|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月24日04時00分 北海道苫小牧港南方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十二龍徳丸 総トン数 19.80トン 登録長 15.20メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
330キロワット 回転数 毎分1,450 3 事実の経過 第五十二龍徳丸(以下「龍徳丸」という。)は、昭和55年4月に進水し、いか一本釣漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所製6MG155AX型ディーゼル機関を装備し、動力取り出し軸には250キロボルトアンペアの集漁灯用交流発電機を設け、主機とプロペラ軸との間には新潟コンバーター株式会社が同年1月に製造した、MGN86AX型と呼称する逆転減速機(以下「逆転機」という。)を備え、操舵室から主機及び逆転機を遠隔操作できるようになっていた。 逆転機は、減速歯車と前進用及び後進用の油圧多板式摩擦クラッチ(以下「クラッチ」という。)を組み合わせたもので、主機後部の動力側が、ゴム継手を介して逆転機の駆動軸継手に接続され、同継手が駆動軸の前側とスプライン結合されていた。そして、主機の動力は、前進時に駆動軸、前進用クラッチ、前進用小歯車、大歯車、推力軸及びプロペラ軸へ、後進時に駆動軸、逆転駆動歯車、逆転被動歯車、逆転クラッチ、後進用小歯車、大歯車、推力軸及びプロペラ軸へとそれぞれ伝達されるようになっていた。 また、逆転機の駆動軸は、前側が駆動軸継手に、後側が駆動軸にそれぞれしまりばめした円すいころ軸受で支持され、両軸受の間の駆動軸部分には、前側に前進用小歯車、後側に前進用クラッチを内蔵した逆転駆動歯車がはめ込まれていた。そして、前進用クラッチかん入時及び前進航行時に生じる前進用小歯車の推力は、スラストリング、スペーサを介して駆動継手の後端に伝わり、更に、同継手の溝に取り付けられているスナップリングを介して円すいころ軸受の内輪に伝わるようになっており、このスナップリングは、同軸受の位置決め用で同軸受の新替え時に取り外す必要があり、その時に磨滅状態などを点検するもので、逆転機の取扱説明書には、ころがり軸受の交換周期を10,000運転時間、あるいは4年毎に定めていた。 A受審人は、本船に就航以来船長として乗り組み、機関の運転保守にも当たり、例年1月末に長崎県対馬沖から山口県沖において操業を開始し、北上して7月上旬北海道の日本海側に、8月中旬に北海道の太平洋側に至る操業に従事していたもので、平成7年3月の中間検査工事において、主機のピストンリングを新替えするなどして機関整備を行っていた。ところが、同人は、逆転機の軸受について、運転中の同機に格別異状を認めなかったことから使用し続けても大丈夫と思い、定期的に新替えするなどの整備を就航以来一度も行っていなかったので、前進用小歯車の推力を繰り返し受けていたスナップリングが、磨滅して金属疲労を生じていることに気が付かなかった。 こうして、龍徳丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、平成9年10月23日16時00分北海道登別市登別漁港を発して苫小牧港南方沖合の漁場に向かい、18時30分漁場に至って操業を開始し、翌24日03時50分操業を終えて漁場を発進し、主機を回転数毎分1,250の全速力にかけて帰途についたところ、スナップリングが疲労破断して脱落し、駆動軸継手と円すいころ軸受内輪とのかん合部が衝撃力により緩み始め、駆動軸が振れて同軸後端に設けられだ油圧ポンプ駆動プロックが破損し、作動油圧が低下して前進用クラッチが滑るようになるとともに次第に速力が低下し、04時00分苫小牧港出光興産シーバース灯から真方位178度12.0海里の地点において停止した 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は平穏であった。 龍徳丸は、僚船に救助を求め、来援した僚船によって引航されて06時30分登別漁港に入港し、業者に修理依頼したところ前示損傷のほか、作動油中への破片の混入により前進用クラッチの摩擦板などが損傷しており、のち駆動軸継手、駆動軸前後の円すいころ軸受、油圧ポンプ駆動ブロック、油圧ポンプ、摩擦板などを新替えした。
(原因) 本件機関損傷は、逆転機軸受の整備が不十分で、駆動軸継手に投けられた軸受の位置決め用スナップリングが疲労破断し、同継手と軸受とのかん合部が緩み駆動軸が振れたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、逆転機の運転保守にあたる場合、軸受が所定の運転時間内で使用されるよう、定期的に新替えするなどして軸受の整備を十分に行うべき注意義務があった。 ところが、同人は、運転中の逆転機に格別異状を認めなかったことから軸受を使用し続けても大丈夫と思い、定期的に新替えするなどの軸受の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、軸受の位置決め用スナップリングが疲労破断して駆動軸継手と軸受とのかん合部に緩みを招き、駆動軸が振れて油圧ポンプ、駆動軸継手、駆動軸前後の軸受、摩擦板などを損傷するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規走により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |