|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月30日05時35分 福島県小名浜港東方沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二たいせい丸 総トン数 135トン 登録長 37.00メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
860キロワット 回転数 毎分580 3 事実の経過 第二たいせい丸(以下「たいせい丸」という。)は、昭和61年11月に進水した大中型まき網漁業船団付属の鋼製網船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社(以下「ヤンマーディーゼル」という。)が製造したZ280-GN2型ディーゼル機関を備えていた。 主機は、定格出力1,618キロワット及び同回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に燃料最大噴射量制限装置を付設するなどして計画出力860キロワット及び同回転数580としたものであり、動力取出軸にはゴム継手及び油圧クラッチを介して漁労機械用油圧ポンプの増速機が、フライホイール側には高弾性ゴム継手を介して逆転減速機がそれぞれ連結されていた。また、シリンダ内径280ミリメートル(以下「ミリ」という。)行程360ミリで、鋳鉄製の台板に設けられた三層メタルを装着の主軸受により一体形の炭素鋼製鍛造品のクランク軸が支持されており、各シリンダ及び各主軸受にはそれぞれ船首側を1番とする順番号が付されていた。そして、クランク軸は、寸法が全長3,322.5ミリ、クランクジャーナル径225ミリ、同長さ116ミリ、クランクピン径215ミリ、同長さ118ミリ、クランクアーム幅325ミリ、同厚さ85.5ミリ、クランクジャーナルとクランクピンとの各中心間距離180ミリ及び油穴径14ミリとなっており、クランクアームにはバランスウエイトが取り付けられていた。 ところで、主機は、2列の機関台が船底の左右に設けられていて、同台の据付け面とこれに対応する台板下面とに片列7箇所のボルト穴が開けてあり、U字形厚さ45ミリの鋳鉄製の調整ライナが各ボルト穴のところに置かれてクランク軸の軸心が定められ、台板下面及び同ライナがいずれもねじの呼び径33ミリの据付けボルト5本及びリーマボルト2本と二重のナットとにより同据付け面に固定されていたが、運転が続けられているうちに振動で据付けボルト等の締付けが次第に緩んでいた。 A受審人は、昭和62年3月にたいせい丸の操機長として乗り組み、僚船に転船後たいせい丸の一等機関士として復船し、平成7年12月には機関長に昇進して主機の運転及び保守管理にあたり、航海全速力前進時の回転数を580までとしており、同8年5月中旬に第1種中間検査の受検に備えて主機整備の際、亀裂箇所に応急修理の施されていたシリンダブロック及びシリンダヘッドの新替工事が工場側により行われることになり、同工事に立ち会った。 B指定海難関係人は、昭和55年に機関メーカー側のアフターサービスを業務とする会社に技術者として入社し平成8年2月からR社と称して個人で同業務に引き続き従事しており、前示の主機整備工事の際に工場側に対する技術指導を行った。 ところが、主機は、シリンダブロック及びシリンダヘッドのほか主軸受メタル等がそれぞれ新替えされた際、据付けボルト等の締付けの緩みで調整ライナと台板下面とが摩耗していたものの、そのまま組み立てられてクランク軸の軸心が偏移し、クランクアームデフレクション(以下「デフレクション」という。)が許容値を超える状態となった。 しかし、B指定海難関係人は、工場側作成の主機検査成績表によるデフレクションの数値が許容値をわずかに超えているものの運転には差し支えないと思い、クランク軸の軸心を計測のうえ摩耗した調整ライナを取り替えるなどして軸心の偏移を修正する適切な措置をとらないまま、主機を復旧させた。 一方、A受審人は、工場側から主機の据付けボルト等が締め直されたことの報告を受けたが、何か異状があれば連絡されると思い、主機検査成績表でデフレクションを十分に確認しなかったので、その数値が許容値を超えていることに気付かなかった。 こうして、たいせい丸は、平成8年5月下旬からかつおまぐろ漁が再開され、主機のクランク軸の軸心が偏移したまま運転が続けられているうち、4番主軸受メタルとクランクジャーナルとが強く当たり、同主軸受メタルが摩耗するとともに多数の焼割れが同クランクジャーナルに生じた。 たいせい丸は、A受審人ほか24人が乗り組み、船首2.10メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、翌6月20日01時00分小名浜港を発し、同港東方沖の漁場に至り、操業を繰り返しているうちに前示の焼割れ箇所を起点として生じた亀裂がねじり応力の集中によりクランク軸の軸心の45度方向に進展していたところ、越えて30日05時35分北緯36度19分東経144度03分の地点において、主機を回転数560にかけて10.0ノットの対地速力で航行しながら魚群探索中、同亀裂が4番シリンダの船首側クランクアームを横断してクランクピンに達し、同軸が折損して異音を発した。 当時、天候は曇で風力2の南南西風が吹き、海上は隠やかであった。 折から機関当直中のA受審人は、主機を停止してクランク室を点検し、クランク軸の前示折損を認め、運転の継続を断念してその旨を船長に報告した。 たいせい丸は、僚船により宮城県塩釜港に曳航され、主機を精査した結果、3番、4番及び5番主軸受メタル並びに4番シリンダのクランクピン軸受メタル等の焼損が判明し、のち各損傷部品を取り替えた。
(原因) 本件機関損傷は、主機デフレクションの確認が不十分で、クランク軸の軸心が偏移したまま運転が続けられ、主軸受メタルと強く当たったクランクジャーナルに焼割れ箇所が生じ、同箇所を起点とする亀裂にねじり応力が集中したことによって発生したものである。 機関メーカー側の技術者が、主機シリンダブロック等を新替えする整備工事の工場側に対する技術指導を行う際、クランク軸の軸心の偏移を修正する措置が適切でなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、工場側による主機整備工事に立ち会って据付けボルト等が締め直された場合、クランク軸の軸心が偏移するおそれがあったから、主機検査成績表でデフレクションを十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、何か異状があれば連絡されると思い、デフレクションを十分に確認しなかった職務上の過失により、クランク軸の軸心が偏移したまま運転を続け、主軸受メタルと強く当たったクランクジャーナルに焼割れ箇所が生じる事態を招き、同箇所を起点とする亀裂がねじり応力の集中により進展してクランクアームを横断し、同軸を折損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、主機シリンダブロック等を新替えする整備工事の工場側に対する技術指導を行う際、クランク軸の軸心を計測のうえ摩耗した調整ライナを取り替えるなどして軸心の偏移を修正する適切な措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、本件発生後クランク軸の軸心の計測などに特段の注意を払っている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |