日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年横審第84号
    件名
漁船第三十八諏訪丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、猪俣貞稔、川原田豊
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第三十八諏訪丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機直結潤滑油ポンプ駆動歯車脱落、1番主軸受冠割損

    原因
主機異常時の操縦装置の取扱い不適切

    主文
本件機関損傷は、主機異常時の操縦装置の取扱いが不適切で、過回転を生じたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月14日20時15分
南太平洋(チリ共和国沖合)
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八諏訪丸
総トン数 349トン
全長 69.31メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,324キロワット
回転数 毎分370
3 事実の経過
第三十八諏訪丸は、昭和62年8月に進水した、いか一本釣漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、阪神内燃工業株式会社が製造した6LU32RG型機関を据付け、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、逆転機付きで、船橋から遠隔操縦装置の1本の操縦ハンドルにより、空気・電気式にて回転数の制御、クラッチの嵌(かん)脱操作及び逆転操作ができるようになっていた。自動危急停止装置は過回転、すなわち回転数か毎分445を超えたとき及び潤滑油圧力が1.2キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)以下に低下したとき作動して機側燃料ハンドルを強制的に停止位置に戻すようになっていた。
潤滑油ポンプとしては、クランク軸から歯車により駆動される直結ポンプのほか電動ポンプを備え、潤滑油圧力の通常値が3.0キロのところ1.8キロに低下すると電動ポンプが自動起動し、1.7キロで警報が作動するようになっていた。
主機の燃料調整機構は、各シリンダにボッシュ型の燃料噴射ポンプを備え、同ポンプのラックが燃料調整軸レバー、ガバナ出力軸、機側燃料ハンドルなどとリンク装置で連結されており、ラックと燃料調整軸レバーとの連結部にはハンチング防止用としての緩衝ばねが装備されているが、あるシリンダのラックが運転位置で固着したとき他のシリンダのラックを停止位置に戻すための安全装置としての緩衝ばねは装備されておらず、1シリンダでもラックが固着すると燃料調整軸が作動不能となるものであった。従って、1シリンダのラックが運転位置で固着した状態で船橋の操縦ハンドルで停止操作をすると、同ハンドルはラックとはリンク装置で連結されていないので停止位置まで動き、クラッチは制御されるが、機側燃料ハンドルはラック固着相当位置で動かず、クラッチが脱となって過回転が生じ、自動危急停止装置が作動しても停止しないので、運転中ラックまたはラックと連動する同ポンプのプランジャーが固着気味であることを認めて停止するときは、機側操縦に切り替えて機側燃料ハンドルを停止位置に操作し、同操作に非常な力を要したり同ハンドルが動かないときはクラッチが嵌のまま燃料入口弁を閉めるなど適切な停止操作を要するものであった。
A受審人は、平成4年1月機関長として乗り組んで主機の運転管理に当たり、主機異常時は適切な停止操作を要するものであったが、平素は支障あるまいと思い、航海中クラッチの嵌脱、主機停止操作など主機の操作を船橋当直者に任せていた。
本船は、A受審人ほか21人が乗り組み、同8年7月11日18時40分(船内使用時、以下同じ。)アルゼンチン共和国サンタクルス港を発し、回航の目的でペルー共和国カヤオ港に向かい、翌12日主機回転数毎分約365の全速力前進で航行中、主機2番シリンダ燃料噴射ポンプのプランジャーが固着気味となり、同ポンプが発熱した。
機関当直中のA受審人は、主機点検中同ポンプの異常に気付いて予備品と交換することとしたが平素主機の操作を船橋当直者に任せていたので支障あるまいと思い、自らが適切な停止操作をすることなく、船橋当直者に主機を停止するよう要請した。
本船は、船橋当直者が操縦ハンドルを停止位置としたところ、同ポンプのプランジャーが固着したままクラッチが脱となり、同日22時ごろ燃料が調整されないまま無負荷となった主機の回転数が急上昇して過回転となり、A受審人が急ぎ機側燃料ハンドルを操作したが動かず、燃料入口弁を閉めてようやく主機が停止した。しかし、配管中の燃料がなくなるまで過回転が1分間以上継続し、主軸受冠取付けボルトに過大な引っ張り応力と同冠に過大な曲げ応力が作用した結果、1番主軸受冠のボルト穴加工部の隅に亀(き)裂が生じた。
A受審人は、同ポンプ交換後、クランクピンボルトのナットの割ピンを主体にクランク室内を点検したが、主軸受冠を点検しなかったので前示亀裂に気付かないまま主機の運転を再開した。
こうして本船は、主機回転数毎分約365で続航中、翌々14日前示亀裂が進展して1番主軸受冠が割損し、クランク軸前端が浮き上がり、直結潤滑油ポンプ及び回転計各駆動歯車の損傷、同ポンプ駆動軸の折損など損傷が拡大し同日20時15分南緯45度10分西経75度21分の地点において、電動潤滑油ポンプの自動起動と油圧低下警報がほぼ同時に作動した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は隠やかであった。
自室で就寝中のA受審人は、機関当直者からの連絡で機関室に赴き、主機直結潤滑油ポンプの異常を認め、主機を停止してクランク室内を点検し、同ポンプ駆動歯車の脱落、1番主軸受冠の割損などを認めた。
本船は、割損した主軸受冠に当て板を施すなどの応急措置をとり、低速でカヤオ港に入港し、のち損傷部が修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機が全速力前進で運転中、燃料噴射ポンププランジャーの固着を認めて主機を停止する際、操縦装置の取扱いが不適切で、燃料が調整されないままクラッチが脱となって過回転が生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機が全速力前進で運転中、燃料噴射ポンプのプランジャーの固着を認めて主機を停止する場合、同機は同ポンプのラックまたはラックと連動するプランジャーが固着すると燃料調整軸が作動不能となり、空気・電気式遠隔操縦装置の操縦ハンドルで停止操作を行うと、クラッチは制御されるが機側燃料ハンドルはラック固着相当位置で動かず、過回転が生じるから、機側操縦に切り替えてクラッチ嵌のまま燃料入口弁を閉めるなど適切に停止すべき注意義務があった。ところが、同人は、平素主機の操作を船橋当直者に任せていたので支障あるまいと思い、適切に停止しなかった職務上の過失により、主機が過回転を生じ、主軸受冠の割損、直結潤滑油ポンプ及び回転計各駆動歯車の損傷、同ポンプ駆動軸の折損などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION