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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月20日11時30分 宮崎県細島港 2 船舶の要目 船種船名
漁船福栄丸 総トン数 14トン 全長 17.40メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
330キロワット 回転数 毎分2,000 3 事実の経過 福栄丸は、平成6年9月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6KH-ET型と呼称するディーゼル機関1基を装備していた。 主機は、船尾側の油圧湿式多板クラッチ形逆転減速機を介してプロペラを駆動するもので、始動、増減速及びクラッチ操作を船橋の操縦台で行うようになっていた。 主機の潤滑油系統は、油だめの潤滑油が潤滑油ポンプで加圧され、複筒のペーパーフィルタ式こし器と冷却器を経て、ピストン冷却管、各軸受、燃料ポンプ等に供給され、再び油だめに戻るものであった。 主機の計器盤は、船橋の操縦台に設けられ、回転計、潤滑油圧力計などの計器のほか、潤滑油圧力低下、バッテリー充電電流低下などの各警報ランプ、警報ブザー、キー付き始動スイッチ等で構成されていた。 A受審人は、船主兼船長として乗船し、機関の整備管理についてはB受審人を指導しながら順次委任し、最近では一部の作業を専らB受審人に行わせるようにしていた。 B受審人は、福栄丸の機関の整備管理についてA受審人に指導を受け、少しずつ作業を任されるようになり、潤滑油及び保護亜鉛の取替えについては、自分で計画し、実施するようにしていた。 福栄丸は、操業を終えて平成9年5月19日14時ごろ宮崎県細島港に帰港し、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって富島漁業協同組合前の伊勢船だまりの岸壁に着岸した。 A受審人は、翌20日朝、B受審人に定期整備のために主機の潤滑油を取り替えるよう指示したが、同人が作業に慣れているので大丈夫と思い、潤滑油の取替え作業を行った際には、再始動する前に潤滑油量の点検をするよう、徹底して指導することなく、調髪のために近くの理髪店に出掛けた。 B受審人は、09時ごろ主機の潤滑油の取替えにかかり、クランク室横の潤滑油補給口にハンドポンプの吸入ホースを挿入し、油だめの潤滑油を全量くみ出して20リットル缶2個余りに回収したが、船内に保有する予備の潤滑油量が不足していたので、くみ出した廃油を岸壁からほど近い廃油処理場に運んだのち、帰りに潤滑油を購入することにした。 ところで、福栄丸は、主機を運転して操業中、充電電流低下の警報ランプが不規則に点滅する現象が生じていた。また、潤滑油圧力低下警報についても、以前から故障していた。 B受審人は、廃油処理場に向かう途中で普段から整備を依頼していた鉄工所の車を見かけて警報ランプの点滅異状のことを思い出し、廃油を運んだあと、鉄工所員を探し当て、早速計器盤の警報ランプの点検を依頼したが、実際に主機を運転した状態で点滅状況の確認が必要と言われたので、福栄丸の計器盤で見てもらうこととし、主機に補給するための潤滑油を購入し忘れ、鉄工所員とともに福栄丸に戻り、潤滑油をくみ出したままであることを失念したばかりか、警報ランプのことで頭が一杯になり、潤滑油量を点検することなく、船橋に上がって11時29分ごろ主機を始動した。 こうして、福栄丸は、潤滑油のないまま主機がストップ回転の回転数毎分600で運転されたが主機計器盤の潤滑油圧力計の指示が確認されず、また潤滑油圧力低下の警報ランプ点灯もブザーの吹鳴もせず、B受審人と鉄工所員が同計器盤の充電電流低下の警報ランプの点滅状況を注視しているうち、潤滑油が全く供給されなかった主軸受か焼き付き、またピストンヘッドがシリンダライナと金属接触し、11時30分細島灯台から真方位283度1海里の係留地点で主機が自然に停止した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹いていた。 B受審人は、機関室に入って主機の点検をするうち油だめの潤滑油をくみ出したのち補給していないことを思い出し、ターニングができないので運転不能と判断してその旨をA受審人に報告した。 福栄丸は、のち主機が陸揚げされ、損傷したクランク軸、主軸受などが取り替えられた。
(原因) 本件機関損傷は、宮崎県細島港内において、警報ランプの確認のために主機を始動する際、潤滑油量の点検が不十分で、それまで行っていた潤滑油取替え作業で油だめの潤滑油が全量くみ出されたあと、新たに補給されないまま、主機が運転されたことによって発生したものである。 潤滑油量の点検が十分でなかったのは、船長が始動前の潤滑油量の点検を徹底して指導しなかったことと、機関員が始動前に潤滑油量を点検しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、定期整備のため港内で潤滑油の取替え作業を機関員に行わせる場合、潤滑油の取替え作業を行った際には、再始動する前に潤滑油量の点検をするよう、徹底して指導すべき注意義務があった。しかし、同人は、機関員が作業に慣れているので大丈夫と思い、潤滑油量の点検を徹底して指導しなかった職務上の過失により、油だめに潤滑油が補給されないまま主機が運転されて主要部の潤滑が阻害される事態を招き、主機のクランク軸、主軸受などに損傷を生じさせるに至った。 B受審人は、定期整備のため港内で潤滑油の取替え作業中、油だめの潤滑油をくみ出した後、新たに補給する前に警報ランプの状況を見るために主機を始動する場合、潤滑油の取替え作業中だったのであるから、潤滑油不足にならないよう、潤滑油量を点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、警報ランプのことで頭が一杯になり、潤滑油をくみ出したままであることを失念し、潤滑油量を点検しなかった職務上の過失により、潤滑油を補給しないまま主機を始動して主要部の潤滑が阻害される事態を招き、クランク軸、主軸受などに損傷を生じさせるに至った。 |