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1999年(平成11年)

平成10年神審第96号
    件名
引船第八幸神丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、清重隆彦、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第八幸神丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
1番シリンダのライナ割損、連接棒の曲損及びピストンスカート下部破損

    原因
主機排気口からの海水浸入の防止措置不十分、主機に浸入した海水の排除不十分

    主文
本件機関損傷は、船尾に設けられた主機排気口からの、海水浸入の防止措置が不十分であったことと、主機に浸入した海水の排除が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月19日17時20分
大阪府阪南港沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第八幸神丸
総トン数 238.75トン
全長 33.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 2,353キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第八幸神丸は、昭和53年2月に進水した、Z型推進装置を有する2基2軸型の鋼製引船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が同年に製造した8L25BX型ディーゼル機関を装備し、クラッチを介して推進軸と連結されており、主機の発停は機関室で行うようになっていた。
主機は、機関室のやや船首寄りの両舷に、船首側が船尾側よりやや低く約3度傾斜した状態でそれぞれ据え付けられ、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されており、排気は各機ごとに独立した船尾排出方式で、船尾側上部に過給機を設け、排気マニホルド2本と給気マニホルド1本がいずれも右舷側にあって、排気マニホルドがシリンダヘッドより上方に、給気マニホルドが下方になる位置にそれぞれ配列されていた。
主機の排気管は、呼び径450ミリメートルの鋼管が、それぞれ過給機の排気出口孔から上方に立ち上がったのちいく分下降し、機関室後部天井に沿って船尾方に向かい、同室後壁を貫通したうえ軸室に設けられた長さ約1.5メートルの円筒形消音器(以下「消音器」という。)を経て、再び上昇してZ型推進装置室の天井を通ったあと下降し、船尾外板の垂直面に水平位置に並べて設けられた主機排気口(以下「排気口」という。)に接続されていた。また、同管は、全体にラギングが施されて、内部に冷却水は通水されておらず、船尾の排気口は、下縁部が船尾の計画満載喫水線(3.70メートル)から約1.2メートル上方にあり、閉鎖装置は設けられていなかった。
ところで、消音器は、排気管系統で最も低い位置に据え付けられており、船首側底部に呼び径25ミリメートルのドレン弁がそれぞれ取り付けられ、内部洗浄を行った際の洗浄液排出などのほか、主機停止中に、排気口から排気管内に海水などが浸入していないか点検できるようになっていた。
本船は、平成8年2月に港湾土木業等を営むR株式会社に買い取られたのち、同年4月中旬から、長さ60.0メートル幅24.0メートル深さ4.5メートルの非自航式クレーン付台船第88幸神丸(以下「台船」という。)及び小型作業艇1隻とで船団を構成し、船を曳航して瀬戸内海での港湾建設工事に従事していた。
A受審人は、同2年2月同社に入社したのち、同8年4月に本船の機関長として乗り組み、排気が船尾排出方式である機関の運転管理に初めて当たり、消音器のドレン弁は閉弁したままで、長期間主機を停止する際なども同弁を開弁しておくなどの措置はとっていなかった。
本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、兵庫県津名港での護岸工事に従事することとなり、方塊と称する重さ90トンのコンクリートブロック12個を積み取る目的で、船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同年12月19日08時30分同港を発し、船団長ほか作業員6人が乗船している台船を曳航し、約6ノットの曳航速力で大阪府阪南港に向かった。
その後、本船は、阪南港の工事事務所から、船混みのため予定を変更して同日16時00分に着岸するようにとの業務連絡があったので、同港外で沖待ちするため、12時10分泉大津沖埋立処分場2号灯から真方位252度2,040メートルの地点において、南東に向首して錨泊した台船に係留されることとなった。
ところで、A受審人は、台船への係留作業のため船尾配置に就いたとき、折から強い北西風が吹き、白波も立っているのを認めていたが、本船で港外に仮泊したことがほとんどなく、これまでに海水が排気口に浸入することもなかったので、排気口を風下として係留するよう船長等に進言するなど、排気口からの海水浸入防止の措置をとることなく、本船が台船の右舷船尾部に左舷付けされたのち、台船からの給電措置をとって主機及び補機を停止し、12時30分他の乗組員とともに台船に移乗して休息した。
このため、無人のまま係留された本船は、北西の強風と高起した波を船尾から受け、大きくピッチングしたときに主機排気口から内部に海水が浸入するようになり、特に台船から離れた右舷主機の排気管系統には大量の海水が浸入し、やがて消音器前後の排気管に溜まった多量の海水が、船体動揺に伴い、過給機出口の最高部を乗り越えて主機に浸入し始めた。
A受審人は、同日15時15分機関用意に備えて本船の機関室に戻ったとき、停止後のエアランニンクで開弁していた指圧器弁のうち、右舷主機5番シリンダの同弁から海水が出ていることに気付き、各部を点検したのち、船尾排気管からの海水浸入のおそれに思い至り、船尾に赴いたところ、波が船尾甲板に打ち上がって、排気口に海水が入り込んでいるのを認めたことから、直ちに台船のウインチを使用して本船を反転させた。
機関室に戻ったA受審人は、一等機関士とともに、まず右舷主機から内部に浸入した海水の排除を開始し、ターニングを20回転ぐらい行ってある程度の海水を排出したうえ、小刻みなエアランニングに切り替え約3分間にわたって繰り返した結果、指圧器弁から液状で噴出していた海水がやがて霧状になったので、海水がほぼ全量排出されたものと思い、消音器及び給気マニホルドの前後に取り付けられた給排気系統のドレン弁のうち、同マニホルドの船尾側コックのみ開けていたものの、すべてのドレン弁を開けて同系統内の海水を十分排除しなかったため、小刻みなエアランニングでは排気管や給気マニホルドの海水が排除されずに、多量に残留していることに気付かないまま、同日17時05分ごろ右舷主機の始動準備に取り掛かった。
こうして本船は、A受審人が始動準備を終えた右舷主機を始動したところ、給気マニホルドに残留していた海水が吸入行程で吸引されたものか、あるいは始動準備中にも続いていたピッチングによって消音器前後の排気管に滞留した海水が、たまたま開いていた排気弁から逆流したものか、同日17時20分前示係留地点で台船に係留されたまま、1番シリンダに浸入した海水をピストンとシリンダヘッドで挟撃し、シリンダライナが割損するなどして大音響を発した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、海上には白波が立っていた。
A受審人は、右舷主機1番シリンダのヘッドとライナの合わせ面から霧状に水が噴出したため、同機が運転不能となった旨を船団長等関係者に通報したうえ、クランク室を点検した結果、1番シリンダのライナ割損のほか、連接棒の曲損及びピストンスカート下部が破損していることなどを認め、左舷主機については、入念な海水の排除を行って順調に始動させた。
その後、本船は、手配された引船により積荷を終えた台船とともに津名港に引きつけられ、のち同地で右舷主機1番シリンダのピストン、シリンダライナ、連接棒及びクランクピンボルトなど損傷部品をすべて新替えされるとともに、排気口に簡単な閉鎖装置が新設された。

(原因)
本件機関損傷は、風波の高い状況下、港外で錨泊中の台船に係留する際、船尾に設けられた排気口からの、海水浸入の防止措置が不十分であったことと、主機に浸入した海水の排除が不十分で、始動時、シリンダ内に浸入した海水をピストンとシリンダヘッドで挟撃したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、風波の高い状況下、海水が船尾の排気口から主機に浸入していることを認めて排除する場合、消音器前後の排気管あるいはシリンダヘッドより下方にある給気マニホルドには、エアランニングを繰り返し行っても海水が排除できないまま多量に残留しているおそれがあったから、主機を始動する前には、給排気系統のドレン弁をすべて開弁して、海水を十分排除すべき注意義務があった。ところが、同人は、エアランニングを数回繰り返した結果、指圧器弁から液状で噴出していた海水がやがて霧状になったのでほぼ全量排出されたものと思い、海水を十分排除しなかった職務上の過失により、排気管や給気管に海水が残留していることに気付かないまま主機を始動し、シリンダ内に浸入した海水をピストンとシリンダヘッドで挟撃させ、シリンダライナ、連接棒及びピストンなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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