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1999年(平成11年)

平成11年神審第47号
    件名
漁船第十一新盛丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第十一新盛丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
6番シリンダヘッド、過給機ロータ軸、同機タービン囲い等損傷

    原因
主機シリンダヘッドの冷却壁の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機シリンダヘッドの冷却壁の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月13日16時30分
北太平洋
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一新盛丸
総トン数 59.74トン
登録長 24.53メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 367キロワット(定格出力)
回転数 毎分700(定格回転数)
3 事実の経過
第十一新盛丸(以下「新盛丸」という。)は、昭和55年1月に進水した、従業区域を乙区域として遠洋まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6MG22LXB型ディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順番号が付されていた。
主機の冷却方式は、海水冷却で、海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が、空気冷却器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、同管から各シリンダのシリンダライナとシリンダヘッドを順に冷却して出口集合管で合流する系統と、過給機タービン囲いを冷却する系統とに分岐し、それぞれ船外排出されるようになっていた。
また、主機シリンダヘッドは、ねずみ鋳鉄(日本工業規格FC250相当)製の吸気弁及び排気弁を各2個備えた4弁式で、排気ガスが排気弁を出て排気マニホルドに至る排気通路には、触火面上部の厚さが約11ミリメートル(以下「ミリ」という。)、その他の部分が厚さ約8ミリの壁を隔てて冷却水の通る冷却室が設けられていた。
ところで、シリンダヘッドの排気通路冷却壁は、長期間にわたって使用されるうち、冷却海水側が腐食損耗して肉厚が減少したり、材料の強度が低下するなどして亀裂や破孔を生じるおそれがあることから、シリンダヘッドの開放整備を行う際には同冷却壁の点検を行う必要があり、メーカーでは、取扱説明書にシリンダヘッド開放整備時の点検項目を詳細に列記し、取扱者に注意を促していた。
A受審人は、昭和60年12月中古で購入された新盛丸に、翌61年6月から通信長として乗り組んだのち、平成3年5月からは機関長として乗り組み、1人で機関の運転及び保守管理に当たっていた。
新盛丸は、毎年6月に船体及び機関の整備を行い、同月末から翌年2月にかけて宮城県塩釜港を、2月末から5月末までは和歌山県紀伊勝浦港をそれぞれ基地として北太平洋海域での操業を繰り返し行っているもので、同9年6月中旬に第1種中間検査工事のために入渠し、主機の開放整備工事が施工された。
この際、A受審人は、主機の4番及び6番シリンダヘッドが平成4年以来使用されていることから、冷却壁の腐食損耗が進行しており、冷却室の内部目視や水圧テストなどにより同腐食状態を発見できる状況であったが、同ヘッドの使用時間を調査しないまま、これまで漏水することがなかったので点検整備を整備業者に任せておけば大丈夫と思い、工事に立ち会って損耗状況を点検させることなく工事を終え、工事終了後に、始動弁当たり面が肌荒れしていた1番、2番及び3番シリンダヘッドを新替えした旨の報告を受けた。
こうして、新盛丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、1航海が1箇月ばかりの操業を3回行ったのち、同年10月29日11時00分塩釜港を発し、北太平洋の漁場に到着して操業を繰り返していたところ、主機6番シリンダヘッド排気通路下部の冷却壁の腐食損耗が更に進行して破孔を生じ、主機を回転数毎分500の中立運転として揚縄作業中、冷却海水が排気通路側へ漏水し始め、排気マニホルドを経て過給機へ浸入し、超えて11月13日16時30分、北緯32度16分東経155度15分の地点において、過給機潤滑油だまりのミスト抜き管から海水混じりの蒸気が発生した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船尾甲板で作業中、機関室通風機からの異臭に気付いて機関室に赴き、過給機ミスト抜き管から蒸気が噴出しているのを認めて主機を停止したのち、過給機タービン囲いの亀裂と考え、ロータ軸を抜き出すなどの無過給運転の措置をとり、主機をエアランニングした。このとき、6番シリンダの指圧器弁から海水が噴き出したので、改めて水圧テストなどを行って調査し、排気マニホルドを共通とする2番、3番及び6番シリンダヘッドのいずれかからの漏水と突き止めたものの、破孔箇所を特定できないまま、予備シリンダヘッドを積み込んでいないこともあり、運転不能と判断して調査を打ち切った。
新盛丸は、海上保安部へ救助を依頼し、来援した巡視船及び引船に曳航されて同月21日塩釜港に引きつけられ、のち、現地の修理業者の手により、損傷した6番シリンダヘッド、過給機ロータ軸及び同機タービン囲いのほか、6番と同時期に取り替えた4番シリンダヘッドなどを新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機の開放整備を行った際、シリンダヘッドの排気通路冷却壁の点検が不十分で、同壁に長期間の使用による腐食損耗が進行するまま継続使用され、同ヘッド排気通路下部の冷却壁に破孔を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、整備業者に主機シリンダヘッドの開放整備を行わせる場合、同ヘッド排気通路冷却壁の腐食損耗を早期に発見できるよう、工事に立ち会って冷却室の内部目視や水圧テストなどにより損耗状況を点検させるべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで漏水することがなかったので整備業者に任せておけば大丈夫と思い、工事に立ち会って損耗状況を,点検させなかった職務上の過失により、同冷却壁の腐食損耗が進行したシリンダヘッドを継続使用して破孔を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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