主機を停止するような運転を繰り返していた。 ぐすくは、同7年5月、第一種中間検査で、両舷過給機のノズルに亀裂(きれつ)が発生して同ノズルを新替えするとともに、右舷側過給機については、下方の2枚のノズル板のガス出口側に欠損が生じてロータ軸が損傷したことから、併せて同軸も新替えし、同8年5月、定期検査工事で再び両舷過給機のノズルに亀裂が発見され、膨張及び収縮に対して自由度を持たせた構造のノズルに新替えし、同9年5月、第一種中間検査工事では、ノズルの排気ガス出口側について、カラーチェックによる点検を行い、異状は認められなかった。 A受審人は、前示ノズル新替え後も引き続き、主機の運転にあたって、今までと同じ取扱いをしても大丈夫と思い、主機の暖機及び冷機運転を十分に行うことなく、左舷側過給機のノズルが、過大な熱応力を繰り返し受けて熱疲労し、下方の2枚のノズル板の排気ガス入口側に亀裂が入り、同板が欠損するおそれのある状況となっていたことを知らなかった。 こうして、ぐすくは、A受審人ほか9人が乗り組み、旅客229人及び車両39台を載せ、船首2.1メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同9年8月23日15時30分渡久地港を発し、伊江港へ向かい、15.7ノットの速力で航行中、前示亀裂が進展し、左舷側過給機のノズル板が欠損し、タービン動翼に欠損した破片が当たって同翼が曲がり、15時45分琉球中ノ瀬灯標から真方位095度1海里の地点において、主機の1、2及び3番シリンダの排気ガス温度が他のシリンダに比べて著しく上昇した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、主機の異状に気付き、修理業者と連絡をとり、燃料噴射弁、排気弁、燃料噴射ポンプ及び排気管等について、順次点検を行ったものの、状況が変わらなかったことから、主機回転数の上限を毎分700として、排気温度の上昇に注意しながら、運航を続けた。 ぐすくは、9月中旬、伊江港において、修理業者により左舷側過給機を精査した結果、ノズル板2枚が排気ガス入口側で破損し、その破片によってタービン動翼等が損傷していることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、主機の暖機及び冷機運転がいずれも不十分で、過給機ノズルに過大な熱応力が繰り返し作用したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の運転管理を行う場合、過給機ノズルが過大な熱応力を繰り返し受けて損傷が生じることのないよう、主機の暖機及び冷機運転を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、今までと同じ取扱いをしても大丈夫と思い、主機の暖機及び冷機運転を十分に行わなかった職務上の過失により、過大な熱応力が繰り返し作用し、同ノズルに損傷を招き、過給機のロータ軸及びタービン動翼などにも損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |