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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月4日12時00分 長崎県対馬三浦湾 2 船舶の要目 船種船名
漁船長門丸 総トン数 14.20トン 全長 17.20メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
180キロワット 回転数 毎分2,035 3 事実の経過 長門丸は、昭和52年4月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する木製漁船で、主機として昭和56年5月に換装された久保田鉄工株式会社が製造したMH50CS型と称するディーゼル機関と油圧クラッチ付逆転機を装備し、主機の船首側にはエアクラッチを介して駆動する交流発電機を備えていた。 主機は、間接冷却方式で、シリンダブロックにシリンダライナを挿入してシリンダライナ周囲に冷却水ジャケットを形成し、同ジャケット下部の水密を保つためにシリンダブロックの各挿入孔に2本の溝を設け、線径5.7ミリメートルのOリングを装着していた。 主機の冷却清水系統は、下半部を冷却器とした冷却水タンクの清水が清水ポンプで加圧され、一部は過給機を冷却し、残りは冷却水ジャケットに入って各シリンダライナ及びシリンダヘッドを冷却し、その後排気マニホルドを冷却しながら合流し、再び同タンクに戻るものであったが、同タンクには、水面計もリザープタンクもなかったので、冷却水量を点検するには機関の冷態時に補給用キャップを開いて水位を確認する必要があった。 潤滑油系統は、油だめから潤滑油ポンプで吸い上げられ、加圧された潤滑油が、潤滑油こし器及び同冷却器を経て各軸受、歯車などの主要部を潤滑するほか、ジェットノズルからピストン下部に噴出して各ピストンを冷却し、再び油だめに戻るようになっており、油だめに検油棒が差し込まれていた。 主機は、搭載されて以来、漁場への航海と操業中の発電機駆動のために年間平均4,000時間ほど運転されており、平成5年7月にシリンダライナが新替えされた際にOリングも取り替えられたが、その後、Oリングが取り替えられないまま運転されていたので硬化が進み、また、清水冷却器は平成5年5月に中古品と換装されたのち掃除されていなかったので運転中の冷却水温度が加熱気味であった。 A受審人は長門丸の進水以来、船長として機関の運転と管理に従事し、潤滑油については約3箇月毎に取り替えを行い、平成8年7月に新替えしたのちは油量の減少に気付いたときに補給していた。一方、冷却水についてはそれまで冷却水量が減少したことがなかったので、冷却水ジャケット部からクランク室内へ漏えいすることはないものと思い、出港前に冷却水量を点検することなく、いつしかシリンダライナの硬化したOリングから冷却水が漏れてクランク室内の潤滑油に混入し始めたことに気付かないまま運転を続けた。 長門丸は、A受審人が単独で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成8年10月3日16時30分長崎県下県郡美津島町の芦(よし)ヶ浦漁港を発し、同漁港沖合の漁場に至って操業を行ううち主機の2番シリンダライナのOリングが切損して冷却水の漏えい量が増え、潤滑油が乳化して潤滑が阻害され、クランクピンメタルが異常摩耗し始めた。そして長門丸は、翌4日06時ごろ操業を切り上げ、同時30分漁場を発して09時厳原港に寄港し、水揚げをしたのち同漁港に向かい、主機を回転数毎分1,900にかけて進行していたところ、同日12時00分折瀬鼻灯台から真方位015度800メートルの地点で、クランクピンメタルとクランクピンが焼き付き、主機が停止した。 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹いていた。 A受審人は、機関室に入ったところ、主機が全体に過熱し、油だめの油面が異常に高いことを認め、運転不能と判断して投錨し、無線で救援を依頼した。 長門丸は、まもなく来援した僚船にえい航されて帰港し、精査した結果、4番シリンダを除く全シリンダライナのOリングが硬化し、2番シリンダのOリングが切損しており、1、6番のクランクピンメタルが連れ回りしてクランクピンが損傷し、さらにシリンダライナとピストンにかじり傷を生じていたが、のち主機が換装された。
(原因) 本件機関損傷は、出港前の主機冷劫水量の点検が不十分で、シリンダライナのOリングが切損して冷却水が潤滑油中に混入したまま運転が続けられ、各軸受等の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、潤滑油中に冷却水が混入し潤滑が阻害されないよう、出港前に冷劫水量を点検すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、それまで冷却水が減少したことがなかったので冷却水がクランク室内へ漏えいすることはないと思い、冷却水量を点検しなかった職務上の過失により、冷却水が潤滑油中に混入して潤滑阻害を招き、クランクピン、ピストン、シリンダライナ等に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |