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1999年(平成11年)

平成11年長審第14号
    件名
古代遊覧船飛帆機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:飛帆機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
減速逆転機の出力軸破断

    原因
推進軸系のアラインメント不適切

    主文
本件機関損傷は、推進軸系のアラインメントが適切でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月15日13時40分
長崎港
2 船舶の要目
船種船名 古代遊覧船飛帆
総トン数 104トン
登録長 25.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 176キロワット
回転数 毎分2,000
3 事実の経過
飛帆は、社団法人R協会(以下、「R協会」という。)が中華人民共和国福建省福州市の造船所に発注し、起工から約7箇月かけて平成元年2月に進水させた船尾楼付きの木製機付帆船であるが、外観が唐時代の外洋船をしのばせるようになっており、全長4.8メートルのプロペラ軸とオイルバス方式の船尾管を有し、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社製の6HA-HTE型と称するディーゼル機関を備え、主機の後端に、新潟コンバーター株式会社製のMGN56B-1型と称する減速比3.43の垂直異心型減速逆転機を直結して取り付け、直径が84.9ミリメートルである同機の出力軸に、軸受のない全長1メートルの中間軸を介してプロペラ軸を接続し、船橋に主機及び減速逆転機の各遠隔操縦レバーを設置してあった。
また、R協会は、昭和57年7月に起きた長崎大水害を契機に、古代の帆船を復元して新しい町づくりの核にしようとした長崎市民の有志により、同59年4月に設立された非営利団体で、飛帆を平成元年4月に長崎港に回航して同年7月に竣工させたのち、同船の航行区域を平水区域と定め、海事思想の普及、国際文化交流の促進等のために同船の使用を開始し、年間に10回ばかり航行区域を臨時変更し、海上が平穏なときを選んで近隣の各種行事開催地域への体験航海を行うほか、練習船や豪華客船の長崎港出入港時の送迎などを行い、年間平均約200時間飛帆を運航していた。
ところで、主機及び減速逆転機は、いずれも来歴不詳の中古品であって、平均厚さ30センチメートル(以下「センチ」という。)同幅33センチの角材の上部に、厚さ18センチ幅20センチの角材を船首尾線方向に傾斜させて埋め込んだ2本の木製の柱を共通の台座とし、各台座の上に敷いた厚さ1センチ長さ約2メートルの鋼板上に、鋼製の丸座金と軸心調整用ライナを介して据付けられており、船体の浮上中における減速逆転機出力軸の軸心とプロペラ軸の軸心とが一致することが推進軸系の適切なアラインメントであったものの、建造時の主機及び減速逆転機の据付けが不良であったか、経年による船体ひずみが大きくなったかして両軸心が一致してなく、外部からは目視不能な同出力軸の中間軸接続用継手嵌合端の研磨逃し溝に過大な繰返し曲げ応力が作用し、同溝の表面に疲労による亀(き)裂を生じ、平成6年3月に実施されたプロペラ軸抜出し検査の際、プロペラ軸と船尾管の外観検査のみで、推進軸系のアラインメント測定まで行われなかったので、両軸心の不一致が見過ごされ、同亀裂が徐々に内部へ進展していた。
一方、A受審人は、平成6年9月R協会に採用されて飛帆の機関長となり、同船の航海中はほとんど機関室にいて機器の監視にあたり、主機を始め、減速逆転機、プロペラ軸、船尾管等の推進軸系については何ら異状を認めなかったうえ、主機、減速逆転機とも使用時間が少なくて開放整備を行わなかったので、推進軸系のアラインメントが適切でないことはもちろん、減速逆転機の出力軸に前示亀裂が生じて進展していることにも気付く由もなく、同船の休航中でも、月に5回ほどは定係地である長崎港中ノ島突堤に係留中の同船に赴き、主機の試運転や機関室内の清掃点検などを行い、主機を常時運転可能な状態に保持していた。
こうして飛帆は、A受審人ほか3人が乗り組み、同人が機関室で主機をはじめとする各種機器の始動、運転状態確認などの発航準備を済ませたのち、機関室を無人とし、敬老の日にちなんで60歳以上の年配者を主とした招待客ら合計81人を乗せ、長崎港内周遊の目的をもって、船橋で船長が手動操舵に、A受審人が主機及び減速逆転機の遠隔操縦にそれぞれあたり、平成10年9月15日13時30分定係地を後進で発し、後進から前進として増速中、13時40分長崎港旭町防波堤灯台から真方位036度310メートルばかりの地点において、主機の回転数が約1,000となったとき、減速逆転機の出力軸が中間軸接続用継手嵌合端の研磨逃し溝部で破断し、プロペラが回転しなくなった。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、海上は穏やかであった。
飛帆は、異変に気付いたA受審人が機関室に急行して主機、減速逆転機等を点検したものの、プロペラが回転しなくなった原因を明らかにできなかったので引船を呼び、同船に引かれて定係地に戻り、修理業者に依頼して調査した結果、減速逆転機の出力軸が破断していることが分かり、同軸新替えを行ったところ、推進軸系のアラインメントが適切でないことが判明し、主機及び減速逆転機の各軸心を修正した。

(原因)
本件機関損傷は、主機減速逆転機の出力軸の軸心と同出力軸に中間軸を介して接続されたプロペラ軸の軸心とが一致していなくて、同出力軸の中間軸接続用継手嵌合端の研磨逃し溝に過大な繰返し曲げ応力が作用し、同溝に疲労による亀裂を生じ、これが進展したことによって発生したものである。
両軸心が一致していなかった原因については、建造時における推進軸系の据付け不良、経年による船体ひずみの増大等が考えられるがこれらを究明するための証拠がなくて明らかにすることができない。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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