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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月8日07時45分 京浜港川崎区京浜運河 2 船舶の要目 船種船名
引船汐見丸 総トン数 229トン 全長 37.20メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
2,500キロワット 回転数 毎分750 3 事実の経過 汐見丸は、昭和58年8月に進水した、航行区域を沿海区域とする鋼製引船で、専ら日立造船株式会社神奈川工場で引船作業に従事しており、主機として、株式会社新潟鉄工所(以下「新潟鉄工」という。)が製造した連続最大出力1,250キロワットの6L28BXE型機関2基を装備し、それぞれ右舷主機及び左舷主機と呼び、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。 主機の過給機は、新潟鉄工製のNHP30AH型と称する軸流排気タービン式で、ロータ軸の両端が、玉軸受、ばねなどで構成される弾性機能をもった軸受装置で支持されていた。 過給機の軸受装置は、玉軸受外周の内環と外環との間に8個のくら形の板ばね(以下「ばね」という。)と平板形のばね受を挿入してロータ軸の振動を吸収し、ばねの軸方向前後にステンレス製の薄板(以下「シム」という。)を6枚ずつ計12枚挿入して軸方向の位置決めとすき間の調整をするようになっていたが、ばね及びばね受は時間経過とともにフレッチング摩耗を生じるので定期的に取り替えを要し、取扱説明書で32,000時間又は4年ごとに整備するよう記載されており、特殊構造であることから新潟鉄工の工場のみにて整備が行われていた。なお、玉軸受は同装置を分解せずに取り替えることができ、取り替え基準が4,000時間とされていた。 汐見丸は、主機を全速から急減速すると過給機がサージングを生じる状況のもとで、年間約1,500時間運転されており、過給機は2年ごとに開放整備され、軸受装置が新潟鉄工の工場に持ち込まれて玉軸受はたびたび取り替えられていたが、使用時間が整備基準時間に達していなかったことから具体的に分解整備が指示されず、ばねが一度も取り替えられないまま、サージングによる衝撃を繰り返し受けていた。 A受審人は、平成8年12月機関長として乗り組み、引船作業に従事中たびたびサージングが生じ、サージングが頻発すると過給機が損傷するおそれがあることを認めていたものの、引船作業上主機急減速によるサージングは避けられないものと思い、メーカーと協議のうえ過給機の性能を変更するなり、応急的に主機操作で全速から急減速しないよう船長に強く要請するなど、サージング回避措置を講じることなく、翌9年3月中間検査工事で過給機の開放整備を工場に依頼した際、不具合箇所は取り替えるようにと指示したのみで軸受装置の整備内容を具体的に指示せず、玉軸受のみが取り替えられてばねが取り替えられなかったことを知らず、同検査後もサージング回避措置を講じないまま主機の運転を続け、翌10年2月7日後任機関長に過給機は中間検査工事で開放整備済であると引き継いで休暇下船した。 汐見丸は、サージングが繰り返されるうち、左舷主機過給機のブロワ側軸受装置のばね2個が金属疲労で折れ、サージングが生じたときロータ軸の振動が吸収されず振幅が大きくなり、シムと内環及び外環とが当たり、シムの摩耗や変更が進行するにつれてさらにロータ軸の振幅が大きくなっていた。 こうして汐見丸は、翌8日07時15分船長、後任機関長ほか3人が乗り組み、京浜港川崎航路付近に停泊中の船に日立造船株式会社神奈川工場の関係者など10人を送迎する目的で同工場の係船所を発し、両舷主機の回転数毎分約550の微速力で進行中、ロータ軸の振幅が大きくなっていた左舷主機過給機のインペラが同囲いと接触して破断し、07時45分塩浜船舶通航信号所から真方位098度900メートルの地点において、左舷主機が大音を発するとともに回転数が低下した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。 船橋当直中の船長は、左舷主機の回転数が低下し、排気管から黒煙が出ているのを認めて同機のクラッチを切り、連絡を受けて機関室に急行した後任機関長が同機過給機のケーシングに亀(き)裂が生じて冷却水が漏れているのを認めて運転不能と判断し、左舷主機を停止した。 汐見丸は、右舷主機のみで係船所に戻ったのち左舷主機過給機を開放点検した結果、タービン側及びブロワ側各ケーシング並びにインペラの破断、ロータ軸の曲損、ブロワ側軸受装置ばねの折損などが認められ、のち過給機が完備品と取り替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、引船作業中、主機を全速から急減速したとき過給機がサージングを生じるのを認めた際、サージング回避措置が不十分で、サージングによる衝撃を繰り返し受けて過給機ブロワ側軸受装置のばねが金属疲労で折れ、ロータ軸の振幅が大きくなってインペラが同囲いと接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、引船作業中、主機を全速から急減速したとき過給機がサージングを生じるのを認めた場合、サージングの頻発で過給機が損傷することのないよう、メーカーと協議のうえ過給機の性能を変更するなり、応急的に主機を全速から急減速しないように操作するなどのサージング回避措置を講じるべき注意義務があった。ところが、同人は、引船作業上主機急減速によるサージングは避けられないものと思い、サージング回避措置を講じなかった職務上の過失により、たびたびサージングを生じさせ、過給機をほぼ全損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |