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1999年(平成11年)

平成10年函審第49号
    件名
漁船第二十八大忠丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第二十八大忠丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
2番シリンダのピストンスカート焼き付き

    原因
潤滑油のかき落としが多い状態で運転が続けられた

    二審請求者
理事官里憲

    主文
本件機関損傷は、油かきリングによる潤滑油のかき落としが多い状態で運転が続けられ、ピストンスカートしゅう動面が油切れになったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月15日17時25分
北海道利尻島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大忠丸
総トン数 160トン
全長 38.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第二十八大忠丸(以下「大忠丸」という。)は、平成元年12月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社赤阪鐵工所が同年12月に製造した6U28型と呼称するトランクピストン型ディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側を1番として順番号を付し、また、推進器として可変ピッチプロペラを備え、船橋から主機の回転及びプロペラ翼角の遠隔操作ができるようになっていた。
主機は、就航当初、負荷制限装置を施していたが、のちに同装置を取り外し、常用時における最大負荷を回転数毎分720、プロペラ翼角を19.5度として運転していた。
主機のピストンは、鍛鋼製ピストンクラウンと鋳鉄製ピストンスカートとの組立式で、ピストンクラウンに3本の圧力リングが装着され、ピストンスカートにはピストンピン穴の上側にエキスパンダ付きで面圧10.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)の油かきリング1本、同ピン穴の下側にエキスパンダなしで面圧3.0キロの鋳鉄製油かきリング(以下「下側油かきリング」という。)1本が装着され、両油かきリングともしゅう動面の断面形状がベベルカッタ形をしており、本船では、建造当初からこれら標準面圧の油かきリングが使用されていた。また、シリンダライナは、鋳鉄製で、内面にクロムメッキが施され、シリンダ潤滑が、システム油のはねかけによって行われていた。
A受審人は、本船に就航以来機関長として乗り組み、毎年行われる機関整備において、主機ピストンの全ピストンリングを新替えするなどして機関の運転保守に当たっていたもので、平成7年9月の中間検査工事において、シリンダライナの冷却水側がキャビテーションによる侵食を生じていたので全シリンダをコーティング補修したところ、同工事後最初の操業において、なじみ不足のため1番シリンダのピストンとシリンダライナとに焼損(以下「前回事故」という。)を生じ、同シリンダのそれらを新替えしてその後の操業を続けていた。
A受審人は、同9年9月の定期検査工事において主機シリンダライナの冷却水側に、再びキャビテーションによる侵食が発生していたので全シリンダのシリンダライナを新替えすることになり、また、ピストンリングも例年どおり新替えすることになったが、ピストン及びシリンダライナには油かきリングの面圧が高いことに起因する異常摩耗などが認められず、また、立会いの機関メーカーの技術員から同リングの面圧を低いものに替えた方が良いなどの助言もなかったことから、これまでと同じ標準面圧の油かきリングを使用してピストン及びシリンダライナを組立て復旧した。このとき、2番シリンダは、シリンダコラムなどの経年に伴う微妙な変形の影響を受けるかして、下側油かきリングの面圧がやや高い状態になっていたが、これは通常の組立て作業では察知できないもので、同受審人はこのことを知る由もなかった。
同月27日A受審人は、機関メーカー技術員の立会いのもとで、前回事故を踏まえてすり合わせ運転及び海上試運転を行って定期検査工事を終了したが、主機2番シリンダは、下側油かきリングの面圧がやや高い状態であったことから同リングによる潤滑油のかき落としが多目になっていた。
大忠丸は、翌10月1日北海道稚内港を出港して操業を開始したが、前回事故を考慮して主機の負荷を抑えて運転することとし、回転数及びプロペラ翼角を、毎分680、前進17度の負荷65パーセント以下で運転し、翌々12月4日運転時間が462時間に達したのち、毎分700、前進19度の82パーセント負荷以下で運転していたところ、2番シリンダにおいて、下側油かきリングによる潤滑油のかき落としが多し状態のところに、負荷上昇に伴いピストン側圧が増加し、ピストンスカート及びシリンダライナが油切れ気味になって肌荒れを生じるようになった。
こうして、大忠丸は、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、同月15日01時45分稚内港を発し、06時55分利尻島南西沖合の武蔵堆漁場に至って操業を行った後、17時10分漁場移動を開始することになり、同受審人が、シリンダライナ新替え後運転時間が528時間に達してもうなじみが十分ついたころだから、同ライナ新替え前の常用最大負荷に戻しても良いと判断し、船橋の操船者に対してその旨を伝え、船橋で主機を回転数毎分720、プロペラ翼角を前進19.5度に上げたところ、2番シリンダのピストンスカートしゅう動面が油切れの進行によりスカッフィングを生じて焼き付き、17時25分仙法志埼灯台から真方位231度11.5海里の地点において、主機の回転が低下した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、機関室で当直中、主機の回転が低下するのに気が付いて直ちに主機を停止し、ターニングを試みると少し重いのでクランク室内を点検したところ、2番シリンダから白煙が出て冷却水が滴下しているのを認め、主機の運転を断念した。
大忠丸は、救助を求め、来援した僚船に曳航されて稚内港外に至り、その後引船に曳航されて同港の第一副港岸壁に係留し、修理業者が2番シリンダのピストン及びシリンダライナを新替えしたうえ、下側油かきリングの面圧を1.7キロのものに交換し、のちスカッフィングの応急防止対策として残り5シリンダの下側油かきリングを面圧1.7キロのものに交換した。

(原因)
本件機関損傷は、全シリンダのシリンダライナ及びピストンリングを新替え組立て後、経年に伴いシリンダコラムの微妙な変形などの影響を受けるかして油かきリングの面圧が高くなっていた2番シリンダにおいて、同リングにより潤滑油のかき落としが多し状態で運伝が続けられ、ピストンスカートしゅう動面に油切れを生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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