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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月3日03時55分 清水港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第百一号大盛丸 総トン数 5,112.88トン 全長 127.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 5,884キロワット 3 事実の経過 第百一号大盛丸(以下「大盛丸」という。)は、昭和54年2月に進水した鋼製の冷凍運搬船で、専ら遠洋まぐろ漁船からまぐろを受け取って静岡県清水港に運搬する国際航海に従事しており、機関室に冷凍機6台、容量1,100キロボルトアンペアの発電機3台などを装備していた。 発電機の原動機(以下「補機」という。)は、ダイハツディーゼル株式会社が製造した6DS-26型と称する計画出力956キロワット、同回転数毎分720の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、右舷側から1号、2号及び3号と呼び、潤滑油としてアルカリ価23の清浄分散能力の高いものが使用されていた。 補機の潤滑油系統は、各補機ごとのサンプタンクに入れられた約1,300リットルの潤滑油が32メッシュの吸入こし器を経て直結潤滑油ポンプにより吸引、加圧され、200メッシュの金網式こし器(以下「2次こし器」という。)及び潤滑油冷却器を通ったあと圧力調整弁に至り、同弁でピストン冷却系統と軸受潤滑系統とに分岐していた。ピストン冷却系統は、約2.8キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の圧力で各シリンダごとのテレスコ管からピストンに供給されたのちクランクケース内に落ち、さらに補機直下のサンプタンクに戻り、一方、軸受潤滑系統は、200メッシュ相当のノッチワイヤ式こし器(以下「3次こし器」という。)を経て約3.2キロの圧力で入口主管に至り、主軸受ほか全軸受に供給されたのち、同様にサンプタンクに戻るようになっていた。ピストン冷却系統には油圧低下警報用圧力スイッチが設けられ、同系統の圧力が1.0キロに低下すると機関制御室及び機関室で警報を発し、軸受潤滑系統には3次こし器出口側に危急検出器が設けられ、同部の圧力が1.2キロに低下すると燃料遮断装置が作動して補機が危急停止するようになっていた。 大盛丸は、電力負荷が500キロワットを超えると発電機2台の並列運転とする取扱いとしており、各補機は低負荷で運転されることが多く、排気が黒ずむなど燃焼状態が不良で、潤滑油が汚損しやすい状況のもとで使用され、機関当直者は軸受潤滑系統の潤滑油圧力が通常値よりも0.2ないし0.3キロ低下したのを認めると、3次こし器の逆流洗浄を施行していた。 B受審人は、平成8年3月三等機関士として乗り組み、停泊中単独で機関当直につくことがあった。 A受審人は、同年9月機関長として乗り組んで機関部の管理に当たリ、翌10月定期検査時各補機の燃料遮断装置の作動試験を行い、潤滑油圧力低下で正常に作動することを確認した。 補機の潤滑油についてA受審人は、消費分として10日ごとに新油を約100リットル補給するほか、運転時間が500ないし600時間を目安に、サンプタンクからセットリングタンクに移送し、潤滑油遠心清浄機による循環清浄を約1週間行うという要領で性状管理を行っていた。しかし、このような管理をしていてもクランクケース内部の点検では各所にスラッジが堆(たい)積し、また、新油を補給した2ないし3日後には新油によって清浄分散されたスラッジが2次及び3次各こし器に補足されて目詰まりによる圧力低下が生じることを認めていたものの、適宜循環清浄及び新油補給を行っているので大丈夫と思い、運転中循環清浄を行わず、また、潤滑油配管系統内部やクランクケース内部を洗浄せず、性状管理が十分に行き届いていなかった。 大盛丸は、A及びB両受審人ほか23人が乗り組み、翌9年2月初旬まぐろ約1,700トンを積んで清水港に入港し、同月末から少しずつ揚荷を始め、翌3月2日の揚荷終了後、電力負荷400ないし500キロワットの状態で、補機を1号の単独運転とした。 1号補機は、入港後新油が約100リットル補給されていたところ、同日には3次こし器が目詰まりし始め、機関当直者が適宜逆流洗浄を行う状況となった。また、このころ燃料遮断装置の内部において、しゅう動部に生じていた錆(さび)が進行し、運転中固着状態となって同装置が作動不能となったが、外観からは同装置が正常に作動するか否かを判別することはできなかった。 B受審人は、翌3日00時からの機関室停泊当直に備えて機関室を点検し、前直者から3次こし器の逆流洗浄を行ったことなどの引き継ぎを受けたのち、機関室を離れて備品倉庫にて在庫調査を行い、02時に機関室を点検した際、運転中の1号補機の潤滑油圧力を一見したのみで大丈夫と思い、圧力変化に十分注意せず、同圧力が低下傾向にあったがこのことに気付かず、その後引き続き在庫調査を続け、同圧力の監視を行わなかった。 こうして大盛丸は、1号補機の2次及び3次各こし器の目詰まりが進行するまま運転が続けられ、3次こし器出口側の圧力が1.2キロに低下したが燃料遮断装置が作動せず、さらに同圧力が低下して各部の潤滑が阻害され、同日03時55分清水港興津防波堤灯台から真方位280度350メートルの地点において、ピストン冷却系統の圧力が1.0キロに低下して警報を発するとともに同機3番シリンダの連接棒がクランクケースカバーを突き破って大音を発した。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。 B受審人は、警報に気付いて機関室に赴き、1号補機の損傷を認めて2号補機を始動した。 大盛丸は、同港にて損傷した1号補機の台板、クランク軸、全主軸受及びクランクピンメタル、3番シリンダの連接棒、シリンダライナ、ピストンなどが新替え修理された。
(原因) 本件機関損傷は、補機潤滑油の性状管理及び圧力監視がいずれも不十分で、潤滑油こし器が目詰まりしたまま運転が続けられ、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機を低負荷で運転し、排気が黒ずむなど燃焼状態が不良で、汚損しやすい状況にある同機の潤滑油の性状管理に当たる場合、クランクケース内部の点検で名所にスラッジが堆積し、新油補給後には清浄分散されたスラッジが潤滑油こし器に補足されて目詰まりによる圧力低下が生じることを認めていたのであるから、運転中も循環清浄するなり、潤滑油配管系統内部やクランクケース内部を洗浄したのち新油と取り替えるなり、性状管理を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、適宜循環清浄及び新油補給を行っているので大丈夫と思い、性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、補機の台板、クランク軸、全主軸受及びクランクピンメタルなどを損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、単独で停泊機関当直につき、機関室を離れて備品の在庫調査を行う場合、前直者から運転中の補機潤滑油こし器の逆流洗浄を行ったことの引き継ぎを受けていたのであるから、入直時及び定時に行った機関室点検のとき、補機潤滑油圧力の低下傾向を見落とすことのないよう、同圧力の監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同圧力を一見したのみで大丈夫と思い、同圧力の監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同圧力の低下傾向に気付かず、同圧力が低下するまま運転を続け、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |