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1999年(平成11年)

平成10年広審第97号
    件名
漁船第六誠漁丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第六誠漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機の全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸、2番及び5番シリンダの連接棒などが損傷

    原因
主機の油受油量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の油受油量の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月27日08時30分
美保関港南方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六誠漁丸
総トン数 19.69トン
登録長 16.04メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 242キロワット
回転数 毎分1,900
3 事実の経過
第六誠漁丸は、昭和52年4月に進水した、中型まき網及び船びき網漁業に従事するFRP製運搬船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6KE-DT型と称するディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、動力取出軸に装着されたプーリによりベルト駆動される容量40キロボルトアンペアの集魚灯用交流発電機及び油圧ポンプを備え、操舵室には主機の回転計及び潤滑油圧力計などの計器並びに潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇などの警報装置が組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油受から直結の歯車式潤滑油ポンプにより吸引、加圧された潤滑油が、複式潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、同主管からシリンダごとに分流して主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑したうえピストンを冷却するほか、歯車装置、カム軸、ロッカーアームなどにも分流して各部を潤滑したのち油受に戻るようになっていた。また、主機は、架構左舷側のほぼ中央部下方に備えられた検油棒で容易に油受油量を点検することができるようになっていて、検油棒目盛の高位及び下位における同油量がそれぞれ40及び20リットルで、全速力前進時の潤滑油圧力が4.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートルであり、同圧力が1.0キログラム毎平方センチメートル以下になると、これを同圧力センサーが検出して警報装置に信号を送り、操舵室及び機関室の警報ランプが点灯するとともに警報ブザーが鳴るようになっていた。
ところで、主機の油受油量は、運転中、ピストンリングのかき上げなどにより減少するので、船体が動揺した際に潤滑油ポンプが空気を吸引するなどして主機各部の潤滑が阻害されることのないよう、始動前に検油棒で点検のうえ潤滑油の消費量に対して適宜同油を補給し、検油棒目盛の高位と下位との間に保持しなければならないものであった。
本船は、島根県美保関港を基地とし、船団に所属する網船及び灯船とともに、11月から翌年5月ごろまで美保湾で船びき網漁を、6月から10月まで隠岐諸島周辺の漁場で中型まき網漁をそれぞれ行っており、年間の主機運転時間が約2,000時間で、3月から4月にかけては、しけや不漁が続いて休漁することが多いことから、この間に船体及び機関などの整備が行われていた。
A受審人は、同61年4月に船長として乗り組み、主機の運転及び保守管理にも従事しており、主機の整備については、潤滑油及び潤滑油こし器エレメントの取替えを半年ごとに、過給機の開放整備を1年ごとに、シリンダヘッドを開放のうえ吸気弁、排気弁、燃料噴射弁などの整備を2年ごとにそれぞれ行っていたほか、3ないし4回の出漁に1回の割合で、主機を始動する前に油受油量を検油棒で点検のうえ潤滑油を補給し、検油棒目盛の高位と下位の8分目に同油量を維持するようにしていたものの、ピストン抜き整備を長時間行っていなかったことから、ピストンリングやシリンダライナの摩耗などの進行により同油の消費量が次第に増加していたのでピストン抜き整備の時機を検討していた。
また、A受審人は、平成10年1月下旬ごろ出漁するため操舵室で主機の始動スイッチを投入した際、潤滑油圧力低下警報装置が作動せず、警報ブザーが鳴らないのに気付いて調査したところ、潤滑油圧カスイッチが損傷していることが分かり、自分で取り替えようと同スイッチを修理業者に発注したが、同業者の不手際などで同スイッチをなかなか入手することができず、同警報装置が作動不能となったまま主機の運転を続けていた。
A受審人は、同月30日ごろ出漁に先立ち、主機の油受油量を点検のうえ潤滑油を補給したのち、操舵室で主機を始動して出漁したが、翌2月上旬からしけが続いて出漁できなかったこともあって、いつしか同油量を点検しないままほぼ毎日06時50分ごろから蓄電池を充電する目的で主機を回転数毎分約1,000にかけ、30分ないし1時間係留運転を行っていた。
同月27日朝A受審人は、しけがおさまって操業可能となったことから、いつものように操舵室で主機を始動することとした。しかしながら、同人は、しばらく出漁していないので主機の油受油量が不足していないものと思い、始動する前に同油量を点検することなく、これが著しく不足していることに気付かず、06時50分主機を始動した。
こうして、本船は、A受審人ほか1人が乗り組み、船びき網漁の目的で、船首尾とも1.0メートルの等喫水をもって、07時00分美保関港を発し、主機を全速力前進にかけて美保湾の漁場に至って魚群探索を始めたものの、魚群を発見できなかったので操業を中止し、主機を回転数毎分1,800にかけて僚船とともに帰港の途、折からの船体動揺で潤滑油ポンプが空気を吸引して潤滑油圧力が低下したが、同圧力センサーの不具合で同圧力低下警報装置が作動せず、そのまま運転か続けられるうち、主軸受、クランクピン軸受などが焼損し、08時30分美保関港東防波堤灯台から真方位185度580メートルの地点において、異音を発して主機が停止した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上には少しうねりがあった。
操舵操船に就いていたA受審人は、機関室に急行し、主機各部を点検したところ、検油棒に潤滑油が付着せず、ターニングを試みたものの果たせなかったことから運転不能と判断し、僚船に救助を求めた。
本船は、来援した僚船により美保関港に引き付けられ、同港において精査した結果、主機の全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸、2番及び5番シリンダの連接棒などが損傷していることが判明し、のち損傷部品の取替え修理を行った。

(原因)
本件機関損傷は、主機を始動する際、油受油量の点検が不十分で、潤滑油が補給されないまま運転が続けられ、同油量の著しい不足により潤滑油ポンプが空気を吸引し、主軸受などの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動する場合、油受油量が不足して潤滑油ポンプが空気を吸引することのないよう、始動する前に同油量の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、しばらく出漁していないので同油量が不足していないものと思い、始動する前に同油量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同油量が著しく不足していることに気付かないまま始動し、同ポンプが空気を吸引して潤滑油圧力の低下を招き、全主軸受、全クランクピン軸受、クランク軸及び連接棒などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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