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1999年(平成11年)

平成11年長審第11号
    件名
漁船第八十一天王丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年4月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、保田稔
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第八十一天王丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機のロータ、ノズルリング、球軸受等損傷

    原因
主機過給機の注水洗浄方法不適切

    主文
本件機関損傷は、主機過給機の注水洗浄方法が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月11日15時20分ごろ
長崎県青方港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十一天王丸
総トン数 135トン
登録長 34.98メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分600
3 事実の経過
第八十一天王丸は、大中型旋網漁業船団所属の網船として、昭和61年2月に進水した鋼製漁船で、ダイハツディーゼル株式会社製の6DLM-28型と称する連続最大出力1,471キロワット同回転数毎分720の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関に、負荷制限装置等を設けて計画出力を860キロワット、同回転数を毎分600と定めた6DLM-28FSL型と称する機関を主機とし、主機の前部動力取出軸に揚網機、揚錨機等の甲板機械を駆動するための油圧ポンプを接続してあったところ、いつしか負荷制限装置に手が加えられ、計画回転数を大幅に上回って主機を使用していた。
また、主機は、A重油を燃料とし、船首側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、各シリンダごとにボッシュ式の燃料噴射ポンプを備え、シリンダの着火順序を1-5-3-6-2-4と定め、上部後端に石川島汎用機械株式会社製のVTR251-2型と称する排気ガスタービン方式の過給機を、上部右舷側沿いに上下2段に分かれた排気集合管をそれぞれ備え、1番、2番及び3番の各シリンダから出た排気が上段の排気集合管に入り、4番、5番及び6番の各シリンダから出た排気は下段の排気集合管に入るようになっており、各排気集合管の過給機入口近くには、清水管が接続されていて、運転中に過給機タービン側の注水洗浄を行えるようになっていた。
ところで、主機の過給機は、単段軸流式のタービン羽根車と単段遠心式のブロワ羽根車とを同一の軸で結合したロータの両側を球軸受によって支え、上下2段に分かれて流入した主機の排気が全周流入方式のノズルリングを通り抜けてタービン羽根に導かれるようになっていたが、注水洗浄によって損傷を生ずることのないよう、タービン側の注水洗浄を行う際には、主機の出力を下げて過給機の回転数を毎分5,000ないし7,500とすること、主機排気の過給機入口温度を摂氏300度以下にすること、洗浄水の圧力は0.4ないし0.6キログラム毎平方センチメートルに保つこと、タービンケーシングのドレン抜き管を閉塞させないこと等を厳守するように主機取扱説明書中に明記していた。なお、ノズルリングは、円盤状となっていて、内輪と外輪との間に20枚のノズル板を鋳込み、タービンケーシングにボルトで固定されていたが、外輪を3等分するようにして、外輪の最上部と下部左右の3箇所に熱応力を軽減するためのスリットを入れてあった。
一方、A受審人は、平成6年4月本船に漁労長兼任の船長として乗り組み、愛媛県中浦漁港を基地と定め、毎年4月に行われる入渠の期間を除き、一航海の日数を30ないし40日として操業に従事し、同8年4月過給機を含む主機の開放整備を済ませ、引き続き操業に従事していたところ、機関長が病気で下船したので、同年10月25日後任の船長を手配して自らは機関長兼任の漁労長となり、機関員4人を指揮しながら機関の管理にあたり、通常航海中の主機回転数を毎分約650と定めていた。
ところが、A受審人は、漁労長職が忙しくて機関の取扱いや整備を機関員にほとんど任せきりとし、主機過給機の注水洗浄についても機関員に行わせることにしたが、主機取扱説明書記載の適切な注水洗浄方法を指示することなく、注水洗浄が適切に行われないで、ノズルリングの外輪の下部左右のスリット間に含まれる7枚のノズル板の浸食が著しくなったのみならず、同ノズル板の内輪と外輪との各付け根に熱疲労による亀裂を生ずるようになったことに気付かないままであった。
こうして本船は、A受審人ほか22人が乗り組み、長崎県五島列島沖合の漁場で操業していたところ漁網が破損したので、平成9年3月10日同県青方港に入って漁網の修理を行い、翌11日15時同港の岸壁を離れ、A受審人が操舵室の椅子に座って船長が操船にあたり、機関室を無人として主機の回転数を徐々に上げ、同回転数を毎分約600として港外に向かって進行中、ノズルリングの前示ノズル板の亀裂が著しく進展し、同ノズル板が内輪と外輪から剥離(はくり)してタービン羽根とノズルリングとの間にかみ込み、過給機のロータの回転が止まって主機が著い吸気不足となり、15時20分ごろ青方港一ノ瀬灯標から真方位348度930メートルばかりの地点において、煙突から多量の黒煙を発するとともに、主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上はやや波があった。
A受審人は、直ちに異変に気付いたものの、狭い海域だったので主機を低速のまま運転し、修理業者と連絡を取り合いながら広い海域に出て主機を停止したのち、過給機のロータが固着しているのを認めて主機の運転不能と判断し、僚船に引かれて長崎港に入り、主機各部を調査した結果、主機本体には何ら損傷がなく、過給機のみ全体的に損傷しているのが判明し、過給機のロータ、ノズルリング、球軸受等を新替えした。

(原因に関する考察)
本件は、事実の経過で述べたように、主機本体には何ら損傷がなく、過給機のみの損傷であり、以下、原因に関して考察する。
A受審人に対する質問調書中、「本件後主機の燃料噴射ポンプの一つがカットされたままであることが分かった。平成8年の暮れごろ主機の排気の色が黒くなったので、同年12月27日中浦漁港に帰ったとき、業者に依頼して同ポンプを一つずつカットしながら燃料噴射弁の良否を調べたが、その際に同ポンプの一つを元に戻すのを忘れたものと思う。旨の供述記載及びB社員の回答書中、「主機4番シリンダの燃料噴射ポンプがカットされたままであったが、その理由と時期は不明である。」旨の記載によると、本件発生までの約3箇月間、4番シリンダの燃料噴射ポンプがカットされたまま、すなわち、主機の減筒運転が行われていたように受け取れる。
しかしながら、つぎの8項目を総合勘案するならば、約3箇月にわたり、誰にも気付かれないで主機の減筒運転を行いながら操業に従事していたとは到底認められず、仮に4番シリンダの燃料噴射ポンプがカットされていたとしても、それは、本件発生の直前か直後に、何らかの理由によってなされたものに過ぎないと考えられる。
(1) A受審人に対する質問調書中、「毎年10月から翌年の3月までは東シナ海で操業していた。一航海の日数を30ないし40日としていた、主機の毎分回転数を通常の航海中は約650としていたが、魚群を追尾するときは670ぐらいまで上げていた。主機の調子は非常に良かったので、破損した排気温度計の取替えも、シリンダ内最高圧力の測定も早期に行う必要はないと思って実施しなかった。」旨の供述記載
(2) 漁船保険金支払請求書写添付のR株式会社作成の過給機損傷事故報告書写中、「出張調査者はBである。ノズルリングの外輪及びノズル板の3分の1が欠損していた。4番、5番及び6番の各シリンダの排気弁に異状はなかった。ノズルリングに生じた熱応力による亀裂が進行してノズル板が破損したと推定される。過給機は平成8年4月に開放整備され、ノズルリングば継続使用可能と判断されたので、その後に排気温度が異常な状態で運転されたことがあったのではないかと思われる。」旨の記載
(3) 同報告書写中には燃料噴射ポンプがカットされていたなどとは記載されていないこと
(4) 主機取扱説明書抜粋写中、「減筒運転は、ねじり振動上及び機関外部振動止の問題があるので、緊急時のみの短時間使用とする。減筒運転時の出力については、全筒数から減筒数を引いた筒数を全筒数で割り、これに定格出力の70パーセントを掛けた値までとする。」旨の記載
(5) ダイハツディーゼル株式会社技術サービス部の回答書中、「減筒運転を長期間行った場合には、可撓(かとう)継手や減速機の破損はおろか、クランク軸の折損にまで至る可能性がある。」旨の記載
(6) 主機本体には何ら損傷がなかったこと
(7) 4番シリンダの排気はノズルリングの下側に導かれているので、同シリンダの燃料噴射ポンプがカットされたならば、ノズルリングの上側の方が下側よりも熱負荷が大きくなるにもかかわらず、ノズルリング下側のノズル板が欠損したこと
(8) 一般的に、4サイクル6シリンダ・中速ディーゼル機関においては、無負荷運転中においてさえ、1シリンダでも燃料噴射ポンプをカットすると、運転音や振動に明らかな変化を生ずること
翻って、工事写真帳添付のノズルリングの損傷状態を示す写真中、欠損したノズル板はノズルリング下側の7枚で、そのうちの1枚のみがかろうじて外輪に付着している以外、内輪のノズル板剥離面はいずれも鋭利な刃物でそぎ落したようになっているうえ、欠損していないノズル阪の一部に顕著な浸食を認めることにより、過給機タービン側の注水洗浄時に、注水量過多、主機排気温度過高、タービンケーシングのドレン抜き管閉塞等の不都合があって、ノズル板の浸食が著しかったのみならず、ノズル板の付け根に熱疲労による亀裂を生じたものと考えられる。
従って、本件発生の原因は、過給機タービン側の注水洗浄方法が適切でなかったこととするのが相当である。

(原因)
本件機関損傷は、主機過給機タービン側の注水洗浄方法が不適切で、同機のノズルリングのノズル板付け根に熱疲労を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関員に主機過給機の注水洗浄を行わせる場合、同機に注水による損傷を生ずることのないよう、主機取扱説明書中記載のとおり、適切な注水洗浄方法を指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、漁労長を兼任していて多忙だったことから、機関員にほとんど任せきりとして適切な注水洗浄方法を指示しなかった職務上の過失により、注水洗浄が適切に行われないで、ノズルリングのノズル板付け根に熱疲労による亀裂を生じさせる事態を招き、主機過給機全体を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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