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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月18日19時00分 日本海西部 2 船舶の要目 船種船名
漁船大洋丸 総トン数 75.55トン 登録長 28.28メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
529キロワット 回転数 毎分600 3 事実の経過 大洋丸は、昭和52年1月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6G-UTC型と称するディーゼル機関を装備し、同機の動力取出軸により駆動される容量40キロボルトアンペアの交流発電機及び油圧ポンプを備え、操舵室には主機の回転計及び潤滑油圧力計などの計器並びに潤骨油圧力低下及び冷却清水温度上昇などの警報装置が組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。 主機は、シリンダ径240ミリメートル、ピストン行程290ミリメートル、連続最大出力882キロワット、回転数毎分820の原型機関に出力制限装置を付設して漁船法馬力数400としたもので、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、シリンダヘッドに始動弁、燃料噴射弁、吸気弁及び排気弁などを組み込み、同機の船尾側上部に過給機を備えていた。 また、主機の過給機は、石川島汎用機械工業株式会社製のVTR200型と称する軸流式排気ガスタービンで、その本体が排気入口ケーシング、タービン車室及びブロワ車室からなっており、主機の1、2及び3番シリンダを1群として上部排気集合管を通って同ケーシングの上側排気入口へ、同様に4、5及び6番シリンダを1群として下部排気集合管を通って同ケーシングの下側排気入口ヘ各シリンダの排気ガスを導き、そこから本体内のノズル及びタービン車室を経て煙突から同ガスを大気に放出し、排気通路となる同ケーシンク及びタービン車室には、冷却水室が設けられていて、主機の冷却水が循環するようになっていた。 主機の冷却水系統は、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、呼び径65ミリメートルの冷却水入口主管に至り、同主管からシリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却する系統と、同主管から呼び径25ミリメートルの枝管で過給機の排気入口ケーシング及びタービン車室を冷却する系統とに分流し、それぞれ各部を冷却して冷却水出口集合管で合流したのち、自動温度調整弁を経て船外吐出弁から排出されるようになっていたほか、同吸入弁から電動の同ポンプにより吸引力加圧された海水が、空気冷却器、潤滑油冷却器及び逆転減速機用潤滑油冷却器を冷却して船外へ排出されるようになっていた。 本船は、鳥取県境港を基地とし、9月から翌年5月までの操業期間中、日本海西部の漁場に赴き、1航海が4ないし5日間の操業を繰り返し、例年、休漁期の7月ごろ入渠して船体及び機関の整備が行われていた。 A受審人は、昭和57年8月に甲板員として乗り組んだのち、平成元年8月に機関員となり、同4年5月から機関長に昇格して機関の運転と保守に従事していたもので、毎年主機のピストン及び過給機などの開放整備を行いながら回転数を毎分650までとして、年間約4,000時間運転していた。 ところで、A受審人は、同6年7月ごろ過給機の排気入口ケーシンク及びタービン車室の肉厚計測を行った際、同ケーシングの肉厚の衰耗を認めてこれを取り替えたのち、過給機を開放したその都度、特に長期間継続使用していた同車室の衰耗状態を点検していた。 本船は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、同9年5月14日22時30分境港を発し、翌15日未明島根県沖合の漁場に至って操業を開始し、越えて18日16時ごろ主機を回転数毎分450にかけてえい網中、冷却水の腐食作用などにより局部的に肉厚が衰耗していたタービン車室のドレン穴近くに破孔を生じた。 機関当直に就いていたA受審人は、操舵室から煙突の排気ガスが白変している旨の連絡を受けて過給機の周囲を点検したところ、タービン車室の排気ガス出口管辺りから冷却水が少し漏洩(ろうえい)しているのを認め、過給機に破孔を生じたものと判断して主機の回転数を減じ、えし網を中止して揚網したのち操業を打ち切り、同日17時ごろ主機を回転数毎分350にかけて修理のため帰港することとした。しかしながら、同人は、煙突の排気ガスが余り白変していないので大丈夫と思い、過給機の冷却水を遮断のうえ主機を無過給で運転するなどして、シリンダ内への冷却水の浸入防止措置を講じることなく、過給機に冷却水を通したまま運転を続けたので、過給機のタービン車室に生じた破孔部が次第に拡大して排気ガス側に漏洩する冷却水が増加するおそれのある状況となっていることに気付かなかった。 こうして、本船は、主機を回転数毎分350にかけて帰港の途、過給機から漏洩する冷却水が著しく増加して下部排気集合管を経て6番シリンダ内に浸入し、ピストンで繰り返し突き上げられているいるうち、19時00分北緯35度37分東経131度55分の地点において、同シリンダの連接棒が曲損してシリンダライナの下部に接触し、異音を発して主機の回転数が低下した。 当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、海上は平穏であった。 食堂にいたA受審人は、主機の回転数が低下したのに気付き、機関室に急行したところ、過給機シールエア用圧力バランス通路付近から多量の冷却水が外部に漏洩しているのを認めて直ちに主機を停止し、運転不能と判断してその旨を船長に報告した。 本船は、来援した僚船により境港に引き付けられ、同港において精査した結果、6番シリンダのシリンダライナの下部が破損し、連接棒が曲損していたほか、4番及び5番シリンダのピストン頂部にも冷却水が滞留していることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、主機過給機のタービン車室に破孔を生じて修理のため帰港するにあたり、シリンダ内への冷却水の浸入防止措置が不十分で、過給機の冷却水を遮断しないまま主機の運転が続けられ、排気集合管を経てシリンダ内に浸入した冷却水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機過給機のタービン車室に破孔を生じて修理のため帰港する場合、漏洩した冷却水が排気集合管を経てシリンダ内に浸入するおそれがあったから、過給機の冷却水を遮断のうえ主機を無過給で運転するなどして、シリンダ内への冷却水の浸入防措置を講じるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、煙突の排気ガスが余り白変していないので大丈夫夫と思い、シリンダ内への冷却水の浸入防止措置を講じなかった職務上の過失により、冷却水がシリンダ内に浸入していることに気付かないまま運転を続け、冷却水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されて水撃作用の発生を招き、6番シリンダのシリンダライナに破損、連接棒に曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |