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1999年(平成11年)

平成10年函審第41号
    件名
漁船第七十八操洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第七十八操洋丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダのクランクピン軸受焼付き、クランク軸、連接棒、ピストン及びシリンダライナなど損傷

    原因
潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月13日10時30分
北梅道宗谷岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八操洋丸
総トン数 124.38トン
全長 37.80メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第七十八操洋丸(以下「操洋丸」という。)は、昭和55年5月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製の漁船で、9月から翌年の6月までを操業期間とし、年間約3,000時間稼働していた。
主機は、ダイハツディーゼル株式会社が同55年に製造した6DSM-28FSL型と呼称するディーゼル機関で、シリンダには船首側から順番号を付し、軸系に逆転減速機を備え、操舵室から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
主機潤滑油の主系統は、容量2.0キロリットルのサンプタンク内に1.7キロリットル入れられた潤滑油が、主機直結の潤滑油ポンプ(以下潤滑油系統の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧され、こし器、冷却器を通り、圧力調整弁にて3.0キログラム毎平方センチメートルに調圧されたのち二方に分かれ、一方の軸受系統がこし器を経て同系統の主管に至り、分岐して主軸受を、次いでクランク軸の油穴を経てクランクピン軸受をそれぞれ潤滑し、他方のピストン冷却系統が同系統の主管に至り、分岐して各シリンダのテレスコピック形伸縮管から噴出してピストン内部を冷却したのちピストンピン軸受を潤滑し、そのあと両系統とも台板に落下してサンプタンクに戻るようになっていた。
主機のクランク軸は、ジャーナル及びピンの直径がそれぞれ245ミリメートル(以下「ミリ」という。)、220ミリの炭素鋼一体型鍛造品で、クランク軸の油穴として、ジャーナル及びピンにはその中心を通って軸心に垂直方向に貫通する直径12ミリの穴(以下「横穴」という。)1個がそれぞれあけられ、ジヤーナル及びピンの横穴の中心を連絡する斜めの油穴(以下「斜め穴」という。)が、アームの上部外縁から同径の12ミリにあけられ、主管から分岐して主軸受に入った潤滑油が、ジャーナルの横穴から斜め穴、ピンの横穴を通ってクランクピン軸受に流れるようになっていた。なお、クランクピンの中心からクランクアームの上部外縁にいたる斜め穴の部分は、潤滑油の通路としては不要な穴(以下「工作穴」という。)で、同上部外縁にはプラグがしてあった。
A受審人は、昭和61年8月に操洋丸に機関長として乗り組み、主機潤滑油の管理に当たっては、主機運転中、遠心分離機を運転して側流清浄するとともに、主機の運転時間にして24時間あたりの消費分約60リットル補給し、また、2年毎に行われる検査工事において、サンプタンク内の使用済み油をタンクローリにて吸い上げて新油を張り込み、乗組員がクランク室内をウエスなどで掃除していたが、同タンク内には仕切りがあり中に入っても掃除ができなかったこともあって、更油後の新油は、サンプタンク底などに残ったスラッジにより汚損劣化が早められる状態となっていた。
ところで、油中のスラッジ、炭化物などの不溶解分は、潤滑面の摩耗を増大させ、潤滑油の汚損劣化を促進するのみならず、油路を狭めて油量を減らしたり、油冷却器の能力を低下させたりすることから、取扱説明書で粘度や引火点などとともに制限値を超えたら潤滑油を新替えするよう記載されていた。しかるに、A受審人は、遠心分離機で側流清浄しているので汚損劣化していることはあるまいと思い、石油会社に性状分析試験を依頼したり、船内においてスポットテストをしたりするなどの潤滑油の性状管理を十分に行っていなかった。
このため主機は、潤滑油中の不溶解分が制限値を超過した状態で運転される期間が長くなり、クランク軸の油穴にはスラッジが付着するとともに、工作穴の内部においては潤滑油中の不溶解分がクランク軸の回転で生じる遠心力によって分離するため、プラグ側から次第に不溶解分が固く堆積し、いつしか、硬質カーボン状の堆積物がクランクピン中心の横穴付近まで達する状態となっていた。
こうして、操洋丸は、操業の目的で、A受審人ほか15人が乗り組み、平成9年9月13日02時00分北海道稚内港を発して宗谷岬南東方の漁場に向かい、06時00分同漁場に至って操業を開始し、いかなご約50トンを漁獲して10時00分操業終了後同港に向かい、主機を回転数毎分720、プロペラ翼角16.5度の全速力にかけて航行中、3番シリンダのクランク軸の工作穴に詰まっていた硬質カーボン状の堆積物が剥離(はくり)し、同堆積物が横穴を流れてクランクピン軸受にかみ込んで発熱し、10時30分浜鬼志別灯台から真方位056度5.4海里の地点において、同軸受が焼き付いて回転が低下した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上は隠やかであった。
A受審人は、甲板上の油圧機械を点検中、主機の回転音が重くなるのに気がついて機関室に急行し、計器盤の回転計及び油圧計の示度が下がっているのを認めて直ちに停止措置をとったところ、主機の停止とほぼ同時に焼き付いた軸受にクランク室内のミストが引火して爆発し、クランク室安全弁が噴いて機関室内に白煙が充満した。
A受審人は、排気送風機を運転して機関室内の煙を排出したのち、主機をターニングしたものの重いのでクランク室ドアを開放して内部点検したところ、3番シリンダのクランクピン軸受が過熱により焼き付いているのを認め、運転不能である旨を船長に報告した。
操洋丸は、僚船に救助を求め、来援した僚船に曳(えい)航されて稚内港に入港し、修理業者が開放点検した結果、前記損傷のほか、3番シリンダのピストン及びシリンダライナに焼損が認められ、のちクランク軸、3番シリンダの連接棒、ピストン及びシリンダライナなどを新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機の運転保守に当たり、潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油中の不溶解分がクランク軸の油穴用工作穴に硬質カーボン状の堆積物となって詰まり主機運転中に同堆積物が剥離してクランクピン軸受にかみ込んで発熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守に当たる場合、潤滑油中にスラッジなどの不溶解分が増加すると油路を狭めるなどの支障を生じるから、使用限度内にあるかどうか判断できるよう、石油会社に性状分析試験を依頼するなどして潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、遠心分離機にて側流清浄しているので汚損劣化していることはあるまいと思い、石油会社に性状分析試験を依頼するなどの潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、潤滑油中の不溶解分がクランク軸の油穴用工作穴に硬質カーボン状の堆積物となって詰まり、主機運転中、同堆積物が剥離してクランクピン軸受にかみ込んで焼損する事態を招き、クランク軸連接捧、ピストン、シリンダライナなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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