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1999年(平成11年)

平成10年横審第112号
    件名
油送船富吉丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、半間俊士、河本和夫
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:富吉丸前機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
軸受ケーシング割損、冷却清水ポンプ及び冷却海水ポンプ駆動用の大歯車及び小歯車損傷

    原因
冷却清水ポンプ軸受押えの点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機クランク室前部の冷却清水ポンプ軸受押えの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月6日05時20分
東京湾北部
2 船舶の要目
船種船名 油送船富吉丸
総トン数 122トン
全長 37.01メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分400
3 事実の経過
富吉丸は、平成5年1月に進水した、主に東京湾内と埼玉県和光市の油槽所との間でガソリン輸送に従事する鋼製油送船で、主機として住吉マリンディーゼル株式会社が製造したS23G型と称するディーゼル機関を装備し、主機の船首側にはエアクラッチと増速機を介して駆動する2基のスクリュー式貨油ポンプを備えていた。
主機は、間接冷却型で、冷却清水ポンプ及び冷却海水ポンプを直結駆動し、1番主軸受の船首側に両ポンプ駆動用の大歯車を取り付けていた。大歯車は、平歯車で、クランク軸にキー止めされた駆動輪の外周に嵌(は)められ、駆動輪との合わせ面の4箇所にコイルばねを取り付け、同ばねの圧縮及び引張りで主軸のトルク変動を緩衝させ、右舷上部に冷却清水ポンプの、また左舷上部に冷却海水ポンプの小歯車をそれぞれかみ合あわせて両ポンプを駆動するようになっていた。
冷却清水ポンプは、冷却海水ポンプと同型式の遠心ポンプで、ポンプケーシング及び軸受ケーシングを貫通するポンプ軸が軸受ケーシング内の2個の玉軸受で片持ち支持され、軸受ケーシング船尾端の鋳物製軸受押えを呼び径8ミリメートルの六角ボルト6個で締め付け、同軸後端に小歯車を取り付けていた。また、軸受ケーシングがシリンダブロックの前端から船首側に張り出したクランク室前蓋に取り付けて固定され、同前蓋の上面に設けられた2箇所の点検窓から両ポンプの軸受押えと、小歯車及び大歯車のかみ合わせ部分を点検できるようになっていた。
指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)は、平成元年からS23G型機関の製造を開始し、同4年12月に25号機を富吉丸の主機として納入したが、冷却清水ポンプ及び同海水ポンプの軸受押えを締め付ける六角ボルトには回り止めの措置を施していなかった。また、大歯車の緩衝用ばねを4個のものと6個のものから選択する仕様にしていたが、貨油ポンプの駆動に際して同ポンプの定格回転数毎分1,500(以下、回転数は毎分のものとする。)に合わせて主機を360回転で運転することを設計条件とし、機関の回転数及びトルクの変動を想定していたので、富吉丸の主機には4個のものを装着した。
富吉丸は、就航以来、油槽所での揚げ荷の際には圧力調整のための弁操作によらず、専ら主機の、すなわち貨油ポンプの速度調整が行われ、油槽所の配管の都合で主機が320ないし330回転で運転されていたところ、ガバナがハウチングして主機の燃料ポンプラックが激しく変動し、揚げ荷終了前の底さらい時には更にその現象が著しく、トルク変動によって大歯車と駆動輪のばね受部で摩耗が進行していた。
A受審人は、平成7年11月に機関長として乗船し、主機の運転管理に当たり、揚げ荷の際のガバナハンチングを防止するよう種々試みた上で、同8年の1月ごろから貨油ポンプを駆動するときには同ポンプの前後を結ぶ再循環弁を適宜開き、主機を350回転で運転するように改めた。
その結果、主機は、貨油ポンプ駆動時のガバナハンチングと燃料ポンプラックの激しい変動がなくなったものの、大歯車のばね受部が摩耗してトルク変動が緩衝されず、運転中は常にクランク軸のトルク変動による微震動が冷却清水ポンプに伝わるようになり、平成8年9月の定期検査のための入渠工事に際しても同ポンプの開放整備が行われないまま運転が続けられるうち、いつしか同ポンプの軸受押えを締め付ける六角ボルトに緩みを生じ、同押えのボルト穴部とボルトが互いに擦れ合うようになった。
A受審人は、同8年12月中旬定期整備の一環として主機の潤滑油こし器の掃除を行った際、こし網に金属粉が付着していることを認め、その後も定期的に掃除する都度同じ現象が見られ、翌9年2月の掃除の際にはその付着量が増加していることに気付いたが入渠工事の際の夾(きょう)雑物と思い、自らクランク室扉やクランク室前蓋の点検窓を開いて点検することも、また業者に依頼して冷却清水ポンプの駆動部の点検をすることもなく運転を続け、3月5日休暇のため後任の機関長と交代して下船した。
こうして富吉丸は、船長、後任機関長ほか1人が乗り組み、ガソリン400キロリットルを積載し、船首1.8メートル船尾2.6メートルの喫水で、3月6日04時00分京浜港川崎第1区の係船所を発し、和光市のモービル石油株式会社北東京油槽所に向け、主機を360回転にかけて航行中、緩んでいた主機冷却清水ポンプの前示ボルトのうち1本が脱落し、05時20分東京東防波堤灯台から真方位022度2.3海里の地点で、同ボルトが大歯車と同ポンプ小歯車にかみ込まれ、軸受ケーシングが割損してごう音を発した。
当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
富吉丸は、船橋で操船中の船長が直ちに主機を減速し、機関長が機関室に急行して点検するうち、主機冷却清水温度が上昇して警報を発し、冷却清水圧力計がゼロを示していたので、主機を停止のうえ、付近に仮泊して点検の結果、冷却清水ポンプ軸が小歯車取付部で折損して軸受ケーシングが割れており、また冷却海水ポンプの小歯車も歯面が損傷していることが分かり、会社からの要請で来船した業者の手でポンプ駆動用大歯車が取り外されたうえ、電動ポンプから応急配管を仮設して主機を運転し、目的地に向かった。
のち、損傷した大歯車、冷却清水ポンプ及び冷却海水ポンプ小歯車が取替え修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の定期整備に当たって潤滑油こし器のこし網に金属粉が付着し、その量が増加するのを認めた際、クランク室前部の冷却清水ポンプ軸受押えの点検が不十分で、同押えの六角ボルトが機関の微振動で緩んだまま運転が続けられ、脱落した同ボルトがポンプ駆動用大歯車と同ポンプ小歯車にかみ込まれたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、自身が乗船中、主機の定期整備に当たって潤滑油こし器のこし網に金属粉が付着し、その量が増加するのを認めた場合、クランク室内で異常摩耗が進行していることが予想できたのであるから、クランク室前蓋上部の点検窓を開いて冷却清水ポンプ軸受押えの点検をすべき注意義務があった。しかし、同こし網への付着物は入渠工事の際の夾雑物と思い、クランク室内を調査せず、同室前部の冷却清水ポンプ軸受押えを点検しなかった職務上の過失により、同ポンプ軸受押えの六角ボルトが緩んだまま運転が続けられ、下船して後任機関長と交代した直後に、同ボルトが脱落して同ポンプ駆動用大歯車と同ポンプ小歯車にかみ込まれる事態を招き、同ポンプ軸受ケーシング、同ポンプ軸及び各歯車に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第き5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
指定海難関係人R社の所為は本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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