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1999年(平成11年)

平成11年仙審第19号
    件名
漁船第十八明幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第十八明幸丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
クランクピン軸受焼損、クランク軸、主軸受メタル、シリンダライナ及びピストン等損傷

    原因
集魚灯用発電機原動機の冷却清水量と潤滑油量の点検十分

    主文
本件機関損傷は、集魚灯用発電機原動機の冷却清水量と潤滑油量の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月13日01時30分
宮城県気仙沼港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八明幸丸
総トン数 138トン
全長 36.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット(定格出力)
回転数 毎分375(定格回転数)
3 事実の経過
第十八明幸丸(以下「明幸丸」という。)は、専ら流し網漁やはえ縄漁に使用することを目的として昭和57年7月に建造された鋼製漁船で、平成6年2月現所有者が購入後、いか一本釣り漁業用として、集魚灯が取り付けられるとともに船尾甲板上の網置場が発電機室に変更されるなどの改造工事が行われ、同室に容量450キロボルトアンペアの中古の集魚灯用発電機及び同原動機が据え付けられるなどしたのち、同年5月から操業に従事していた。
集魚灯用発電機原動機(以下「補機」という。)は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したS165-UTD型と称する、定格出力353キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、発電機室中央部の船首寄りに、左舷側に発電機を配して船横方向に据え付けられており、各シリンダには右舷側から順番号が付されていた。また、同機は、シリンダブロックが一体型で、同ブロックと挿入されたシリンダライナとによって冷却水ジャケットが形成されており、同ジャケット下部の水密は、シリンダライナ下部に装着された耐熱製のOリングで保たれるようになっていた。
補機の冷却清水系統は、清水タンクを兼ねる清水冷却器に溜められた清水が、直結駆動の冷却清水ポンプで吸引・加圧され、各シリンダライナ及びシリンダヘッドを冷却して出口集合管に至り、排気マニホールドを冷却したのち清水冷却器に戻って循環するようになっており、総張込量が約105リットルで、清水量は、同冷却器に取り付けられた液面計で簡単に点検できるようになっていた。
一方、潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに120リットルほど入れられた潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て各主軸受及びクランクピン軸受などに給油され、各部を潤滑ないし冷却したのち油だめに戻って循環するようになっており、同油量は、油面の上限と下限を示す2本の目盛が刻んである検油棒を、油量点検口に差し込んで検油するようになっていた。
ところで、A受審人は、同10年5月定期検査工事完了後に機関長として乗り組んで主機や補機等の運転管理を1人で行っていたもので、補機の冷却清水については、乗船当初は時々清水冷却器の液面計の点検を行っていたものの、冷却清水がほとんど減少しなかったので問題はないものと思い、以後はほとんど冷却清水量の点検を行っていなかった。また、潤滑油についても、乗船以来一度も同油を取り替えておらず、時々油量を点検して同油量が検油棒の上限と下限の両目盛の中間まで減少していれば新油を補給するようにしていたものの、減少した分だけ補給していたので問題はないものと思い、消費量を把握するような十分な点検を行っていなかった。
明幸丸は、前示の改造時に補機のシリンダライナOリングを取り替えたのち、北太平洋及び日本海の漁場で、月間260時間ほど同機を運転しながら操業を繰り返しているうち、運転が高負荷気味であったものか、いつしか、シリンダライナ下部Oリングが熱のために硬化して冷却清水がクランク室内に漏洩するようになり、潤滑油が、同水の混入によって著しく汚損・劣化する状況となっていた。
こうして、明幸丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、同11年1月12日11時00分宮城県気仙沼港を発し、同日14時ごろ同港沖合の漁場に至り、16時ごろから補機を運転して操業を行っていたところ、潤滑阻害によってクランクピン軸受メタルがクランクピンと焼き付くなどし、翌13日01時30分北緯38度45分東経142度14分の地点において、同機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
甲板上の漁獲物処理場で作業をしていたA受審人は、甲板員から連絡を受けて直ちに発電機室に急行し、補機を停止したのちクランク室のドアを開放して点検を行った結果、クランク室内に蒸気が立ち込めて潤滑油が乳化しているのを認めるとともに、クランクピン軸受が焼損しているのを発見し、さらに、ターニングが不能であったことから同機の運転は不能と判断し、その旨を漁労長に報告した。
損傷の結果、本船は、集魚灯を使用できなくなったので、主発電機で点灯可能な白熱灯に切り替えて何とか明け方まで操業を続け、のち気仙沼港に帰港して精査した結果、クランクピン軸受の焼損によってクランク軸が損傷していたほか、主軸受メタル、シリンダライナ及びピストン等にも損傷が発見され、のち損傷部品が新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、補機の運転管理にあたり、冷却清水量と潤滑油量の、点検が不十分で、シリンダライナ下部Oリングからの漏水が潤滑油中に混入し、同油の汚損・劣化が進行したまま、運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、補機の運転管理にあたる場合、冷却清水がシリンダライナ下部Oリングから漏洩して潤滑油中に混入するおそれがあるから、早期に漏洩を発見できるよう、冷却清水量と潤滑油の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、乗船当初は冷却清水がほとんど減少しなかったし、潤滑油は減少した分を補給していたので問題はないものと思い、冷却清水量と潤滑油量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却清水が潤滑油中に混入したことに気付かぬまま、運転を続けて各部の潤滑阻害を招き、クランクピン軸受メタルを焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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