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1999年(平成11年)

平成10年横審第36号
    件名
漁船第五十一やまさん丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年4月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、猪俣貞稔、勝又三郎
    理事官
花原敏朗

    受審人
A 職名:第五十一やまさん丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主軸受焼損、クランクピン軸受メタル、直結潤滑油ポンプ、クランク軸、台板など損傷

    原因
主機主軸受の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機主軸受の点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年8月7日19時25分
北太平洋
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一やまさん丸
総トン数 135トン
登録長 34.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分560
3 事実の経過
第五十一やまさん丸(以下「やまさん丸」という。)は、昭和60年9月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製網船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したZ280-ET2型ディーゼル機関を据え付け、各シリンダを船首側から順番号で呼称し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、定格出力1,471キロワット及び同回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設したものであるが、就航後に同制限装置が取り外され、航海全速力の回転数を720とし、使用燃料をA重油として年間約4,000時間運転されていた。
主機の主軸受及びクランクピン軸受は、ケルメットにオーバーレイが施された薄肉完成メタルが組み込まれたもので、オーバーレイが消滅するとケルメットにはなじみ性や異物の埋没性がないので、異物が混入してケルメットや軸を傷付けるおそれがあり、主機取扱説明書には整備基準として、運転時間8,000ないし10,000時間、または2年ごとに点検し、オーバーレイがしゅう動面の約30パーセント以上消滅したときは同メタルを交換すること、潤滑油は連転時間約2,000時間で交換することなどが記載されていた。
やまさん丸は、毎年3月ごろ入渠し、主機の整備及び潤滑油総量約3,300リットルの交換をしていたが、潤滑油が交換基準時間より長く使用され、交換時に管系統内部の掃除が十分に行われておらず、交換後潤滑油の汚損劣化が早期に始まる状況となっていた。
A受審人は、平成6年1月機関長として乗り組み、同年3月合入渠時に主機クランク室及びサンプタンク内の潤滑油合計約2,100リットルを交換し、主機を開放整備した際、全シリンダのクランクピン軸受メタルが、しゅう動面の約30パーセント以上オーバーレイが消滅し、ケルメットが露出していたので全数交換したが、主軸受については、前年3月定期検査時に開放整備されているものと思い、点検することなく、クランクピン軸受メタルと同様にオーバーレイが消滅し、ケルメットが露出していることに気付かなかった。
やまさん丸は、主軸受メタルのオーバーレイが消滅していたところ、同6年7月ごろには主機潤滑油の前回交換後の運転時間が1,700時間を超え、同油の汚損劣化が進行したことも相まって、主軸受が発熱するようになった。
こうして、やまさん丸は、A受審人ほか20人が乗り組み、同7月29日17時45分石巻港を発し、三陸沖合の漁場に至ってまぐろ漁を始め、越えて8月7日未明から主機回転数を平均約640として魚群探索中、4番主軸受メタルカが焼損し、同日19時25分北偉38度東経151度の地点において、A受審人が潤滑油こし器を切り替えて掃除中、糸状のケルメット片を認め、主機を停止した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上にはやや波があった。
A受審人は、クランク室を開放したものの主軸受を点検せず、主軸受の焼損に気付かないまま主機を再始動し、操業を続けた。
やまさん丸は、同月11日早朝操業を終えて通常運転にて航海し、同日23時30分石巻港に入港したところ、主機の損傷がクランクピン軸受メタル、直結潤滑油ポンプ、クランク軸、台板などに拡大しているのが認められ、のち各損傷部がいずれも新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機主軸受の点検が不十分で、主軸受メタルのオーバーレイが消滅したまま運転が続けられ、潤滑油の汚損劣化が進行したことも相まって、主軸受が発熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機定期整備においてクランクピン軸受メタルのオーバーレイが取扱説明書の整備基準以上に消滅していることを認めて同メタルを交換した場合、主軸受メタルも同様の状態となっているおそれがあったから主軸受を点検すべき注意義務があった。ところが同人は、主軸受については前年の定期検診時に開放整備されているものと思い、主軸受を点検しなかった職務上の過失により、主軸受メタルのオーバーレイが消滅していることに気付かないまま運転を続け、主軸受メタルを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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