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1999年(平成11年)

平成10年仙審第50号
    件名
漁船第参拾正進丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第参拾正進丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
冷却海水ポンプ、中間歯車及び全主軸受メタル等損傷

    原因
主機直結冷却海水ポンプ用軸封装置の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機直結冷却海水ポンプ用軸封装置の点検が不十分で、漏洩した海水が軸受室に浸入し、玉軸受の潤滑が阻害されたまま主機の運転が繰り返されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月26日22時50分
新潟港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第参拾正進丸
総トン数 245トン
全長 51.75メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数毎分600
3 事実の経過
第参拾正進丸(以下「正進丸」という。)は、昭和61年7月に進水し、平成3年12月に現所有者が購入したまき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所(以下「新潟鉄工所」という。)が製造した6MG28BXF型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、連続最大出力1,471キロワット及び同回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設して新潟鉄工所から出荷され、計画出力860キロワット及び同回転数600として受検・登録したものであるが、就航後に同制限装置が取り外され、航海中の全速力前進の回転数を720までとして運転されていた。
主機の冷却海水系統は、船底の海水吸入弁からこし器を経て吸引された海水が、主機直結歯車駆動の冷却海水ポンプ(以下「冷却海水ポンプ」という。)で加圧され、空気冷却器、潤滑油冷却器及び清水冷却器などをそれぞれ冷却したのち、船外吐出弁から船外に排出されるようになっていた。冷却海水ポンプは、常用水面下に位置し、主機架構の船首右舷側下方に装着されていたが、主機右舷側の機関室プレートが同ポンプ下部とほぼ同じ高さにあり、漏水状況などを容易に点検することができるようになっていた。
また、主機の潤滑油系統は、主機下部のサンプタンクに入れられた潤滑油が、主機直結歯車駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、一次こし器、潤滑油冷却器及び二次こし器を順に経て入口主管に至り、同管から分岐して各主軸受へ給油されるほか船首側に設けられた調時歯車装置などにそれぞ給油され、各部を潤滑及び冷却したのち、いずれもクランク室からサンプタンクに戻って循環するようになっており、3.5ないし5.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の常用圧力が、2.0キロ以下に低下すると警報が鳴り、更に1.5キロ以下に低下すると主機が緊急停止するように保護装置が設けられていた。
ところで、冷却海水ポンプは、主機船首側のクランク軸歯車から第2中間歯車(以下「中間歯車」という。)を介して駆動される遠心式渦巻ポンプで、駆動軸が軸受室に内蔵した2個の玉軸受で支えられ、ポンプケーシングの軸封装置としてメカニカルシールが使用されており、同軸封装置の摺動面に異物を噛み込むなどして海水が漏曳したとき、漏れた海水がポンプケーシングと軸受室との間に設けられたドレン受け底部のドレン穴からビルジだまりに落ちるようになっていたが、海水が漏曳したまま運転を繰り返していると、軸受室に海水が浸入して内蔵している玉軸受の潤滑が阻害されるおそれがあった。
A受審人は、平成5年1月から機関長として乗り組み、毎年の入渠時に業者に依頼して冷却海水ポンプの開放・整備を行い、自らも機関室当直に就いて機関の運転管理にあたり、主機停止中も海水系統弁は開けたままにして、通常は4、5日毎に軸封装置からの漏水状況を点検しながら主機の運転を繰り返していた。
正進丸は、まき網漁業船団に所属する運搬船で、毎年3月ごろの漁の転換期に入渠して船体及び機関の整備が行われていた。平成9年2月に合入渠した際、主機シリンダヘッドの整備のほか冷却海水ポンプの整備や潤滑油こし器の掃除などを行い、工事完了後の海上試運転で、A受審人と整備業者によって同ポンプに漏水がないこと及び異音や振動がないことなどが確かめられて同年3月1日に出渠した。
A受審人は、出渠した2、3日後にも同ポンプを点検して軸封装置からの漏水がないことを確認したものの、その後は、同ポンプを開放・整備したばかりなのでしばらくは漏水することはあるまいと思い、同軸封装置からの漏水状況の点検を行っていなかった。
その後、正進丸は、同月6日から新潟港を基地とし、佐渡海峡周辺の漁場で1泊の夜間操業に従事していたところ、冷却海水ポンプの軸封装置が摺動面への微小な異物の噛み込みなどにより漏水し始め、同軸封装置から海水が漏曳したまま主機の運転が繰り返されていた。そのうち、漏洩した海水が軸受室に浸入して玉軸受の潤骨が阻害されるようになり、同ポンプ駆動軸が振れ始め、更に玉軸受及び軸封装置の損傷が進行し、駆動歯車及び中間歯車の歯面が摩耗して潤滑油中に摩耗粉が混入する状況となっていた。
こうして、正進丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、いわし漁の目的で、同月26日11時ごろ新潟港西区を発し、新潟沖から柏崎沖にかけての佐渡海峡周辺の漁場で、主機の回転数を適宜変えながら適水中、冷却海水ポンプ駆動軸の心振れが激しくなって軸封装置からの漏水量が増加し、漏洩した海水によってビルジだめが増量するとともに、漏曳した海水の一部が軸受室を経て潤滑油中に混入し始めた。
21時ごろA受審人は、機関室当直者からビルジ増量の報告を受け、2人で各部を点検したところ、配管には異状がないものの冷却海水ポンプ用軸封装置から海水が多量に漏洩しているのを発見し、その旨を船長に報告した。
21時30分正進丸は、修理のために主機を回転数600にかけて新潟港西区へ向かい、22時30分入港準備のためにA受審人が入直したのち主機の回転数を500に下げ、更に400に下げて航走中、冷却海水ポンプ駆動用歯車の摩耗粉によって潤滑油こし器が目詰りを生じ、潤滑油中に混入した海水の影響も加わって同油圧力が急激に低下するとともに、主軸受メタルが焼き付いて主機の回転が低下し、22時50分新潟港西区第2西防波堤灯台から真方位102度300メートルの地点において、潤滑油圧力低下警報が鳴ったのち緊急停止装置が作動して主機が自停した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、海上は隠やかであった。
A受審人は、錨泊して各部を点検したところ、潤滑油こし器を開放して多量の金属粉を発見し、更に冷却海水ポンプの軸封装置の漏水が増加していること及び同ポンプのドレン受けに鉄片が落下していることなどを認め、次いで行った主機のターニングが可能であったものの、主機を使用しないことが最善であると判断してその旨船長に報告した。
損傷の結果、正進丸は、来援した僚船によって新潟港西区の新潟鉄工所新潟造船工場の岸壁に引き付けられ、精査ののち、損傷した冷却海水ポンプ、中間歯車及び全主軸受メタル等を新替えする修理を行った。

(原因)
本件機関損傷は、冷却海水ポンプ用軸封装置からの漏水状況の点検が不十分で、漏洩した海水が軸受室に浸入して玉軸受の潤滑が阻害されたまま主機の運転が繰り返され、同ポンプ駆動軸が心振れするとともに駆動用歯車の歯面が摩耗し、潤滑油中に混入した摩耗粉により潤滑油こし器が目詰りするなどして同油圧力が急激に低下したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理にあたる場合、冷却海水ポンプ用軸封装置から漏洩した海水が軸受室に浸入して玉軸受の潤滑を阻害することのないよう、同軸封装置からの漏水状況を十分に点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ポンプを開放・整備したばかりなので、しばらくは同軸封装置から漏水することはあるまいと思い、漏水状況を十分に点検しなかった職務上の過失により、漏洩した海水が軸受室に浸入して玉軸受の潤滑阻害を招き、同ポンプ駆動軸が心振れして同ポンプ及び中間歯車を損傷させたほか、潤滑油中に混入した摩耗粉によって同油こし器を目詰りさせ、主機主軸受メタルを焼き付かせるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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