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1999年(平成11年)

平成9年神審第102号
    件名
漁船第25実照丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、清重隆彦、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第25実照丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダのクランクピン軸受焼損、ピストン割損、クランク室ドア等破損、クランク室底部の油溜め破損

    原因
主機潤滑油こし器のドレンプラグの締付け確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器のフィルタエレメント交換作業を行った際、ドレンプラグの締付け確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月5日16時30分
福井県越前漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第25実照丸
総トン数 9.92トン
登録長 14.96メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,800(定格回転数)
3 事実の経過
第25実照丸は、昭和55年9月に進水した一本釣り及び底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が同年に製造した6LAAK-DT型セルモータ始動式ディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置、計器盤及び警報装置を備え、同室から発停を含むすべての運転操作が行われていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部油溜(だ)め(標準張込み量約60リットル)から、直結の潤滑油ポンプにより吸引加圧された同油が、こし器及び潤滑油冷却器を通り、圧力調整弁で調圧されて入口主管に至り、同管から主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受等を潤滑したのち同油溜めに落下するようになっており、主機警報装置に潤滑油圧力低下警報は組み込まれていたが、油圧低下による非常停止装置は設けられていなかった。
ところで、潤滑油こし器は、複式の紙製フィルタ式のもので、主機右舷側下部に前後に取り付けられ、2個の円筒形フィルタケース(以下「ケース」という。)内に、外径117ミリメートル(以下「ミリ」という。)高さ220ミリの中空円筒形紙製フィルタエレメント(以下「エレメント」という。)をそれぞれ挿入し、ケース中心部を貫通するセンターボルトで吊り下げるようにこし器基部に取り付けられていた。
また、ケース底部には呼び10ミリのドレンプラグがねじ込まれており、エレメントを交換する際には、同プラグ穴からケース内の残油を抜き取ったのち、センターボルトを緩めてケースを取り外し、エレメントを交換するようになっていた。
本船は、若狭湾周辺を漁場として毎年9月から翌年5月にかけて操業を繰り返し、6月から8月末まで休漁して船体及び機関の整備を行っていたもので、平成9年5月末で操業を切り上げ、基地としている福井県越前漁港の防波堤内側に係留し、毎回機関等の整備を依頼している地元の有限会社R(以下「R社」という。)に発注して漁具の改装工事を行ったのち、同年7月末には、越前港新保第2防波堤灯台から真方位003度260メートルの係留岸壁に係船した。
A受審人は、建造以来船長として本船に乗り組んでおり、今回の休漁期には外注による機関整備を行わないことにし、翌8月5日、主機潤滑油の取替えと同油こし器のエレメント交換を行うため、1人で本船に赴いた。そして、同人は、潤滑油を取り替えてからエレメント交換作業に取りかかり、手順どおりにエレメントを抜き出し、ケースの内部掃除を行ったうえドレンプラグを手でねじ込み、新しいエレメントをケースに挿入してセンターボルトを締め付けた。
ところが、A受審人は、手慣れた作業なので間違いないものと思い、ドレンプラグ等の締め忘れがないか確認することなく一連の作業を終えたので、同プラグをスパナで締め付けていないことに気付かないまま、試運転を行うため操舵室に上がった。
その後、A受審人は、同日15時00分に主機を始動し、いったん機関室に戻って潤滑油圧力等を確認したのち、始動の際セルモータの回転力が弱くバッテリーの電圧が低下していることを認めていたので、引き続き主機駆動の発電機でバッテリー充電を行うこととし、主機を停止回転の毎分1,300にかけて運転を継続した。しかし、同人は、このあとR社との打合せを予定していたことから、船内を無人としたまま本船を離れた。
こうして本船は、主機の運転が続けられる間に、手でねじ込まれただけで締付けの不足した潤滑油こし器の両ドレンプラグが徐々に緩み、船首側プラグが脱落して潤滑油が噴出し、やがて油切れとなって3番シリンダのクランクピン軸受が焼損するとともに、ピストンが割損して連接棒小端部が左舷側のクランク室ドア等を破損し、主機が自停した。
A受審人は、所用を済ませて本船に戻ったところ、同日16時30分前述の係留地点において主機が停止しているのを発見した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、港内は穏やかだった。
本船は、連絡を受けて来船したR社が主機を精査した結果、前述の損傷のほか、クランク室底部の油溜めが破損していることなどが判明し、修理のため陸揚げしたものの、メーカーにクランク軸の在庫がなく納期に3箇月程度要すことが見込まれたため、操業開始が追っていることもあって、中古の機関と換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油こし器のフィルタエレメント交換作業を行った際、ドレンプラグの締付け確認が不十分で、バッテリー充電のため主機運転中に同プラグが緩んで脱落し、油切れとなったまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油こし器のフィルタエレメント交換作業を行った場合、ケース底部のドレンプラグを締め忘れ、同プラグが脱落して潤滑油が流出することのないよう、同プラグを確実に締め付けたか確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、手慣れた作業なので間違いないものと思い、同プラグを確実に締め付けたか確認しなかった職務上の過失により、ドレンプラグを締め忘れたことに気付かないまま、船内を無人として主機の運転を続け、同プラグが脱落して潤滑油の流出を招き、3番シリンダのクランクピン、ピストン及び連接棒並びにクランク室等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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