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1999年(平成11年)

平成10年神審第91号
    件名
油送船公洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年7月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、西田克史、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:公洋丸前任機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:公洋丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
シリンダライナ異状摩耗、ピストンリング折損、クランクピン軸受メタルに表面剥離

    原因
シリンダ注油量の調整不適切、クランク室への吹抜けを認めた際の措置不適切

    主文
本件機関損傷は、主機のピストンリング新替え後のシリンダ注油量の調整が不適切であったことと、その後の運転においてクランク室への吹抜けを認めた際の措置が不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月11日18時00分
和歌山県和歌山下津港
2 船舶の要目
船種船名 油送船公洋丸
総トン数 1,584.60トン
全長 86.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,765キロワット
回転数 毎分240
3 事実の経過
公洋丸は、昭和56年12月に進水した鋼製油送船で、主機として、株式会社赤阪鉄工所が同年に製造したシリンダ内径370ミリメートル、行程720ミリメートルのA37型ディーゼル機関を装備し、同機の各シリンダには船首側から順番号が付され、推進器として可変ピッチプロペラを備えていた。
また、主機は、船首側の動力取出軸に増速機及びクラッチを介し、出力150キロボルトアンペアの軸駆動発電機1台のほか、荷油ポンプ2台などを連結しており、燃料油には通常C重油が、出入港時及び荷役中にはA重油がそれぞれ使用されていた。
主機の潤滑油系統は、ドライサンプ式のシステム油、シリンダ注油及び動弁注油のそれぞれ独立した3系統があり、システム油は、主機直結の潤滑油ポンプによりサンプタンクから1次こし器を経て吸引された潤滑油が、2次こし器及び油冷却器を通って主機各部へ注油されており、サンプタンク内の同油は、潤滑油清浄機により側流清浄が行われていた。
一方、シリンダ注油は、各シリンダライナに4個の注油金具が装着され、同金具にシリンダ油を送り込むシリンダ注油器(以下「注油器」という。)が2シリンダごとに1台合計3台設置されており、各注油器には各注油金具と接続する8個のポンプエレメント(以下「エレメント」という。)が納められ、シリンダ油計量タンクから重力で各注油器に送られたシリンダ油が、プッシュロッド連動のリンク機構を介して駆動するエレメントによって強制注油されるようになっていた。
また、シリンダ注油量(以下「注油量」という。)の調整は、注油器エレメントの吐出量を増減して行い、同器付属の増減ハンドルで全数のエレメントの吐出量を一括して調整するようになっているほか、各エレメントごとに設けられた調整ねじで微調整ができるようにもなっており、増減ハンドルは5段階、調整ねじは7段階にそれぞれ設定目盛が設けられていた。
公洋丸は、他の船舶運航会社に用船されてガソリン及び軽油の輸送に従事しているもので、主機の年間運転時間が7,500時間に達することを考慮し、毎年の入渠工事において主機のピストンリングを全数取り替えることにしており、平成9年6月2日から9日までの間、岡山県に所在する造船所において合入渠工事を行い、主機の全気筒ピストン抜きのうえ点検整備を実施し、全数のピストンリングほか2番シリンダライナが新替えされた。
A受審人は、同年3月本船に乗り組み、本船の入渠工事に機関長として初めて臨むこととなり、入渠期間中は1人で機関部関係の工事に立ち会った。
ところで、主機のピストンリングあるいはシリンダライナを新替えした際には、摺動面が完全になじみ合った状態となるまで注油量を多くし、なじみの状況を見ながら段階的に同量を調整していくのが一般的であり、主機メーカーでは、すり合わせ運転の目安を200時間とし、その間の1時間1キロワット当たりの注油量を、通常時の40ないし60パーセント増しとするよう主機取扱説明書に記載するとともに、注油器の増減ハンドル及び調整ねじの各目盛と注油量との関係も示して取扱者に注意を促していた。
A受審人は、出渠後に注油量を調整した際、注油量を少し増量しておけばよいと思い、シリンダ油計量タンクの計測値と航走時間とで算出した1時間当たりの注油量(以下「算出注油量」という。)が通常時の約20パーセント増しとなるよう、増減ハンドルの目盛は従来の3のままとし、調整ねじの目盛を、シリンダライナを新替えした2番シリンダについては1目盛、他のシリンダは4分の1目盛をそれぞれ増量方向に変更したのみであったことから、すり合わせ運転に必要な注油量にはかなり不足していたが、このことに気付かなかった。
その後、公洋丸は、配乗の都合で係船されたのち、同年6月27日に海上試運転を終え、翌々29日から岡山県水島港と大阪港間の往復航海に従事し、主機を回転数毎分約214、プロペラ翼角を14.5度にかけ、軸駆動発電機を常用機として運転中、注油量が不足したピストンリングとシリンダライナとの摺動面が金属接触を始め、肌荒れが生じるようになった。
翌7月1日A受審人は、水島港に帰着後、主機クランク室内の点検を行ったところ、いくつかのシリンダライナにかき傷が発生していることを認めたため、これまでの算出注油量が1.75リットルであったものを、注油器の増減ハンドルの目盛を2に、調整ねじの目盛を全シリンダとも最大として2.90リットルに増量し、状態の好転を期待して運航を続けたが、シリンダライナにかき傷を生じたこともあり、摺動面になじみが形成されないまま、算出注油量を段階的に減量し、8月末には2.20リットルとした。
一方、B受審人は、同年9月7日水島港において、休暇下船するA受審人の後任機関長として乗船し、主機シリンダライナにかき傷が発生したため、注油量を通常より多くしている旨の引継ぎを受けた。
B受審人は、注油量をそのままとし、通常毎月1回としていた主機クランク室点検を2回としたほか、1週間ごとにシステム油2次こし器を開放点検して運転を続けるうち、やがてクランク室への吹抜けが発生する状況となったが、同こし器で捕捉されるシステム油中の金属粉やカーボン粒子がいずれも少量なので、運転には差し支えないものと思い、早期にシリンダライナを修理するなど適切な措置をとることなく、運航を続けた。
やがて、主機は、シリンダライナの異状摩耗が進行して吹抜けが激しくなるとともに、システム油の汚損が進んでクランクピン軸受に異物を噛み込み、同軸受メタルが剥離し始めた。
こうして、公洋丸は、B受審人ほか9人が乗り組み、ガソリン及び軽油積み取りの目的をもって、同年12月11日神戸港を発して和歌山県和歌山下津港に至り、投錨して沖待ち中、同日18時00分ツブネ鼻灯台から真方位276度1,580メートルの地点において、主機のシステム油2次こし器を開放点検した際、多量の金属粉とカーボン粒子とが捕捉されたため、シリンダライナを点検した結果、1、3、5及び6番シリンダで異状摩耗が発見された。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
公洋丸は、年末の繁忙期でもあったことから、部品調達までの間、主機を低負荷として運航を続けたのち、主機の開放検査が行われた結果、前示損傷のほか、ピストンリングの折損、1、4、5及び6番のクランクピン軸受メタルに表面剥離が生じていることなど判明し、のち損傷したシリンダライナ、クランクピン軸受メタル及び全数のピストンリングを新替えのうえ修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機のピストンリングを全数新替え後のすり合わせ運転における注油量の調整が不適切で、注油量不足でシリンダライナにかき傷を生じたことと、その後の運転において、クランク室への吹抜けを認めた際の措置が不適切で、シリンダライナの異状摩耗が進行してシステム油が汚損するまま運転が続けられたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機開放整備で全数のピストンリングを新替えした場合、すり合わせ運転中の注油量が主機取扱説明書に記載された所定量となるよう、注油量の調整を適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、注油量を少し増量しておけばよいと思い、各シリンダの注油量の調整を適切に行わなかった職務上の過失により、注油量が不足していることに気付かないまますり合わせ運転を続け、シリンダライナに潤滑阻害を招き、同ライナにかき傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、すり合わせ運転が良好に行われず、シリンダライナにかき傷を生じた主機の運転管理を引き継ぎ、その後の運転においてクランク室への吹抜けを認めた場合、システム油の汚損が進み、主機各部が潤滑阻害を起こして損傷を拡大させることのないよう、早期にシリンダライナを修理するなど適切な措置をとるべき注意義務があった。ところが同人は、2次こし器で捕捉されるシステム油中の金属粉やカーボン粒子がいずれも少量なので、運転に差し支えないものと思い、早期に同ライナを修理するなど適切な措置をとらなかった職務上の過失により、同ライナの異常摩擦を進行させるとともに、システム油が汚損して潤滑阻害を招き、クランクピン軸受を損傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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