|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月12日11時30分 沖縄島北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一大光丸 総トン数 6.01トン 登録長 11.45メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 139キロワット 3 事実の経過 第一大光丸は、昭和54年10月に進水した底魚一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6CH-HT型と称するディーゼル機関を、軸系に同社が製造したYP60A型と称する逆転減速機をそれぞれ据付け、船橋に備えた遠隔操縦装置で、主機の発停、増減速及び前後進の操作ができるようになっていた。 逆転減速機は、油圧湿式多板並列型で、入力軸、出力軸、歯車軸、前進クラッチ、後進クラッチ、減速歯車、逆転歯車等で構成され、遠隔操縦装置において前後進ハンドルを前進側に操作すると、前進用油圧ピストンに油圧がかかり、前進クラッチに内蔵する摩擦板7枚とスチール板8枚を圧着することにより、前進クラッチが入るようになっており、同ハンドルを後進側に操作すると、後進クラッチに内蔵する摩擦板とスチール板を圧着することにより、後進クラッチが入るようになっていた。 クラッチは、プロペラ軸にロープや漁網等を巻き込むなどして、過大な負荷がかかったとき、主機の出力を過大に上げて運転すると、摩擦板とスチール板とが滑りを生じ、滑りを生じたまま運転を続けると摩擦板とスチール板を焼損することがあるので、主機の取扱いを適切に行わなければならないものであった。 A受審人は、1人乗り組み、そでいか漁を日帰りで行う目的で、平成10年6月12日04時00分船首0.20メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、沖縄県名護市仲尾次漁港を発し、06時00分辺戸岬西北方5海里ばかり沖合の漁場に至り、1つの浮子から長さ400メートルの縄を垂らした立縄を、北北西方に移動しながら約350メートル間隔に21本入れる立縄入れ作業を開始し、07時30分同作業を終了し、主機を停止回転として漂泊した。 その後A受審人は、10時00分ごろから立縄揚げの準備にかかり、同時25分辺戸岬灯台から317度(真方位、以下同じ。)9.8海里の地点を発進し、浮子を右舷15メートルばかりに見る138度の針路とし、主機を回転数毎分1,000の4.5ノットの半速力として最初に入れた浮子へ向かって進行中、11時00分プロペラ軸付近で異常音を発する状況に気付いた。 そこで、A受審人は、過去にも何度かプロペラ軸がロープを巻き込んだ経験から今回もロープを巻き込んだと判断し、巻き付いたロープをナイフで切り取ろうと思い何度か潜水を試みたものの、同軸付近まで潜ることができなくて果たせず、燃料ハンドルを低速の位置にすれば何とか異常音も少なく所定の回転が得られる状態であったところ、主機を全速で回せば外れると思い、クラッチに過大な負荷をかけないなどの主機の適切な取扱いをしないで、クラッチを入れて燃料ハンドルを全速前進及び全速後進の位置まで上げる操作を繰り返したが、直径約5ミリメートルのロープの一部が千切れただけであった。 ところがクラッチは、前示操作を繰り返すうちに、クラッチの摩擦板とスチール板とが滑りを生ずる状況となり、11時30分辺戸岬灯台から318度8.2海里の地点でクラッチの前進側及び後進側の摩擦板とスチール板とが焼損した。 当時、天候は晴で風力2の南南西が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、前進側に全くプロペラが回らず、後進側も微速力の回転数毎分600以上に上げることができなくなり、陸上との連絡手段もないことから、かろうじて可能な微速力後進にかけ、夕刻から強まった南寄りの風に流されながら、奄美群島与論島南端の海岸沿いに最寄りの同島与論港へ向かって航行していたとき、磯波を右舷方から受け、翌13日11時00分与論港灯台から155度2,900メートルのさんご礁の浅所に寄せられて乗り揚げた。 第一大光丸は、乗揚を目撃した人が手配した漁船により、与論島茶花漁港に引き付けられ、後日僚船に引かれて仲尾次漁港に回航された。その結果、前示の機関損傷のほか、乗揚によりプロペラ、プロペラ軸、同軸ブラケット及び舵板が損傷し、のちいずれも修理された。
(原因) 本件機関損傷は、プロペラ軸が水中浮遊物のロープを巻き込んだ際、主機の取扱いが不適切で、逆転減速機の前進側及び後進側の油圧多板クラッチの摩擦板とスチール板が過熱したことによって発生したものである。 なお、乗り揚げたのは、クラッチが焼損し、前進航行が不可能となった後、かろうじて可能な微速力後進にかけ、南寄りの風に流されながら、奄美群島与論島南端の海岸沿いに最寄りの港に向かって航行していたとき、磯波を右舷方から受けて浅所に寄せられたことによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、プロペラ軸が水中浮遊物のロープを巻き込んだ場合、巻き込んだまま主機の出力を過大に上げて運転すると、油圧多板クラッチの摩擦板とスチール板とが滑りを生じ、更には摩擦板とスチール板とが焼損するおそれがあったのだから、クラッチに過大な負荷をかけないよう、低速で運転するなど、主機の取扱いを適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機を全速で回せばロープが外れると思い、主機の取扱いを適切に行わず、クラッチを入れて燃料ハンドルを全速前進及び全速後進の位置まで上げる操作を繰り返し、クラッチの摩擦板とスチール板が過熱する事態を招き、クラッチの焼損を生じさせるに至った。 |