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1999年(平成11年)

平成10年神審第123号
    件名
油送船第三浅川丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年5月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第三浅川丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
クラッチボルト折損、歯車機構一式、後進クラッチのプレート類など損傷

    原因
主機逆転機の開放整備における指示不十分

    主文
本件機関損傷は、主機逆転機の開放整備において、クラッチボルト新替えの指示が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月19日16時10分
明石海峡東方
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三浅川丸
総トン数 499トン
登録長 60.24メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分340
3 事実の経過
第三浅川丸は、平成2年6月に進水した、舶用燃料油の輸送に従事する鋼製油送船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が同年に製造したLH28G型ディーゼル機関を備え、逆転機を介してプロペラ軸と連結しており、操舵室の遠隔操縦装置により、主機の増減速及び逆転機の前後進操作が行われていた。
逆転機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMN830型と称する湿式油圧多板式クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵したもので、前進及び後進の各クラッチ1個を備え、前進クラッチで入力軸と出力軸とを直接接合させるか、後進クラッチによって小歯車支持体を固定させ、同支持体に十字状に配列された4個の小歯車を介し、出力軸直結の被駆動かさ歯車の回転方向を入力軸直結の駆動かさ歯車のそれと逆にさせるかして、プロペラ軸の回転方向を変える仕組みとなっていた。
後進クラッチは、外筒を形成するクラッチリング、内筒に相当する小歯車支持体のクラッチハプ部分及び外筒のエンドカバーとなるバックプレートから構成されており、その円環状の空間内に、いずれも中空円板状のシンタープレート6枚とスチールプレート5枚が、それぞれクラッチリングとクラッチハブにスプライン方式で交互にはめ込まれていて、クラッチピストンがこれらプレートを押し付けることによって摩擦力を発生させ、クラッチリングとクラッチハブとを連結する構造となっていた。
また、後進クラッチのバックプレートは、中空の円板状をしており、全長50ミリメートル(以下「ミリ」という。)、ねじ部長さ40ミリ、ねじの呼び径16ミリのステンレス鋼製で、同プレートの外周寄りに等間隔でトルク締付け管理された8本のクラッチボルトによって、逆転機のケーシングに固定されているクラッチリングヘ取り付けられていた。
逆転機の潤骨油系統は、入力軸直結の潤滑油ポンプにより、ケーシング底部の油だめ(油量約75リットル)から一次こし器を経て吸引された潤骨油が、24キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧されたのち、前後進切換え弁を経て前進又は後進各クラッチのクラッチピストンに至る作動油経路と、3.5キロに調圧されで油冷却器及びオートクリーナ式の二次こし器とを経てクラッチ内部、歯車、軸受などに給油される潤滑経路の2系統に分岐し、いずれの経路も再び油だめに戻るようになっており、潤滑経路の油圧が2キロ以下に低下すると、操舵室及び機関室で警報を発するようになっていた。
A受審人は、平成4年5月機関長として本船に乗り組み、機関の運営管理に当たっており、逆転機については、一次こし器を半年ごとに開放掃除し、二次こし器は毎日の手回し掃除と1箇月ごとの開放掃除とを行い、1年ごとに潤滑油を交換していた。また、同人は、中間検査工事及び合入渠工事の際には逆転機の上蓋を外して内部の目視点検を行い、さらに定期検査ごとに陸揚げのうえ整備するようにしており、同6年4月に実施する定期検査工事において、同機の開放整備を整備業者に行わせることとし、自らその工事仕様書を作成した。
ところで、逆転機は、後進クラッチのピストンが作動する都度、バックプレートの内周部に同ピストンの推力を受けるため、これを支えるために外周部に取り付けているクラッチボルトには、引っ張り応力のほか、曲げ応力も繰り返し発生することとなり、同ボルトに材料疲労を生じるおそれがあった。このため、メーカーでは、逆転機取扱説明書に同ボルトを4年ごとに新替えするよう記載して、取扱者に注意を促していた。
しかしながら、A受審人は、逆転機の開放整備を行うよう工事仕様書に記載していたものの、整備業者に任せておけば大丈夫と思い、所定の新替え周期を遵守し、全数のクラッチボルトを新替えするよう同業者に指示していなかったため、同ボルトが継続使用されたことに気付かないまま同工事を終えた。
逆転機は、その後の運転において、クラッチボルトに繰り返し曲げ応力が作用して材料疲労が進行し、いつしか同ボルト3本がバックプレートとクラッチリングとの合わせ面のところで折れ、抜け出した同ボルト片が駆動かさ歯車と小歯車の間にかみ込み、小歯車の歯面が欠損して異状摩耗を起こし、潤滑油中に金属粉が混入する状況になった。
こうして、本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、平成10年3月19日13時00分兵庫県相生港を発し、大阪港堺泉北区に向け、主機を回転数毎分330にかけて航行中、逆転機の潤滑油中に混入した金属粉がこし器を目詰まりさせ、クラッチ作動油系統と潤滑系統の油圧がいずれも低下し、明石海峡を航過した同日16時10分平磯灯標から真方位163度1,900メートルの地点において、前進クラッチがすべり気味となって逆転機全体か発熱するとともに、潤滑油圧力低下警報を発した。
当時、天候は曇で風力3南風が吹き、海上には小波が立っていた。
船尾甲板で一休みしていたA受審人は、機関室で鳴っている警報ベル音を聞き、同室に急行したところ、逆転機の油圧力が低下し、油温が上昇しているのを認めたので、雑用ポンプを始動して油冷却器への冷却海水量を増やしたものの効なく、船長に逆転機の継続使用が不可能な旨を報告した。
その結果、本船は、減速したうえ安全な海域に達するまで航行を続けて16時40分に投錨し、その後来援した引船により神戸港に引きつけられ、逆転機は、メーカーの工場に陸揚げされ、前示損傷のほか、シンタープレート及びスチールプレートにも変形を生じていることが判明し、のち歯車機構一式、後進クラッチのプレート類などの損傷部品のほか、全数のクラッチボルトを新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機逆転機の開放整備において、クラッチボルト新替えの指示が不十分で、使用限度を超えた同ボルトが継続使用され、材料疲労が進行して折損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機逆転機の保守管理に当たって、同機の開放整備を整備業者に行わせる場合、クラッチボルトには繰り返し曲げ応力が作用するから、長期間使用して材料疲労を進行させることのないよう、取扱説明書に記載された所定の新替え周期を遵守し、同業者に対して同ボルトを新替えするよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、整備業者に任せておけば大丈夫と思い、クラッチボルトを新替えするよう指示しなかった職務上の過失により、使用限度を超えた同ボルトが継続使用され、材料疲労が進行して折損し、逆転機のクラッチ及び歯車機構に異状摩耗を生じさせ、後進クラッチのプレート類を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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