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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月25日23時00分 東シナ海中部 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八十七祐生丸 総トン数 354.86トン 登録長 44.20メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
735キロワット 回転数 毎分437 3 事実の経過 第八十七祐生丸は、昭和52年1月に竣工した船尾楼付一層甲板船尾機関室型の鋼製漁船で、機関室前方の上甲板下に船首側から順に1番から8番までの魚倉を有し、8番魚倉の上方左舷側の上甲板上に魚倉ビルジ排出用の機器を備え、機関室の下部中央に主機を、主機の前方機関室床板の下方に容積約2立方メートルの主機潤滑油サンプタンク(以下「サンプタンク」という。)をそれぞれ配置し、基地を長崎県生月漁港と定めた大中型旋網漁業船団所属の運搬船として、東シナ海、黄海又は対馬北東方海域での操業に従事していた。 ところで、主機は、株式会社新潟鐵工所が昭和51年11月に製造した6MG31EZ型と称するディーゼル機関で、船首側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、船首側下部に直結した潤滑油ポンプにより、サンプタンク内の潤滑油を吸引して最大約6キログラム毎平方センチメートルの圧力としたあと、潤滑油クーラ、金網式フィルタ等を経て軸受、歯車等へ送る一方、サンプタンク上方の機関室床板から約40センチメートル(以下「センチ」という。)上方で、機関室前部隔壁から20ないし30センチ離して船横に設置した3個の潤滑油連続側流清浄用遠心式フィルタ(以下「遠心式フィルタ」という。)に並列に導き入れるようになっており、計画出力1,103キロワット同回転数毎分500と定めていたところ、平成6年9月船舶所有者がR株式会社に変わってからは、燃料噴射ポンプのラック駆動機構に出力制限用の止め金を取り付けて封印し、計画出力を735キロワット、同回転数を毎分437に変更してあった。 また、遠心式フィルタは、相模船舶工業株式会社製のF-II型と称し、導き入れた潤滑油の流れを利用して内蔵のロータを高速回転させる遠心分離器で、外径が直径約16センチ高さ約28センチの円筒状となっていて、カバーをかぶせたアルミニューム鋳物製の外筒の下部右舷側に呼び径16ミリメートルピッチ1.5のめねじを切り、これにニップルと同様な形状をした鋼製の潤滑油入口管接続用継手(以下「継手」という。)をねじ込み、外筒の下面には鋼製の潤滑油出口管接続用フランジを取り付けたうえ、振動止めとして、外筒上部船首側面の肉厚部に鋼板を当ててボルト止めし、軽山形鋼の一端を鋼板の船首側側面に、他端を機関室前部隔壁の船尾側側面にそれぞれ溶接付けしてあった。 一方、A受審人は、平成6年9月から本船に機関長として乗り組み、航海中の機関室当直を単独6時間交代制として一等機関士と2人で担当し、同当直中、1時間ごとの機関室巡検と2時間ごとの機関日誌記入を行い、サンプタンクについては、油量がほぼ1キロリットルを保持するように数日置きに30ないし40リットル補油し、遠心式フィルタについては、熱くて素手で触れないうえ、振動止めがあったにもかかわらず、振動がかなり激しいのを認めつつ、ほぼ1箇月ごとに開放掃除を行っていたが、主機の運転に何ら支障をきたしたことがなかったので、開放掃除を終えたあと、予備の電動潤滑油ポンプを運転してカバーからの漏油の有無を確認する程度で、振動止めや付属配管を充分に点検することなく、いつしか左舷側の同フィルタにおいて、振動止めの鋼板が軽山形鋼から外れ、継手ねじ込み用のめねじが磨滅して継手の締付けが緩み、継手の付け根から潤滑油がにじみ出してきたことに気付かないまま、運航に従事していた。 こうして本船は、継手ねじ込み用のめねじの磨滅が一段と進行した状態で、A受審人ほか7人が乗り組み、平成10年9月24日13時25分長崎県松浦港に着いて漁獲物の水揚げを済ませ、燃料、清水、氷等を補給したのち、東シナ海の漁場に向けて18時00分同港を発し、翌25日19時A受審人が機関室当直に就き、主機の回転数を毎分約450に定め、同人が機関室上部後方の機関制御室で機器の監視にあたりながら航行中、継手ねじ込み用のめねじの磨滅が著しく進行し、継手がめねじの穴から抜け出して潤滑油が噴出するようになった。 その後ほどなく本船は、網船らの待つ漁場に近付き、漁獲物の積込みに備えて、A受審人が機関制御室後方の出入口から船尾甲板を経て8番魚倉の上方左舷側の上甲板上に赴き、魚倉ビルジの排出を行っていたところ、サンプタンクの油面が低下して潤滑油ポンプが多量の空気を吸引するようになり、主機の潤滑油圧力が異常に低下して機関室内で警報ベルが吹鳴するようになったものの、同人がこれに気付かないでいるうち、ピストンとシリンダライナとが焼き付き始め、やがて警報ベルの吹鳴に気付いた同人が漁倉ビルジの排出を中止し、機関制御室に戻って機関室内に入ったとたん、23時00分北緯29度25分東経126度06分ばかりの地点において、クランク室内で爆発が起きるとともに、主機が停止した。 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、機関室内に充満した白煙を排出して主機停止の原因を調査した結果、継手の抜出し、サンプタンク内潤滑油の流出、クランク室内の異常発熱、1番、2番及び3番各シリンダのシリンダライナ焼損等を認めて主機の運転不能と判断し、その旨船長に報告した。 本船は、僚船に引かれて長崎港に入り、修理業者に依頼して主機を開放し、1番、2番及び3番各シリンダのピストン、シリンダライナ、ピストンピン等新替え、4番及び5番両シリンダのピストンとシリンダライナの焼付き箇所修正等を行った。
(原因) 本件き機関損傷は、主機潤滑油連続側流清浄用遠心式フイルタの開放掃除時において、同フィルタの点検が不十分で、同フィルタの潤滑油入口管接続用継手ねじ込み部の磨滅による同継手の緩みが放置され、漁場へ向けて航行中、同継手が同フィルタから抜け出して潤滑油が流出し、主機に潤滑油不足をきたしたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機潤滑油連続側流清浄用遠心式フィルタの開放掃除を行う場合、航行中、同フィルタは熱くて素手で触れず、また、振動止めがあるにもかかわらず、振動がかなり激しかったから、経年や振動などによって生じた異状を早期に発見できるよう、同フィルタの本体のみならず、振動止めや付属配管も十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同フィルタの使用に格別な支障を生じなかったこともあって、開放掃除を済ませたあと、予備の電動潤滑油ポンプを運転してカバーからの漏油の有無を確認する程度で、同フィルタを十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油入口管接続用継手ねじ込み部の磨滅による同継手の緩みを放置し、東シナ海を漁場に向けて航行中、同継手が同フィルタから外れて潤滑油が流出する事態を招き、主機のピストンとシリンダライナの焼付き等を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |