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1999年(平成11年)

平成10年仙審第14号
    件名
漁船第八三宝丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年1月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、高橋昭雄、供田仁男
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第八三宝丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
5番シリンダの連接棒が曲損、ピストン、シリンダヘッド及びシリンダライナ等損傷

    原因
主機の冷却水系統の整備不十分、主機の始動準備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の冷却水系統の整備が十分でなかったばかりか、主機の始動準備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月10日05時30分
宮城県金華山南東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八三宝丸
総トン数 79.53トン
全長 34.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 294キロワット
回転数 毎分350
3 事実の経過
第八三宝丸(以下「三宝丸」という。)は、昭和54年12月に進水したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社松井鉄工所(以下「松井鉄工所」という。)が製造したMS245GTS-2型ディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に石川島播磨重工業株式会社製造のVTR201-2型排気ガスタービン過給機(以下「週給機」という。)を付設していた。
主機は、定格出力956キロワット同回転数毎分420(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機の過給機を換装するなどして計画出力294キロワット同回転数350としたものであり、また、各シリンダが船首側から順番号で呼称されていた。
主機の冷却水系統は、船底の海水吸入弁からこし器を介して電動冷却水ポンプに吸引された海水が、潤滑油冷却器、空気冷却器及び冷却水主管を経て各シリンダのシリンダジャケットやシリンダヘッドをそれぞれ直接冷却し、冷却水出口集合管で合流したのち、その一部が温度調節弁により同ポンプの吸入側に戻され、その他が船外に排出されるようになっていた。
一方、過給機は、排気入口囲、タービン車室及びブロワ車室等から成り、主機の各シリンダの排気弁から排気マニホルドを経て排気入口囲に導かれる排気により駆動されており、排気入口囲及びタービン車室には、それぞれ水ジャケットが設けられ、主機の冷却水主管から分流した海水が供給されていた。
ところで、過給機は、平成8年3月上旬に定期検査受検の整備が実施されたが、その後運転が続けられているうち、排気入口囲及びタービン車室の水冷壁の水側にスケールが次第に付着していた。
A受審人は、同9年3月3日に三宝丸の機関長として乗り組み、九州南岸沖の漁場に出漁したのち、北上するかつおを追いながら操業に従事して機関の運転及び保守管理にあたっていたが、主機の始動準備として、潤滑油をプライミングのうえインジケータ弁を開いて手動による最低2回転のターニングをすることなどが取扱説明書で指示されていたものの、平素これを実施しないままエアランニングだけを行っていた。
三宝丸は、金華山南東方沖の漁場における操業を繰り返していたところ、越えて11月7日昼同漁場を発し、水揚地の宮城県気仙沼港に向けて航行中、主機の冷却水と共に吸引された海洋生物等がこし器及び潤滑油冷却器水側に付着して増加したことから、冷却水圧力が0.6ないし1キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)の常用圧力よりも低下する状況となったまま翌8日朝入港した。
しかし、A受審人は、気仙沼港に停泊した際、海水温度が低いから主機の運転には差し支えないものと思い、こし器及び潤滑油冷却器水側を掃除するなどの冷却水系統の整備を行わず、前示の状況のままとしていた。
こうして、三宝丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、次の操業の目的で、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同日20時00分気仙沼港を発し、金華山南東方沖の漁場に向け、主機を回転数380で運転して9.0ノットの対地速力で航行中、冷却水圧力が更に低下して過給機に供給される海水が不足し、翌9日06時00分主機停止のうえこし器及び潤滑油冷却器水側が掃除されたものの遅きに失し、排気入口囲及びタービン車室の水冷壁のスケール付着箇所がそれぞれ局部的な過熱により亀裂を生じた。三宝丸は、その後主機の運転を続けて操業予定地点に至り、漂泊待機のため、21時30分主機を停止したところ、過給機の水冷壁の同亀裂から漏水が注機の排気マニホルドを伝わり排気弁の開いていた5番シリンダの燃焼室に浸入してピストン上に滞留する状態となった。
しかし、A受審人は、操業開始前に機関室に赴いて主機の始動に取り掛かったが、付近の漁船が既に操業していることを知り、船橋から指令されて主機の運転を急ぐことにとらわれ、ターニングをするなどの始動準備を十分に行うことなく、いきなり始動操作をしたので、翌10日05時30分北緯37度48分東経144度47分の地点において、5番シリンダのピストン上に滞留した漏水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されて大音を発し、始動ができなくなった。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機のターニングをして5番シリンダのインジケータ弁から水が噴出したことから、クランク室を点検し、同シリンダの連接捧が曲損しているのを認め、主機の運転を断念した。
三宝丸は、僚船により気仙沼港に曳航され、主機が精査された結果、5番シリンダのピストン、シリンダヘッド及びシリンダライナ等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の冷却水系統の整備が不十分で、同系統から過給機に供給される海水が不足したまま運転が続けられ、同機の水冷壁が局部的に過熱したばかりか、主機の始動準備が不十分で、漂泊中に燃焼室に浸入した動水冷壁の漏水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、漁場で漂泊待機したのち、操業開始前に主機を始動する場合、冷却水系統の各部を直接冷却する海水が漏れて漂泊中に燃焼室に浸入しているおそれがあったから、ターニングをするなどの始動準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近の漁船が既に操業していることを知り、船橋から指令されて主機の運転を急ぐことにとらわれ、始動準備を十分に行わなかった職務上の過失により、いきなり始動操作をし、漂泊中に燃焼室に浸入していた過給機の水冷壁の漏水がピストンとシリンダヘッドとの間で挟撃される事態を招き、連接棒等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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