|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月9日08時30分 北太平洋 2 船舶の要目 船種船名
貨物船ジャパンオーク 総トン数
49,164.75トン 全長 243.6メートル 機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関 出力 8,826キロワット 回転数
毎分400 3 事実の経過 ジャパンオークは、昭和56年12月に進水し、機関部Mゼロ自動化設備を備えた、主としてカナダ及びオーストラリアから日本への石炭輸送に従事する鉱石兼ばら積運搬船で、主機の減速歯車軸とプロペラ軸との間に中間軸を配置し、船橋及び機関制御室に主機の遠隔操縦装置並びに中間軸受潤滑油温度上昇などの警報装置を設置していた。 中間軸は、長さが7,040ミリメートル(以下「ミリ」という。)、直径が軸受部及び接地装置装着部477ミリその他472ミリの鍛鋼製で、1個の軸受で支持されており、軸心が船底から4,000ミリの高さで、機関室床板の下方700ミリに位置していた。 中間軸受は、幅が380ミリで、鋼製裏金にホワイトメタルを厚さ3ミリに鋳込んだもので、上下2つ割れ構造となった鋳鉄製の本体にそれぞれ組み込まれ、同本体は船底から1,997ミリの高さのタンクトップ上に固定されており、潤滑油出口管にサイトグラスと照明灯が設置されて潤滑油の流れが機関室床板の上からでも視認できるようになっていた。 中間軸受の潤滑油は、主機の減速歯車潤滑油ポンプ出口から分岐し、入口弁を経て約0.9キログラム毎平方センチメートルの圧力で供給され、出口側のサイトグラスを経て減速歯車潤滑油サンプタンクに戻り、出口側の潤滑油温度が摂氏55度を超えると警報を発するようになっていた。 中間軸受潤滑油の入口弁は、呼び径25ミリの玉型弁で、機関室床板の下約1,500ミリに設置されており、操作ハンドルにエクステンションバーを取り付け、遠隔操作ハンドルを機関室床板下約200ミリに追設し、機関室床板上から開閉操作ができるようになっていたが、同弁は通常運航では開弁のままで閉弁することがないこと及び船尾に近く船体振動の多いところに設置されていたことから、振動で閉弁することがないよう、就航当初から遠隔操作ハンドルが固定されていた。 遠隔操作ハンドルの固定方法は、U字状のストッパをハンドルにかけ、同ストッパと前示エクステンションバーのガイドバーに溶接した鉄片とに呼び径10ミリのボルトを通し、蝶ナットで止める方法であったが、これらのバー自体の振動で蝶ナットが緩むおそれがあった。 A受審人は、平成9年4月機関長として乗船し、航海中機関部は08時から17時を整備作業及び機関室当直、Mゼロ当番者が16時からMゼロチェックを行い、17時から翌朝08時まで機関室を無人とする就労体制とし、自身も08時及び16時からの2回、30ないし40分かけて機関室を巡視していた。中間軸受潤滑油出口管のサイトグラスはMゼロチェック項目となっており、自身が機関室を巡視するときも潤滑油が流れていることを視認していたが、中間軸受潤滑油入口弁を点検したことがなく、いつしか遠隔操作ハンドル固定の蝶ナットが緩んで外れ、ボルト及びストッパとともにタンクトップ上に脱落したことに気付かなかった。 ジャパンオークは、A受審人ほか23人が乗り組み、船首7.03メートル船尾8.70メートルの喫水で、翌10年2月28日06時55分坂出港を発し、カナダのプリンスルパート港に向かった。 翌3月8日16時A受審人は、機関室を巡視した際、ストッパが外れた中間軸受の潤滑油入口弁が振動で徐々に閉弁しつつあったが、サイトグラスに潤滑油が流れているのを視認しているので大丈夫と思い、依然、同弁を点検しなかった。 こうして、ジャパンオークは、主機回転数毎分約352、プロペラ回転数毎分約75として進行中、中間軸受の潤滑油入口弁が閉弁して潤滑油の供給が絶たれ、同軸受が過熱焼損したが、潤滑油が流れないので同油温度によって作動する警報が作動せず、そのまま運転が続けられ、翌9日08時30分北緯37度50分西経178度3分の地点において、機関室巡視中のA受審人が中間軸受のサイトグラスに潤滑油が流れていないのを視認した。 当時、天候は晴で風力7の西風が吹き、海上は時化模様であった。 A受審人は、急ぎ中間軸受潤滑油入口弁を開弁して潤滑油が流れることを確認したのち、主機を停止して同軸受を点検し、下側ホワイトメタルが溶出しているのを認めた。 損傷の結果、ジャパンオークは、プロペラ回転数毎分60ないし65に減じてカナダのバンクーバー港に向かい、同港にて中間軸受を開放した結果、下側裏金が変形し、中間軸にもヒートクラックが多数生じており、中間軸は削正加工、同軸受は変形を修正のうえホワイトメタルを鋳込み直すなどの修理が行われたのち、プリンスルパート港への航海に復帰した。
(原因) 本件機関損傷は、機関室を巡視する際、船尾近くの船体振動の多いところに設置されている中間軸受潤滑油入口弁の点検が不十分で、同弁操作ハンドルを固定している蝶ナットが振動で外れたまま放置され、同弁が振動で閉弁して潤滑油の供給が絶たれたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関室を巡視する場合、船尾近くの船体振動の多いところに中間軸受潤滑油入口弁が設置されていたから、同弁が振動で自然に閉弁することのないよう、遠隔操作ハンドルを固定しているストッパの緩みを確かめるなど、同弁を十分点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、サイトグラスで潤滑油が流れていることを視認しているので大丈夫と思い、同弁を点検しなかった職務上の過失により、同弁が振動で閉弁して潤滑油の供給が絶たれたまま運転を続け、中間軸及び同軸受を損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |