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1999年(平成11年)

平成10年横審第93号
    件名
漁船第十二観音丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、河本和夫、西村敏和
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第十二観音丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
潤滑油バイパスこし器の出口管の溶接部に亀裂、主機の全シリンダのピストンとシリンダライナ並びに4番及び6番の連接棒小端部が焼き付き、燃料カム及びローラに損傷

    原因
主機の潤滑油バイパスこし器に振れ止めの措置がとられなかった

    主文
本件機関損傷は、主機の潤滑油バイパスこし器に振れ止めの措置がとられなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月21日00時30分
鹿島灘
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十二観音丸
総トン数 36トン
全長 27.55メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 566キロワット
回転数 毎分880
3 事実の経過
第十二観音丸(以下「観音丸」という。)は、平成元年12月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する軽合金製漁船で、同5年8月に主機がヤンマーディーゼル株式会社製造のM200-ST2型と称するディーゼル機関に換装された。
主機は、台板を潤骨油だめとするウェットサンプ方式で、台板に標準量約200リットルの潤滑油がためられ、潤滑油中の異物を沈殿させるために内容量が約600リットルの補助タンクを別に備えていた。
潤滑油系統は、台板の潤滑油が主機直結の潤滑油ポンプで吸引され、4ないし4.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力は「キロ」で示す。)に加圧されて金網式こし器と冷却器を経て潤滑油主管とピストン冷却管に送られ、同主管から軸受各部に入り、一方ピストン冷却管から各ピストン冷却ノズルを経てピストン下部に噴射され、それぞれ潤滑又は冷却ののち再び台板に戻るもので、同ポンプ出口から一部の涯滑油が分岐して補助タンクに送られ、同タンクの液面からオーバーフローして再び台板に戻るようになっており、主機換装時に新たに同ポンプ出口から分岐してバイパスこし器に入る清浄配管が付け加えられた。
ピストン冷却管は、2.7キロ以下で閉止するカットオフ弁を備え、潤滑油圧力の低い時には各ピストン冷却ノズルに通油しないようになっていた。
バイパスこし器は、圧力のある潤滑油をノズルから噴出させてカップ形のロータを高速回転させ、ロータに入った潤滑油中の密度の大きい不純物を遠心力でロータ内面に堆積させるもので、鋳物製の本体とカバーに収められ、本体下部がフランジ構造の出口になっており、洗浄された潤滑油が主機の右舷側で補助タンクからのオーバーフロー配管に合流していた。
ところで、バイパスこし器は、呼び径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)、長さ200ミリの出口管の上に取り付けられ、同管が補助タンクからのオーバーフロー配管に合流するようフランジに接続されていたが、本体に振れ止めがなかったので、運転中の主機から伝わる微振動で振れ、出口管中央部の切り接ぎされた溶接部分に繰返し応力を生じさせ、亀裂(きれつ)を生じるおそれがあった。
A受審人は、観音丸の建造時から機関長として運転管理に携わり、主機換装に際して鉄工所と相談してバイパスこし器の設置場所を決め、運転を開始した後、潤骨油バイパスこし器の取付け状況に不安を感じたものの特に対策を行わず、平成8年に同こし器の潤滑油入口配管のねじ部が微振動による摩耗で漏えいを生じ、同部を取り替えたが、出口管についてはそれまで異状がなかったので大丈夫と思い、バイパスこし器の振れ止めの措置をとることなく、運転を続けた。
観音丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、平成9年2月20日07時30分、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、福島県小名港を発し、鹿島灘の漁場に至って操業を行っているうち、主機潤滑油バイパスこし器の出口管にいつしか生じていた亀裂が進展して潤骨油が漏れ、主機台板の潤滑油量が減少し始めた。
こうして、観音丸は、同日22時30分操業を終えて帰途に就き、主機を回転数毎分850の全速力にかけて小名浜港に向かって航行中、潤滑油ポンプがエアを吸って潤骨油圧力が低下し、ピストン冷却油のカットオフ弁が閉弁してピストン冷却油が途絶えたが、同圧力が2キロの警報設定値まで低下しなかったので警報が発せられないまま運転が続けられ、ピストンが過熱してシリンダライナと焼き付き、翌21日00時30分川尻灯台から真方位112度16.0海里の地点で、回転数が減少して運転音が変わったのでA受審人が操縦ハンドルを下げたところ、主機が自停した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は隠やかであった。
A受審人は、機関室に入って主機台板の検油棒を調べたが潤滑油量が検出できず、またクランク室のふたを開いてシリンダライナの過熱を認め、更に主機のターニングができなかったので、運転不能と判断し、船長に報告した。
観音丸は、同航していた僚船にえし航されて小名浜港に帰港し、精査の結果、潤滑油バイパスこし器の出口管の溶接部に3分の1周にわたって亀裂を生じており、主機の全シリンダのピストンとシリンダライナ並びに4番及び6番の連接棒小端部が焼き付き、燃料カム及びローラに損傷を生じているのが判明し、のち損傷部が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の潤滑油バイパスこし器に振れ止めの措置がとられず、同こし器が主機から伝わる微振動で振れて下部の出口管溶接部に亀裂を生じ、全速力で運転中、亀裂部から潤滑油が漏えいし、台板の潤滑油が減少してピストン冷却油が途絶したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理当たり、潤滑油バイパスこし器の入口管に主機の微振動で漏えいが生じて修理をした場合、同こし器の取付け状況に不安を感じていたのであるから、下部の出口管の切り接ぎ部に亀裂を生じないよう、バイパスこし器に振れ止めの措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、出口管にはそれまで問題が生じなかったので大丈夫と思い、同こし器に振れ止めの措置をとらなかった職務上の過失により、出口管溶接部に亀裂を生じて潤滑油が漏えいする事態を招き、主機が全速力で運転中、台板の潤滑油が減少して潤滑油ポンプの吐出圧力が低下し、ピストン冷却油が途絶してピストン及びシリンダライナを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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