日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年門審第16号
    件名
漁船日進丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、供田仁男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:日進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1番シリンダのクランク軸、主軸受メタル及び連接棒などに損傷

    原因
主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年1月12日09時00分
長崎県対馬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船日進丸
総トン数 12トン
登録長 16.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 80キロワット
3 事実の経過
日進丸は、平成2年11月に進水した、定置漁業及び養殖業に従事するFRP製漁船で、主機は、昭和62年に中古品で購入した、三菱重工業株式会社製の6PF-1型と呼称する無過給式ディーゼル機関で、各シリンダは船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめに入れられた約40リットルの潤滑油が主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び潤滑油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各シリンダごとの主軸受に入り、クランク軸内を通ってクランクピン軸受を順に潤滑し、更に連接棒内を通ってピストンピン軸受を潤滑する系統などに給油され、各部の潤滑や冷却をしたのち同油だめに戻る循環経路のほか、潤滑油冷却器の出口側から遠心式こし器を経て同油だめに戻る側流経路とからなっていた。
潤滑油圧力低下警報装置は、機関室の機側計器盤のみに取り付けられており、正常運転時約3キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の潤滑油圧力が0.5キロ以下に低下すると、警報ブザーが作動するとともに警報ランプが点灯するようになっていたが数年前から同ランプが壊れて同ブザーも作動しない状態となっており、潤滑油圧力計は、取り付けられていなかった。
ところで、主機の潤滑油は、長時間使用するうちにスラッジ、燃焼成生物であるカーボン粒子及び金属紛などにより汚れるとともに高温にさらされることや燃料油及び水分の混入などで性状の劣化が進行するので、機関取扱説明書には、スポットテストなど簡単な潤滑油の汚損度の判定方法とともに、750時間毎には必ず全量を交換すべきことが記載されていた。
A受審人は、平成4年1月から日進丸の船長として機関の運転及び保守管理に当たり、平成7年3月に潤滑油の交換を行い、その後同油の交換を行わないまま月平均150時間ほどの主機の運転を続けていた。
日進丸は、平成8年1月12日朝、A受審人ほか3人が乗り組み、定置網を揚げるために出漁することとなったが、このころ、主機の潤滑油が交換基準時間を大幅に超えて使用されていたので、著しく汚損劣化し、同油こし器のエレメントの目詰まり、潤滑油ポンプの歯面などの摩耗が進行したことによる同ポンプの能力の低下及び軸受部の摩耗による軸と軸受メタルの間隙の増大などにより潤滑油圧力が徐々に低くなって軸受部の潤滑が阻害されるようになっていた。
しかしながら、A受審人は、検油棒で潤滑油だめの潤滑油量が適量に維持されていることの確認及び1箇月に1回程度潤滑油こし器のハンドルを回すだけで、これまで何の問題もなかったので同油を継続使用しても大丈夫と思い、同油こし器の開放掃除及び同油だめ内部を掃除のうえ同油の交換をするなど、同油の性状管理を十分に行うことなく、同日08時30分長崎県水崎漁港を発した。
こうして、日進丸は、同県郷埼沖合に向けて航行中、09時00分郷埼灯台から真方位049度0.5海里の地点において、1番シリンダのクランクピン軸受けなどが潤滑阻害を生じ、主機が強い振動とともに衝撃音を発して停止した。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
操船中のA受審人は、機関室をのぞくと煙が充満し、焦げ臭い匂いもしたので主機の運転継続を断念した。
日進丸は、僚船に曳航されて長崎県鴨居瀬漁港に引き付けられ、主機を開放した結果、1番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼付き、クランク軸、主軸受メタル及び連接棒などに損傷が生じていることが判ったものの、主機が古いことから換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油の著しい汚損劣化により潤滑油こし器の目詰まりや軸受及び潤滑油ポンプの摩耗などが進行したまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転及び保守管理に当たる場合、潤滑油を長時間使用すると、同油圧力が徐々に低下して軸受の潤滑が阻害されるおそれがあったから、同油こし器の開放掃除及び同油だめ内部を掃除のうえ同油の交換をするなど、同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで何の問題もなかったので同油を継続使用しても大丈夫と思い、同油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、クランクピン軸受などの潤滑阻害を招き、1番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼付き、クランク軸、主軸受メタル及び連接棒などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION