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1999年(平成11年)

平成11年函審第19号
    件名
漁船勢作丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:勢作丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1、2番シリンダの連接棒折損、シリンダライナ、クランク室、カム軸室なとが破損、全主軸受メタルが摩耗と傷

    原因
排気弁の整備不十分、潤滑油の交換周期不適切

    主文
本件機関損傷は、排気弁の整備が不十分であったことと、潤滑油の交換周期が不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月26日04時30分
長崎県対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船勢作丸
総トン数 19トン
登録長 18.94メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,940
3 事実の経過
勢作丸は、平成元年3月に進水し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、例年1月から4月末まで長崎県下県郡美津島町の大船越漁港を基地とし、5月から12月末までは北海道小樽港までの日本海沿岸諸港を基地として日本海漁場で操業に従事していた。
主機は、株式会社小松製作所が製造したEM679A-A型と呼称するディーゼル機関で、各シリンダには船首側から順番号を付し、プロペラ軸との間には逆転減速機を装備しており、船橋の主機操縦スタンドには、主機の回転数を制御する燃料調整レバーと、逆転減速機のクラッチの嵌(かん)脱操作を行うクラッチレバーとが設けられ、遠隔操作ができるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部に設けられた油受に潤滑油が100リットル入れられ、同油力直結潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧され、冷却器及び使い捨てフィルタを経て二方に分かれ、一方が、クランク軸、カム軸、過給機、弁腕装置などへ注油する主系統で、他方が、潤滑油圧力が1.2ないし1.6キログラム毎平方センチメートル以上に上昇すると開弁するピストンクーリングバルブを経由して、各シリンダのシリンダライナ下方に設けられたノズルから噴出してピストン内面を冷却するピストン冷却系統で、各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻るようになっていた。
冷却器のエレメントは、多板式で、1層がアルミ合金製の2枚の薄板に挟まれた部分を潤滑油通路として15層から成る構造のもので、各層の外側を冷却水が流れるようになっており、潤滑油通路側には多数の冷却フィンが設けられていた。
A受審人は、勢作丸の就航時から船長として乗り組み、操船のほか機関の運転にも携わり、主機潤滑油の性状管理に当たっては、潤滑油の交換を就航後5年ばかりは機関取扱説明書に従い運転時間250時間毎に行っていたが平成6年1月の機関整備において全シリンダのピストン及びシリンダライナを新替えした後、規定の運転時間250時間を約450時間に延長し、潤滑油の交換を適切な周期で行わなかった。
また、A受審人は、前示機関整備の際に吸排気弁の整備を行ってその後の操業に従事していたところ、運転時間が経過するに従い排気弁の弁棒及び弁棒案内の摩耗が進み、次第にガス漏れが多くなるとともに弁腕注油された潤滑油への混入量も多くなり、同7年12月ごろ鳥取県境港において業者に燃料噴射弁の整備を依頼したとき、シリンダヘッド上が排気弁の弁棒案内部より漏れたガスで黒くなっていて、潤滑油が汚れていることを指摘されたが、排気弁の弁棒案内部からのガス漏れ程度では大事に至ることはあるまいと思い、排気弁を整備しなかったので、潤滑油は、ガス中の燃焼生成物などにより汚損劣化が進み、更に交換周期の延長と重なってスラッジが生じ易くなっていた。
その後、勢作丸は、同8年3月冷却器エレメントに冷却水漏れを生じ、同エレメントを新替えしてその後の操業を繰り返していたところ、排気弁の弁棒及び弁棒案内の摩耗が更に進んでガス漏れも一層多くなり、それに伴いスラッジが増えて同エレメントヘの付着も次第に多くなっていた。
勢作丸は、同9年8月に小樽港を基地として操業中、機関メーカーの札幌支店に燃料噴射弁の整備などを依頼したところ、シリンダヘッド上の弁腕装置が排気弁の弁棒案内部より漏れたガスにより著しく汚れ、潤滑油が汚損劣化していると指摘されたものの、依然、排気弁の整備及び潤滑油の規定運転時間内での交換を行うことなく操業を続けているうちに、冷却器エレメントヘのスラッジの付着が更に多くなり、やがて、同エレメントが目詰りして、入港時などで主機の回転が低下したときには、潤滑油圧力が警報設定値近くまで低下し、各部への潤骨油供給量が減少気味になっていた。
こうして勢作丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、同10年3月25日17時00分大船漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に至って操業を開始し、いか約10箱を漁獲したところで操業を終えて翌26日03時50分主機を回転数毎分1,700の全速力前進にかけて帰途についたところ、冷却器エレメントの目詰りが進み、ピストン冷却油圧力が更に低下するとともに、1、2及び6番シリンダのピストンが冷却阻害されて過熱膨脹し、04時30分対馬黒島灯台から真方位075度約15海里の地点において、同ピストンがシリンダライナに焼き付いて主機の回転が低下した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、船橋当直中に突然警報ブザーが鳴り、直後に船体に重い抵抗を感じ、驚いてプロペラに異物が巻き付いたものと判断して燃料調整レバーを全速力位置のままクラッチレバーを中立としたところ、主機は、ピストンが焼き付いたまま運転されて1、2番シリンダの連接棒が折損し、振れ回った連接棒でシリンダライナ、クランク室、カム軸室などが破損されて停止した。
勢作丸は、付近で操業中の僚船に救助を求め、同船に曳航されて大船越港に入港し、修理業者が開放点検した結果、前示損傷のほか全主軸受メタルが潤滑油不良による摩耗と傷を生じており、のち経費の都合から主機を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、排気弁の弁棒案内部よりガス漏れするのを認めた際、排気弁の整備が不十分で、漏れたガスが潤滑油に混入する状態で運転が続けられたことと、潤滑油の性状を管理するに当たり、潤滑油の交換周期が不適切で、同油の汚損劣化が進行したこととにより、冷却器エレメントが同油に生じたスラッジの付着により目詰りし、潤滑油圧力が低下してピストンの冷却が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、排気弁の弁棒案内部よりガス漏れするのを認めた場合、潤滑油がガスの混入によりスラッジを生じ易くなるから、ガス漏れすることのないよう、排気弁を整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、排気弁の弁棒案内部からのガス漏れ程度では大事に至ることはあるまいと思い、排気弁を整備しなかった職務上の過失により、冷却器エレメントが同油に生じたスラッジの付着により目詰りして潤滑油圧力が低下する事態を招き、ピストンの冷却が阻害されてピストンとシリンダライナとが焼き付き、連接棒が折損してシリンダライナ、クランク室、カム軸室などを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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