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1999年(平成11年)

平成10年仙審第22号
    件名
漁船第三十八大勝丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第三十八大勝丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
主軸受メタル、台盤、クランク軸及びシリンダライナ、ピストン等損傷

    原因
主機潤滑油圧力低下の際の原因調査不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油圧力低下の原因調査が十分に行われなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月7日05時20分
日本海大和唯
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八大勝丸
総トン数 65.86トン
全長 31.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 551キロワット
回転数 毎分655
3 事実の経過
第三十八大勝丸(以下「大勝丸」という。)は、昭和54年5月に進水し、現所有者が平成4年8月に購入した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社(以下「ヤンマー」という。)が製造したT220-ST2型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに入れられた潤骨油が、潤滑油一次こし器(以下、潤滑油系統の機器については、「潤滑油」を省略する。)から主機直結歯車式のポンプ吸引・加圧され、二次こし器及び冷却器を順に径て、圧力調整弁で調圧されたのち入口主管に至り、同管から分岐して各主軸受などにそれぞれ給油され、各部を潤滑ないし冷却したのち、油だめに戻って循環するようになっており、入口主管の圧力が低下すると警報装置が作動するようになっていた。
なお、同警報装置は、出荷時には2.5キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)以下で作動するように調整されていたが、就航後いつからか2.0キロ以下で作動するように変更されていた。
ところで、圧力調整弁(以下「調圧弁」という。)は、組み込まれたスプリンクで円筒形の弁(以下「円筒弁」という。)が弁座に押しつけられるようになっており、同スプリングの張力は調圧弁頂部に設けられた調整ネジで加減できる構造で、主機の回転数が増加して潤骨油圧力がスプリングの張力以上になると円筒弁が開き、潤滑油の一部を油だめに戻すことによって圧力が調整されるようになっていた。したがって、円筒弁がゴミの噛み込みなどによって作動不良になると、主機の回転数が下がって同油圧力が低下しても同弁が閉まりきらず、入口主管の圧力が正規の圧力まで上昇しなくなるので、そのまま主機の運転を続けると、油量不足によって主機各部の潤滑が阻害されるおそれがあった。
大勝丸は、毎年入渠して年間の使用時間が約3,000時間の主機の整備を行っており、平成7年8月定期検査で入渠した際、来歴が不明でかつ摩耗にばらっきがあったシリンダライナを全数取り替えると同時に、来歴不明のまま購入後も取り替えていなかった主軸受を全数開放して受検するなどの整備を行い、出渠したのち、時期によって、甘えび漁、かに漁及びほたるいか漁にそれぞれ従事しながら操業を繰り返していた。
A受審人は、購入時から機関長として乗り組み、出港前に潤滑油量を点検し、航海中は4時間ごとを目処に機関室内の点検を行いながら主機の運転管理に従事しており、以前に潤骨油の圧力が低下した際、調圧弁の調整ネジを締め込んで同油圧力を調整した経験を有していた。
大勝丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、甘えび漁の目的で、同9年6月6日07時越前漁港を発し、主機の回転数を全速力前進の毎分650(以下、回転数は毎分のものを示す。)にかけ、同回転数における主機の潤滑油圧力が正常な状態で航走を続け、翌7日04時15分大和堆の漁場に至り、操業準備のためいったん主機を停止したのち、同時43分ごろ主機を始動して回転数を250とし、曳網を開始した。
ところで、A受審人は、主機の始動後に点検を行った際、潤滑油圧力が通常の約3キロから2.2キロに低下し、かつ圧力計の針が細かく振れているのを認めたが、いずれ回転を上げれば同油圧力も上昇するだろうと思い、調圧弁を調整してみるなど、同油圧力低下の原因調査を十分に行わなかったので、調圧弁が作動不良となうて開弁したままとなっていることに気付かぬまま、機関室から自室に戻って休息した。
その後、大勝丸は、主機の回転数を50回転ずつほぼ20分間隔で上昇させながら曳網中、回転数を300から350に上げたところ、低回転高負荷運転によって潤滑が阻害された主軸受メタルがクランク軸と焼き付き、05時20分北緯39度07.8分東経134度44.4分の地点において、異音を発するとともにミスト抜き管から白煙を吹き上げ、間もなく主機が自停した。
当時、天候ば曇で風力3の西風が吹き、海上には少し波があった。
自室で休息していたA受審人は、異音を聞いて直ちに機関室に急行し、主機がターニングできないことを確認したのち、クランク室内部の点検を行って主軸受メタルが焼損しているのを発見し、運転不能と判断して船長にその旨報告した。
損傷の結果、大勝丸は、航行不能となり、来援した僚船に曳航されて越前漁港に引きつけられ、精査の結果、主軸メタルのほか台盤、クランク軸及びシリンダライナやピストンにも損傷が発見されたので、修理に要する期間の関係から、のち主機は中古の機関に換装された。

(原因)
本件機関損傷は、始動した主機の潤滑油圧力が低下していた際、原因調査が不十分で、調圧弁が作動不良となって同油圧力が低下したまま低回転高負荷で運転が続けられ、主機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたり、始動した主機の潤滑油圧力が通常より低下しているのを認めた場合、そのまま運転を続けると主機各部の潤滑が阻害されるおそれがあったから、調圧弁を調整してみるなど、同油圧力低下の原因調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いずれ主機の回転数を上げれば同油圧力も上昇するだろうと思い、同油圧力低下の原因調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同油圧力が低下したまま低回転高負荷で主機の運転を続けて各部の潤滑阻害を招き、主軸受メタルを焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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