日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年仙審第40号
    件名
旅客船レスポワール機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、供田仁男、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:レスポワール機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
全シリンダライナにかき傷

    原因
主機の潤滑油性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月4日17時20分
宮城県女川湾
2 船舶の要目
船種船名 旅客船レスポワール
総トン数 82トン
全長 25.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分1,850
3 事実の経過
レスポワールは、昭和62年5月に進水した最大搭載人員154人軽合金製旅客船で、昭和精機工業株式会牡が製造した連続最大出力735.5キロワットの12LAAK-UT1型ディーゼル機関を主機とする2基2軸の推進装置を有し、翌6月に宮城県女川港と離島との定期航路等に就航した。
主機は、右舷機及び左舷機とそれぞれ呼称されており、各シリンダを6個ずつV形の左右列に配置し、各主軸受には船首側を1番として7番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、標準油量が145リットルで、クランク室下部の油受から直結式潤滑油ポンプに吸引された油が、油こし器、油冷却器及び調圧弁を経て潤滑油主管に至り、同管からいずれも三層メタルを装着の主軸受及びクランクピン軸受に至る系統と、カム軸受、ピストン噴油ノズル、中間歯車装置並びに動弁装置等の各系統に分岐し、各部の潤滑あるいは冷却を行ったのち油だめに戻っており、油清浄装置として遠心式濾(ろ)過器が設けられていた。そして、油こし器は、各シリンダ列ごとに中空円筒形の紙製フィルタエレメント(以下「フィルタエレメント」という。)を内蔵した二連式フィルタケースやバイパス弁が装備されていて、フィルタエレメントの目詰まりにより入口側と出口側との圧力差が1.5キログラム毎平方センチメートル以上に増加すると同弁が開いて油の途絶を防止する構造になっていた。
A受審人は、昭和62年6月に一括公認船舶の機関長として雇入れされ、R株式会社が運航する各旅客船の交替制の勤務に就き、平成元年7月からレスポワールに専ら乗船し、燃料油にA重油を使って主機を年間当たり1,700ないし1,800時間運転していた。
ところで、主機の潤滑油は、長時間使用されているうちにカーボン粒子及びスラッジ等の燃焼生成物が混入して汚れるとともに高温にさらされて性状の劣化が進行するので、定期整備の標準として250時間の運転を経過するごとに油を、500時間ごとにフィルタエレメントを取り替えることが取扱説明書で指示されていたものの、運航の都合により油の取替え間隔の延長が図られていて、昭和63年12月から左舷機に、平成元年12月から右舷機に潤滑油添加剤が混合されたのち、毎年末に行われる定期整備の都度1年間隔で油及びフィルタエレメントが取り替えられるようになったが、汚れ及び性状の劣化の状態を検討して油及びフィルタエレメントの取替え間隔を短縮する必要があり、1,000時間経過時にスポットテストと称する簡易な性状分析方法を船内で実施のうえ汚れの程度に応じて業者による性状分析の措置をとることが同添加剤メーカーから推奨されていた。
しかし、A受審人は、主機の潤滑油の管理にあたり、始業点検時に前日の運転による消費分に見合う油量と潤滑油添加剤とを補給していたところ、同9年8月下旬には右舷機の油が取り替えられたのち約1,000時間を経過してその汚れ及び性状の劣化が燃焼状態等の影響で左舷機の油よりも進行する状況となったが、潤滑油圧力等の変化がなかったことから、同添加剤を混合した油及びフィルタエレメントの1年ごとの取替え間隔で差し支えないものと思い、スポットテストを実施のうえ油及びフィルタエレメントを取り替えるなどして油の性状管理を十分に行わなかったので、フィルタエレメントの目詰まりによりバイパス弁が開弁し、カーボン粒子及びスラッジ等を多量に混入した油がその系統内を循環して各軸受の潤滑を阻害するまま右舷機の運転を繰り返した。
こうして、レスポワールは、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客16人を乗せ、平成9年10月4日17時10分宮城県江の島漁港を発し、女川港に向けて25.0ノットの対地速力で航行した。やがて、右舷機は、回転数毎分1,750の全速力にかけて運転中、潤滑油の著しい汚損劣化によりオーバーレイの磨滅した3番主軸受が潤滑不良となって焼損し、クランクピン軸受等が焼き付き、17時20分陸前江島灯台から真方位300度2.7海里の地点において、異音を発して回転数が低下した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、海上にはうねりがあった。
A受審人は、操舵室で異音に気付いて機関室に急行するうちに右舷機が停止し、同機が過熱しているのを認めて損傷状態等が分からないまま、その旨を船長に報告した。
レスポワールは、左舷機を運転して女川港に到着したのち、右舷機を精査した結果、全シリンダライナにかき傷を生じていることが判明し、各損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機の潤滑油の性状管理が不十分で、同油が著しく汚損劣化したまま運転が続けられ、主軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の潤滑油の管理にあたる場合、運転を続けるうち油の汚れ及び性状の劣化が進行して各軸受の潤滑を阻害するおそれがあったから、スポットテストを実施のうえ油及びフィルタエレメントを取り替えるなどして油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油圧力等の変化がなかったことから、潤滑油添加剤を混合した潤滑油及びフィルタエレメントの1年ごとの取替え間隔で差し支えないものと思い、油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、右舷機の油が著しく汚損劣化したまま運転を続けて主軸受の潤滑不良を招き、主軸受、クランクピン軸受及びシリンダライナ等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION