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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月2日13時45分 関門港 2 船舶の要目 船種船名
油送船第十三伸興丸 総トン数 173トン 全長 40.0メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
257キロワット 回転数 毎分1,100 3 事実の経過 第十三伸興丸(以下「伸興丸」という。)は、昭和60年9月に進水し、主として関門港六連島区の油槽所から同港若松区の製造会社に油製品を運搬する液体化学薬品ばら積船兼油送船で、主機としてダイハツディーゼル社が製造した6PKTdM-16AFS型と称するディーゼル機関を装備していた。 主機は、船首側を1番として6番までシリンダ番号が付けられ、各シリンダヘッドに吸気弁と排気弁をそれぞれ2個備え、船尾側に排気ガスタービン過給機を設置し、クラッチ付逆転減速機を介してプロペラを、また船首出力軸に接続されたエアクラッチと増速機を介して貨油ポンプを駆動するようになっていた。 排気弁は、外径56ミリメートルの弁傘のフェイス部にステライト盛金を施され、シリンダヘッド燃焼室面の弁座にフェイス部が密着するよう、弁棒が弁ガイドに挿入され、弁棒頭部に弁ばねとそれを受けるバルブローテータが取り付けられていた。 過給機は、ラジアル型排気ガスタービンのロータ軸に遠心ブロワを取り付け、同軸中央部を浮動軸受と推力軸受で支え、タービンロータの動翼の外周をタービン車室とノズルリングが囲むように組み立てられていた。 伸興丸は、航海及び貨油ポンプの運転のために主機が1箇月当たり200時間ほど運転され、平成7年に第1種中間検査を受けた際には主機のピストン抜き整備を行って排気弁が取り替えられ、翌8年8月の合入渠時にはシリンダヘッドを開放して排気弁を含む各弁と燃焼室面の整備が行われたが、同整備後1年ほど経過するうち、燃焼不良によるカーボン質の燃焼生成物が1番シリンダの排気弁フェイスと弁座に噛み込み、排気ガスの吹き抜けが生じていた。 A受審人は、伸興丸ほか2隻を運航する船会社に所属して各社船の機関長として乗船し、平成9年8月初旬に伸興丸に乗船してまもなく、1番シリンダの排気温度が他のシリンダよりも摂氏30度ないし40度高いことに気付いたが、夏の暑さで温度が上がっていると思い、1番シリンダの排気弁の開放整備をすることなく、同排気弁のフェイス部に排気ガスの吹き抜けが生じ、高温の排気ガスと吸気による冷却のために微小な亀裂が発生していることに気付かないまま運転を続けた。 伸興丸は、平成9年9月2日昼ごろ、北九州市若松区藤ノ木の工場でエチレンボトムオイルを揚荷し、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま船首0.6メートル船尾2.6メートルの喫水をもって13時10分関門港若松区を発し、同港六連島区に向かって主機を回転数毎分1,020にかけて7.0ノットの速力で進行していたところ、主機の1番シリンダ左舷側排気弁のフェイス部に生じていた亀裂が進展して弁傘が約3分の1周にわたって割れ、破片がピストンとシリンダヘッドに挟撃されたのち、排気管を経て過給機に飛び込み、13時45分若松洞海湾口防波堤灯台から真方位218度850メートルの地点において、煙突から白煙を吹き出して主機の回転数が低下した。 当時、天候は晴で風力4の西風が吹いていた。 伸興丸は、直ちに航路から外れたところに錨泊し、A受審人が主機を点検したのち、減速して関門港西山区南風泊に向かい、着岸して開放の結果、1番シリンダの排気弁のうち1本が欠損し、ピストン、シリンダライナ及びシリンダヘッドに無数の打痕があり、過給機のノズルリングとタービン動翼とが変形しているのがわかり、のち損傷部が取り替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、前回の入渠から約1年が経過し、主機の1番シリンダの排気温度が他のシリンダに比べて異常に高くなった際、排気弁の開放整備が不十分で、排気ガスの吹き抜けが生じたまま運転が続けられ、排気弁傘が割れて破片が過給機に飛び込んだことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の1番シリンダの排気温度が他のシリンダに比べて異常に高いことに気付いた場合、排気ガスの吹き抜けが生じているおそれがあったから、直ちに排気弁の開放整備の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、夏の暑さで温度が上がっていると思い、排気弁の開放整備の措置をとらなかった職務上の過失により、排気弁傘の割損を招き、破片がピストンとシリンダヘッドに挟撃され、まだ過給機のノズルリングとタービン動翼に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |