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1999年(平成11年)

平成9年仙審第74号
    件名
漁船第十八平清丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、供田仁男、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第十八平清丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
補機のクランク軸折損、主機駆動発電機の固定子巻線の焼損等

    原因
補機のクランクアームデフレクションの点検不十分、主機駆動発電機の絶縁保守不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機原動機のクランクアームデフレクションの点検が十分でなかったばかりか、主機駆動発電機の絶縁保守が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月12日18時10分
福島県塩屋埼東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八平清丸
総トン数 53.45トン
登録長 23.55メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分400
3 事実の経過
第十八平清丸(以下「平清丸」という。)は、昭和53年8月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、上甲板下の船体中央部に魚倉及び同船尾に機関室を配置し、同室には、電源装置として、左舷側に昭和精機工業株式会社が製造した4KDL型と称する定格出力69.8キロワット及び同回転数毎分1,200の4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関(以下「補機」という。)で直結駆動される電圧225ボルト容量76.25キロボルトアンペア3相交流の発電機(以下「補機駆動発電機」という。)、その前方に配電盤、右舷側に主機の動力取出軸でベルト駆動される電圧225ボルト容量40キロボルトアンペア3相交流の発電機(以下「主機駆動発電機」という。)をそれぞれ装備していた。
補機は、各シリンダに船首側を1番として4番までの順番号が付されており、シリンダ内径145ミリメートル(以下「ミリ」という。)行程170ミリのもので、一体形の炭素鋼製鍛造品のクランク軸が主軸受に装着された三層メタルにより支持されていた。クランク軸は、寸法が全長1,223ミリ、クランクジャーナル径110ミリ、同長さ60ミリ、クランクピン径95ミリ、同長さ70ミリ、クランクアーム幅155ミリ、同厚さ39.5ミリ及びクランクジャーナルとクランクピンとの各中心間距離85ミリとなっていて、クランクアームにはバランスウエイトが取り付けられていた。
平清丸は、平成6年8月下旬に定期検査の受検準備の際、船内作業による補機のピストン抜出し整備等が行われ、また、業者により電源装置が点検されて各発電機に異状のないことが確認された。
A受審人は、同4年9月に平清丸の機関長として乗り組んでおり、それ以来毎年9月から翌年6月末までの漁期の操業に従事し、機関の運転及び保守管理にあたり、計測用具を船内に備えていなかったことから、前示の補機整備の際にクランクアームデフレクション(以下「デフレクション」という。)を点検しないまま操業の再開後に運転を続け、同8年8月下旬に第1種中間検査の受検に備えて補機整備を行った際及びその後も業者に依頼するなどしてデフレクションを点検しなかったので、主軸受メタルの摩耗によりクランク軸の軸心が偏移する状況となっていることに気付かなかった。
ところで、主機駆動発電機は、大洋電気株式会社が製造したTA4224-8型であったが、航行時に必要とする最小限の電力需要を供給できるものの同時に魚倉用冷凍装置の電力を供給するには容量が足りないことから、平素非常用とされて長期間無負荷の状態となっているうち、吸湿して固定子巻線の絶縁抵抗が次第に低下した。
しかし、A受審人は、受検準備の際に点検されているから大丈夫だろうと思い、絶縁抵抗を適宜計測のうえ乾燥の措置をとるなどして主機駆動発電機の絶縁保守を十分に行わなかったので、固定子巻線の絶縁抵抗が悪化していることに気付かず、補機駆動発電機を常用して操業を繰り返した。
こうして、平清丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.80メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同9年5月12日00時00分平潟港を発し、同港南方沖の漁場に至って操業を開始し、補機がクランク軸の軸心の偏移したまま運転されているうち、3番シリンダの船尾側クランクアームが過大な繰り返し曲げ荷重を受けて材料の疲労により亀裂を生じ、これが同クランクアームの直角方向に進展していたところ、同港北東方沖に向けて漁場移動することとなり、主機を全速力にかけて11.0ノットの対地速力で航行中、18時08分同亀裂によりクランク軸が折損し、補機が異音を発した。平清丸は、上甲板で漁獲物を処理していたA受審人が異音に気付き機関室に急行して補機を停止し、配電盤の気中遮断器を操作して主機駆動発電機に切り替えたが、18時10分塩屋埼灯台から真方位92度13.1海里の地点において、同発電機の固定子巻線が絶縁不良により短絡を生じ、気中遮断器の過電流引き外し装置が作動して停電した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機駆動発電機が発煙していることを認め、停電を復旧することも、主機を運転することもできなくなり、その旨を船長に報告した。
平清丸は、僚船により平潟港に曳航され、精査の結果、補機のクランク軸の前示折損及び主機駆動発電機の固定子巻線の焼損等が判明し、各損傷がそれぞれ修理された。

(原因)
本件機関損傷は、補機のデフレクションの点検が不十分で、クランク軸の軸心が偏移したまま運転が続けられ、クランクアームが過大な繰り返し曲げ荷重を受けてその材料が疲労したばかりか、主機駆動発電機の絶縁保守が不十分で、固定子巻線が絶縁不良により短絡を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機駆動発電機の運転及び保守管理にあたる場合、同発電機が非常用とされて長期間無負荷の状態となっていたから、固定子巻線が吸湿して絶縁不良とならないよう、絶縁抵抗を適宜計測のうえ乾燥の措置をとるなどして同発電機の絶縁保守を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、受検準備の際に点検されているから大丈夫だろうと思い、主機駆動発電機の絶縁保守を十分に行わなかった職務上の過失により、同発電機に切り替えた際に固定子巻線の絶縁不良による短絡を招き、同巻線を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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