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1999年(平成11年)

平成10年函審第56号
    件名
漁船第六十八美登丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第六十八美登丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
中間歯車軸フランジ部折損、中間歯車、クランク歯車、調速機駆動歯車など損傷

    原因
主機調時歯車装置の中間歯車軸支えの取付け不適切

    主文
本件機関損傷は、主機調時歯車装置の中間歯車軸支えの取付けが不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月27日16時15分
北海道襟裳岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八美登丸
総トン数 124.33トン
全長 37.66メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,397キロワット
回転数 毎分395
3 事実の経過
第六十八美登丸(以下「美登丸」という。)は、昭和52年5月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製の漁船で、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造した6LUN30と呼称するディーゼル機関を装備し、シリンダには船首側から順番号を付し、軸系には可変ピッチプロペラ装置を備え、主機及びプロペラ翼角を操舵室から遠隔操作できるようになっていた。
主機の調時歯車装置は、機関後部の7番主軸受とデフレクションベアリング(以下「8番主軸受」という。)との間に設けられ、両主軸受の間のクランク歯車より中間歯車を介してカム軸駆動歯車、調速機駆動歯車などが駆動されていた。
中間歯車は、ピッチ円直径436ミリメートル(以下「ミリ」という。)、歯幅80ミリ、モジュール4の平歯車で、同歯車ボスの軸受部にはブッシュが組み込まれていた。そして、中間歯車軸は、直径65ミリ長さ126.5ミリの軸部と、その軸の一端が直径240ミリ厚さ0.5ミリの円板状のフランジ部とからなる一体物の鍛造品で、フランジ部が2本の位置決め用平行ピン(以下「ノックピン」という。)と5本の押さえボルトで7番主軸受寄りの架構壁に取り付けられ、同歯車軸の他端が調時歯車装置箱に取り付けられた中間歯車軸支えによって支持されていた。
また、中間歯車の中間歯車軸への装着は、同歯車軸に輪型のスラストカラー、中間歯車、同カラーを順に嵌(は)め込み、中間歯車軸支えの筒状の部分(以下「嵌(かん)合部」という。)を同軸に嵌め込んだのち、同歯車軸支えのフランジ部分を調時歯車装置箱に2本のノックピンを装着したうえ、6本の押さえボルト(以下「取付けボルト」という。)で取り付けるものであった。なお、中間歯車ボスの軸受ブッシュ部、中間歯車軸支えの嵌合部及び各歯車の歯面の潤滑は、主機システム油系統からの注油で行われるようになっていた。
ところで、中間歯車軸支えは、内径67ミリ外径95ミリ長さ28ミリの嵌合部と、直径176ミリ厚さ15ミリの円板状のフランジ部とからなる一体物の鋳鉄品で、フランジ部には、直径18ミリのボルト穴6個と直径8ミリのノックピン穴2個が設けられ、また、取付けボルトの軸部は、ねじ部及び円筒部の外径がともに16ミリで、同歯車軸支えフランジ部のボルト穴の径より2ミリ小さく、同歯車軸支えを調時歯車装置箱へ取り付けるに当たっては、中間歯車軸と同歯車軸支えとの軸心を一致させるためノックピンを確実に取り付ける必要があった。
A受審人は、美登丸に就航以来機関長として乗り組み、調時歯車装置については、定期検査を受検する際の工事において、同装置箱を開放して各歯車を点検していたもので、平成9年7月の中間検査において、主機の主軸受メタルを受検することになり、自ら8番主軸受の軸受ケーシング及び軸受冠を取り外す作業に当たったところ、軸受ケーシングの上方至近に中間歯車軸支えがあって同ケーシングを取り外しにくかったことから、同歯車軸支えを取り外したのち同ケーシング及び同軸受冠を取り外した。
そして、A受審人は、主軸受メタルを受検し、8番主軸受の軸受冠及び軸受ケーシングを復旧したのち、調時歯車装置箱へ中間歯車軸支えを取り付ける作業に当たったが、同歯車軸支えを適切に取り付けることなく、ノックピンの装着を忘れたので中間歯車軸と同歯車軸支えとの軸心が一致せず、同歯車軸と同歯車軸支えの嵌合部が接触した状態か、あるいはほとんど隙間のない状態で取付けボルトが締め付けられ、そのあと2本の取付けボルトを1組として、同ボルト頭部の止め穴に針金を通し回り止めを施して同作業を終えた。
美登丸は、前示の中間検査に伴う工事を終了し、同年8月中ごろ操業を再開したところ、中間歯車軸と中間歯車軸受支え嵌合部とが強く振動接触した状態で運転が続けられ、そのうちに、取付けボルトが緩みだして回り止めが切れるとともに嵌合部に亀(き)裂を生じて同部の左側半分が破断した。このため中間歯車軸は、同歯車軸のフランジ側だけで支持される片持ちはりの状態となって歯車からの回転による荷重を受け、やがて、同歯車軸フランジの根元に曲げ応力の集中により亀裂を生じ、これが運転中に進行した。
こうして、美登丸は、A受審人ほか12人が乗り組み、操業の目的で、同年10月26日22時30分釧路港を発航し、翌27日05時5分襟裳岬北東方沖合の漁場に至って操業を開始したところ、中間歯車軸の前示亀裂が更に進行して折損し、主機を回転数毎分390、プロペラ翼角前進10度にかけて投網中、16時15分広尾灯台から真方位107度23海里の地点において、調速機が作動不良となって主機の回転がハンチング状態となった。
当時、天候は曇で風力4の西北西の風が吹き、海上にはやや波があった。
A受審人は、機関室で当直中に主機の運転不調を認め、このことを操舵室に連絡するとともに、燃料ハンドルを手で抑えて低速で運転しながら、投網を中止して急ぎ揚網したのち主機を停止し、各部点検のうえ、調速機の故障と判断して予備の調速機と交換したものの、ハンチング状況が変わらないので、運転継続は困難と判断し、その旨を船長に報告した。
美登丸は、救助を求め、付近で操業中の僚船により曳航(えいこう)されて釧路港に入港し、修理業者による調査の結果、前記損傷のほか中間歯車、クランク歯車、調速機駆動歯車などが損傷しており、のち損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機調時歯車装置の中間歯車軸支えの取付けが不適切で、同歯車軸支えが中間歯車軸との振動接触により破損し、同歯車軸が片持ちはり状態で運転が続けられ、同歯車軸のフランジ根元に曲げ応力が集中して亀裂折損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機調時歯車装置の中間歯車軸支えの取外し復旧に当たる場合、中間歯車軸と同歯車軸支えとの軸心が一致しない状態で復旧すると、運転中に同歯車軸などが損傷するおそれがあったから、軸心が一致するよう、ノックピンを装着して同歯車軸支えの取付けを適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ノックピンの装着を忘れて同歯車軸支えの取付けを適切に行わなかった職務上の過失により、同歯車軸支えが同歯車軸との振動接触により破損する事態を招き、同歯車軸が片持ちはり状態で運転が続けられて折損するとともに、中間歯車、クランク歯車及び調速機駆動歯車を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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