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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月7日08時10分 和歌山県和歌山下津港 2 船舶の要目 船種船名
ケミカルタンカー和丸 総トン数 198.20トン 全長 45.67メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
367キロワット 回転数 毎分365 3 事実の経過 和丸は、昭和50年4月に進水した、苛性(かせい)ソーダの輸送に従事する船尾船橋機関室型の鋼製液体化学薬品ばら積船で、機関室のほぼ中央部に、船首側の動力取出軸で補助発電機を駆動する主機を備え、その左舷側に主発電機用原動機(以下「補機」という。)1基を配置していた。 補機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した、4KDL型と称する定格出力69キロワット同回転数毎分1,200の4シリンダディーゼル機関で、船尾側の出力軸に電圧220ボルト容量40キロボルトアンペアの主発電機を、船首側の動力取出軸に空気式クラッチ及び減速機を介してカーゴポンプをそれぞれ連結し、シリンダには船尾側から順番号が付されていた。また、同機の据付けは、片側5本合計10本の据付けボルトで主発電機との共通台板に固定するようになっており、同ボルトには、ねじの呼びM20、呼び長さ50ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼製呼び径六角ボルトが使用されていた。 補機のクランク軸は、全長1,223ミリ、ジャーナル径が110ミリの機械構造用炭素鋼鋼材(材料記号SC43C)製の一体型で、直径70ミリのクランク軸歯車取付け部が4番クランクスローのジャーナルの船首側に段付き状態で隣接しており、さらにその船首側先端部がテーパー状を成して動力取出軸カップリングの嵌入(かんにゅう)部分となっていた。 本船の勤務形態は、配属されている4人のうち、船長、機関長及び一等航海士又は甲板員の3人が常時乗り組むこととし、原則として各人が順繰りに3箇月の乗船勤務後3週間ばかりの休暇をとるようになっていた。 A受審人は、平成6年9月に甲板員として乗り組んだのち、五級海技士(航海)の海技免状を併有していたことから、約1年後からは主として船長又は一等航海士の職務を執っていたものの、機関の有資格者であるB受審人が甲板員として乗船する場合には、他の機関長が休暇中のみ機関長として雇い入れされていたが、その際も主に甲板部関係の作業を担当していた。 B受審人は、R有限会社の経営者の二男で、同仕が本船を購入した同3年7月から乗り組むようになり、専ら機関長職を執っていたが、その後甲板部の乗船履歴をつける目的で、機関長職の有資格者が乗船できる期間は、甲板員で雇い入れされていたものの、機関部の実務を担当しており、同5年ごろから機関長又は甲板員としてほぼ交互に雇い入れられていた。 ところで、B受審人は、甲板員として本船に乗船中の同9年1月、熊本県に所在する造船所で施工された第一種中間検査工事に父親とともに立ち会い、補機の開放整備工事が、据付けボルトを取り外しのうえ、吊り上げた状態で行われた際、造船所の作業員から、運転中に同ボルトが緩むと補機本体が動揺し、クランク軸系に損傷を生ずるおそれがあるので、同ボルトの緩みの有無を点検するよう助言を受けていた。 ところが、B受審人は、出渠後2箇月ばかり据付けボルトの締付け状態の点検を実施して緩みがなかったので大丈夫と思い、その後は同ボルトの締付け状態の点検を行うことなく補機の運転を続けたため、いつしか同ボルトが緩んだり折れたりする状況となっていることに気付かなかった。 一方、A受審人は、同10年8月に機関長として乗船し、機関の運転管理の責任者の立場にあることを自覚していたが、機関のことは以前から機関部の実務を担当していたB受審人に任せておけば大丈夫と思い、同人に対し補機据付けボルトの状況を確認のうえ、同ボルトの締付け状態の点検を行うよう指示することなく、専ら甲板作業に従事していた。 そして、補機は、据付けボルトが緩んだり折れたりしたことから、その後の運転においてクランク軸と動力取出軸との軸心が偏移し、クランク軸のクランク軸歯車取付け部の船尾側の段付き部に繰返し曲げ応力が作用して、材料が疲労し始めた。 こうして、本船は、A受審人、同8年3月から甲板員として乗船しているB受審人ほか1人が乗り組み、苛性ソーダ240立方メートルを載せ、同10年8月6日10時05分兵庫県東播磨港を発し、同日14時30分和歌山県和歌山下津港第1区に至って通称青岸第2岸壁に係留した。本船は、翌7日06時20分から前日に引き続き、カーゴポンプを運転してタンクローリー車への揚げ荷役を行っていたところ、補機クランク軸の前示クランク軸歯車取付け部の船尾側の段付きき部で材料疲労が進行し、同部が軸心とほぼ直角に折損してタイミングギヤが回らなくなり、08時10分和歌山北防波堤灯台から真方位051度660メートルの地点において、補機が自停するとともに船内電源を喪失した。 当時、天候は曇で風力1の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。 折から甲板上で荷役用配管の弁操作に従事していたA、B両受審人は、相次いで機関室に急行し、補機をターニングしたところ、ピストンは正常に上下したものの、動力取出軸が回転しなかったので、クランク軸が船首部で折損したものと判断し、関係先に連絡して修理の手配を依頼した。 補機は、修理業者の手によって調査が行われた結果、前示損傷のほか、据付けボルト10本のうち、4本に折損及び6本に緩みを生じていることが判明し、のちクランク軸及び据付けボルトを新替えして修理された。
(原因) 本件機関損傷は、補機据付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだり折れたりしたまま運転が続けられ、クランク軸と動力取出軸との軸心が偏移し、クランク軸に繰返し曲げ応力が作用して材料疲労が進行したことによって発生したものである。 補機据付けボルトの締付け状態の点検が不十分であったのは、機関長が機関担当者に同ボルトの締付け状態の点検を行うよう指示しなかったことと、機関担当者である甲板員が同ボルトの締付け状態を点検しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、甲板員が機関の実務を担当している和丸に、機関の運転管理の責任者である機関長として乗り組んだ場合、補機据付けボルトが緩んでクランク軸系に損傷を生じさせることのないよう、甲板員に同ボルトの状況を確認のうえ、締付け状態の点検を行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、甲板員が機関の有資格者なので任せておけば大丈夫と思い、甲板員に対して同ボルトの状況を確認のうえ、締付け状態の点検を行うよう指示しなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んだり折れたりしたまま運転が続けられ、クランク軸の折損を招き、補機が運転不能になるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、補機の開放整備工事に立ち会い、造船所の作業員から補機据付けボルトの緩みの有無を点検するよう助言を受け、その後も引き続き機関部の実務を担当する場合、同ボルトが緩んでクランク軸系に損傷を生じさせることのないよう、定期的に同ボルトの締付け状態の点検を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、出渠後2箇月ばかり同点検を実施して緩みがなかったので大丈夫と思い、その後は同ボルトの締付け状態の点検を行わなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んだり折れたりしたまま運転が続けられ、前示損傷を招くに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |